第30話 彼女との出合い〜尚武サイド 1
「お断りいつします」
「友達からでもいいんで、お願いします! 」
「間に合ってます」
「一度デートして、僕のこと知ってください。それからでも遅くないでしょ」
告白の現場に行き合わせてしまった。
見ると男は小学校からの同級生の花岡で、しかもいつもは告白される側の花岡が必死にくどいていた。
この道を通らないと本屋に行けないし、かと言って知り合いの告白現場を素知らぬ顔して素通りするのも気まずい。
とりあえず様子を伺っていると、花岡が嫌がる女の子の腕をつかんだのが目に入った。
「離して! 」
女の子の拒否する声に、思わず一歩足が前に出ていた。大股で花岡に近づきその肩をガッシリとつかんだ。
「花岡、おまえ部活さぼったろ。宮田先輩が激怒だったぞ」
「オワッ、尚武。え、いや、親戚のお通夜が。だからさぼったんじゃ……」
「通夜の前にナンパ? 」
「ナンパじゃないよ。たまたま琴音ちゃんを見かけて、一人だったから告白するチャンスだと」
「部活さぼって? 」
「だから、さぼりじゃないって」
ちょうどいいとこに宮田先輩に似た体型の高校生が歩いて来たのを見つけ、宮田先輩だと言うと、花岡は女の子に何やらカードのような物を押し付けて走って逃げて行った。
「あの……」
女の子が困ったようにカードを見つめ、どうしようか逡巡した末に俺に声をかけてきた。
近所の女子校の制服を着た女の子は、学生鞄を持っているから多分中学生なんだろう。小柄な体型は吹けば飛んでいってしまいそうだ。ショートカットの頭は小さくて、顔はビックリするくらい小さくて整っていた。気の弱そうな儚げな雰囲気で、いかにも守ってあげなきゃと思わせるような少女だった。
俺みたいなゴツイのが近くにいたら怖がらせちまうと思い、とりあえず花岡の暴挙を謝って去ろうとした。
「なんか、あいつが迷惑かけた。悪い」
「まぁ、迷惑は凄く迷惑でした」
きっぱりはっきり言う女の子に少し驚いたが、見た目とのギャップに面白い子だなと思った。さらに謝ると、名前を名乗られ呼びにくい名字だから名前呼びでかまわないと言われた。
今給黎琴音。
それが女の子の名前だった。
さらに俺の名前を聞かれて戸惑ってしまう。デカイ図体でしかも厳しい顔、それこそ
「……
「小鳥……」
「笑ってもいいぞ。大抵みんな似合わないって言うしな」
「わ……笑わないよ。可愛い名字じゃない。でも、まぁ、尚武って名前はあなたにぴったりな気がする。今時のキラキラしい名前より全然いいと思う」
話を合わせているとか気を使っているとかじゃなく、俺の名前を気に入ったと笑ってくれた琴音にドキリとした。正直、今まで女子を見て可愛いと思ったことがなかった。俺の見た目のせいなんだけど、ビクビク怯えられたり、ひくついた笑顔を向けられても、怖がらせて悪いなくらいにしか思わなかったから。
それが、まるで怯えのない純真無垢な笑顔を向けられて、全力疾走した後くらいに心臓がバクついた。
何だこれ? この子、無茶苦茶可愛いな。
「そりゃ……どうも? 」
「何で疑問形なのよ」
「いや、なんとなく。じゃあ、俺行くから」
これ以上琴音の側にいたら心臓が破裂すると思い、とりあえず逃げ出すことにした。表情は無表情貫いたけど、ヤバイんだって心拍数。
すると、制服をつかまれて制止された。
「ちょっと待った! あのね、申し訳ないんだけど、これをさっきの男の子に返しといてくれないかな」
「ああ、あいつ、こんなの用意してたのか」
「持っているのも嫌だし、個人情報だから捨てるのも……ね。本人に返すのがいいと思うの」
「まぁ、そうだな。わかった、俺からあいつに渡しとく」
「あの、ついでに、本当に無理だって伝えてもらえないかな」
「これ返せばわかんないか? 」
「さっきも何度も断ったの。でも、全然聞いてくれなかった」
「あー……、まぁ、そういうとこあるよな。あいつ、そんなに駄目か? けっこうモテるみたいだけど」
「生理的に無理」
花岡は無茶苦茶モテる。
いわゆるジャニーズ顔って言うのか、まだ少年っぽさは抜けないがイケメンだ。背も低めだが、まだまだこれから伸びるだろう。その花岡を生理的に無理って、どんだけ理想が高いんだろう。俺なんか論外ってーか、眼中にもないだろうな。
「まぁ、言うくらいなら言ってもいいけど、第三者に言われて諦めるかな」
「諦めてもらわないと困る! 本当無理だから。私、男嫌いなの。あ、でも、別に女の子が好きとかじゃないからね」
「わかった。あんたに付き合う気がないってことは伝えてみる」
「お願いします」
これが俺と琴音の出会いだった。
それから本屋で再開し、琴音とその友達の金沢、花岡に俺でつるんで過ごすことが増えた。うちの道場にも来ることになって、華奢でいかにもか弱そうな琴音が、予想外に強いことには正直驚いた。
口数が少なくておとなしげな見た目で、実は気が強くて負けず嫌いなとことか、かと言えばちょっとしたことで真っ赤になって照れる姿とか、色んな琴音を見る度に惹かれる気持ちはどうしようもなかった。
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