【六】スパっと切れる迷刀?

~~~『不運☆品目』 とは?~~~

「第X位、XX座。アンラッキーアイテムは・・・」と、星座ごとにを伝えるラジオ番組。明け方に1度だけ放送される。

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 今日の彼のアンラッキーアイテムは 『よく切れる刃物』 。いかにもアンラッキーそうだ。彼は社会人2年目の若者。同い年の彼女がいる。彼女が家に遊びに来るときは手料理を作ってもらえる。しかし、自分は料理は作らない。


 今日は彼女が来る予定はないので家で刃物を使うことはない。自ら近寄らない限り大丈夫なはずだった。


 仕事が終わり、自宅のワンルームマンションに帰宅したのは夜8時ごろ。

「今日は好きな映画でも見てゆっくりしよう」

 そう思った時にスマホが鳴った。彼女だ。

「メッセージではなく電話?」

 不審に思いすぐに出る。

「ごめんだけど、直ぐにマンションの前に・・・・・・出てきてくれない?」

「どうした」

「・・・・・・A君がいるの。ただ事ではない表情で」

 彼女は彼を驚かせようとでも思って突然、訪問しようとしていた。

 しかし、そこでAに出会ってしまった。Aは彼女に付きまとっているストーカーまがいの奴だ。高校時代の友人らしい。


 彼は急いで靴をいて飛び出した。


 マンションの前にはAと、少し離れた位置に震えて立つ彼女。

「おい、どういうつもりだ」

 彼はすごんだ。

「オレの彼女を取るんじゃねえ」

 Aはそう言った。そして、背中にひもでぶら下げた長い何かに手をやった。

「か、刀?」

 刃渡はわたりが1mはありそうな刀だ。怪しい光を放っている。

「そうだよ。我が家に代々伝わる名刀を拝借はいしゃくしてきたのさ。この刀で切れないものはない。切られた者は、その事すら気付かないほどの切れ味らしいぜ」


 やばい。 『よく切れる刃物』 はこんな形でやってくるのか。けられないじゃないか。彼は彼女の前に立ちはだかった。彼女だけは守らねば。


「うおおおおぉぉぉー」

 Aは刀を振りかざし突進してきた。


 腹? 腹を切られた・・・・・・気がした。一瞬、刀が腹を真横に通り過ぎるのを目撃した。


 Aは刀をひと振りしてサヤに納めた。そして、背中を向けた歩いて遠ざかっていく。

「これで、こいつへの未練もなくなるだろう。別れの時間をやる。また、迎えにくる」

 そう言い残して去っていった。


「だ、大丈夫?」

 彼女が我に返って近付いた。

「い、痛くないんだけど」

 と言ったのも束の間、

「ひ・・・・・ひぃーー」

 彼女が聞いたこともない声で悲鳴を上げた。

 

 彼は腹を見た。ずれてる。腹が丸太を真横に切ったように数cmずれている。切られたことに気付かないというのは本当だったのだ。

「お、おい。ぐ戻してくれ。か、体がずれてしまう」

 彼女は彼の上半身をそっと元の位置に戻した。不思議と血が出ていない。


「お、オレは死ぬのか?」

「だ、大丈夫・・・・・・かもしれない。私に考えがあるの。このまま家に戻りましょう」

 彼女に支えられてゆっくりと部屋に戻った。


 なぜか彼女は至って冷静だ。

「言う通りにして。きっと治るから」

 死への恐怖で声が出ない彼に彼女はやさしく話しかける。

「経験したことない? 

「きれいに切れた傷は軟膏なんこうを塗って固定してたらぐに治るの。おばあちゃんが言ってた。包帯ほうたい軟膏なんこうを買ってくる。それまでテープで体を仮止めするから。絶対に動かないで」

 彼女はガムテープをはがしやすいように短く切って腹に何か所かっていった。そして、急いで薬局に走った。彼は立ったまま壁に手をついて動かないようにした。


 1週間後。傷はだいぶ目立たなくなった。彼は病欠との理由で会社を休んだ。 「軟膏なんこうを塗って正しい位置に固定する」 これをしっかり守った。彼女も休みを取り昼夜問わず彼の体がズレていないか確認をした。


 Aについては彼女が警察に連絡し、銃刀法違反で逮捕された。そのため、乗りこまれる危険はなかった。

 

 彼は余裕が出てきたのでネットで例の名刀について調べた。


すさまじい切れ味のその名刀。しかし、切れ味の凄まじさ故に切られた際の対策は知れ渡っていた。しかも、1度使うとがないと切れ味は戻らない。そのため、戦場では無用の長物ちょうぶつだった


「こりゃ、名刀じゃなく迷刀だな」

 彼はうまいこと言った。それにしても・・・・・・自分一人だったら命がなかったかもと思うと彼女には感謝しかなかった。


(終)

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