第31話 彼女との出合い〜尚武サイド 2

 道場の夏合宿では、琴音の水着姿にクラクラしたし、夏祭りでは浴衣姿にドキッとした。

 花岡が懲りずに琴音にアピールする度にイライラしてたっけ。でも、琴音の花岡に対する完全拒否な態度は変わらなかったし、俺に助けを求めてきたりして、信頼されてるってすげー嬉しかった。花岡に雰囲気読め(二人っきりにさせろ)ってしつこく言われてたけど、あえて無視して盾になるように行動した。


 特に花火の時はヤバかった。

 花岡に手を握られて困ったように俺の袖にすがってきた琴音。それを見た途端、頭の血管切れるかと思った。


 俺の琴音に触んなッ!


 って、この時は俺のではなかったんだけど、ひたすら爆発しそうになる感情を抑えて琴音に聞いた。


「嫌なのか? 」


 琴音は何度もコクコクうなづいたから、俺はも何も躊躇わなかった。花岡の雰囲気なんか読んでやるものか!


「触るからな」


 俺は力業で花岡に捕まれている方の琴音の腕を引っ張った。花岡の手はすんなり離れたが、その勢いで琴音を胸に抱き寄せてしまう形になった。

 花岡君はいきなり手が離れたかと思うと、琴音が俺の胸の中に収まっているのを見て、整った顔でポカンとしていたし、金沢は何か勘違いしたのか、「あら、イヤですわ」と頬を染めながら「二人はそうでしたのね」とつぶやいている。


「……尚武、さすがにそれは」

「もしかして私達お邪魔でしたかしら。お邪魔でしたか。お邪魔ですわね。お邪魔ですって」


 いや、嫌がられてるのに手を握った花岡には言われたくないし、金沢のその楽しそうな笑顔は何だ。

 そして何より、何だこの良い香りは?!

 体中の血液がヤバイとこに集まりそうだ。

 琴音はビックリしてか固まってしまい、でも俺の腕の中から逃げようとしない。

 抱きしめたい、離したくない。でもただの友達だし、そんなことして友達ですらいられなくなったら……。


 だから抱きしめないけど、手を離すこともできなかった。


「いい加減離せよ。同意なく抱き寄せるとか、琴音ちゃんが困ってるだろ」


 いや、それを花岡が言うな。


「ほら琴音ちゃん」


 花岡の手が琴音の方へ伸びると、琴音はそれから逃れる為か俺に隙間なく密着してきた。つい琴音の肩を抱くように腕を回し、花岡君の手から遠ざけた。


「嫌か? 」


 うなづいてくれるなと思いながら聞くと、琴音は悩むことなく即答してくれる。


「尚武君は嫌じゃないよ」

「あらあらまぁまぁ、琴ちゃんたら尚武君とは普通にお喋りすると思ってましたけれど、やっぱりそうだったんですわね」

「そうだったって何が? 」


 花岡は口元は笑みを浮かべているが、目は全く笑っていない。いや、俺もよくわかんねぇけど、って何がだ?


「それは私の口からは言えませんわ。ほら最後の打ち上げ花火みたいですわよ」


 意味わかんねッと思いながら、花火を見てるようで見ていなくて、いつの間にか花火が終わっていた。


 それから文化祭の時もヤバかった。

 琴音の女子校に行ったんだけど、琴音のクラスは仮装喫茶みたいなのやってて、琴音の黒子姿は下手なドレス姿よりなんか色っぽかった。

 黒って女の子をグッと大人びて見せるよな……なんて、もう俺は琴音しか見えてなかった。


 何の話だったかな、いきなり金沢が言ったんだよな。


「琴ちゃん、本当尚武君の前だと自然ですわよね」

「そうかな? 」

「そうですわよ。琴ちゃんけっこう人見知り激しいタイプですもの。特に男性には。でも、尚武君にはけっこう早くから気を許してますわよね」

「つまりは男として意識してないからじゃん。問題外ってやつ」


 花岡の一言に、無表情ながら凹む。おまえに言われなくてもそんなこと十分わかってんだよ。

 頭ん中じゃ呼び捨てにして、色々妄想もしてるヤバイ俺だけど、自分が琴音に好かれる訳ない、男として意識される訳ない、友達になれただけ凄えんだって理解してる。妄想は妄想であって、現実になる訳ねぇんだよ。抱きしめたりそれ以上のことを許される立場になんかなれないってな。だからいまだに名前も呼べなくて、あんたとかおまえとか呼んでたりする。

 情けねえな、俺って。


「尚武君は人として尊敬できるよ。人の嫌がること言ったりやったりしないって信用できるもん。だから、警戒する必要なんかないでしょ。男の子としても素敵だなって思うよ。逆に私みたいな子供っぽいのは、尚武君的にアウトなんじゃないかなって。恋愛対象にならないんじゃないかって心配しちゃ……う……」


 恋愛対象っつったか?

 えっ?

 空耳?

 心配って何だ?


 俺の頭の中では何回も今の琴音のリピートしてた。


「あらあらまぁまぁ、琴ちゃんは尚武君に恋愛対象として見て欲しいんですのね! お付き合いするのかしら?! 」

「いやいや、尚武君に迷惑だからね。花ちゃん、突っ走らないで。それに、そういうのはもっと大人になってからだよ」


 大人になったら……って、俺でもアリなのか?!

 いや、そんな訳ねぇな。いや、アリか? アリなのか!

 大人っていつだ?

 十八か?二十か?

 男が結婚できるのは十八だから十八だな。

 なら、十八になったらすぐ結婚だな。絶対大事にする!


 俺の頭の中では、ウエディングドレスを着た琴音を抱き上げる自分の姿が見えていた。


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