【五】選択の価値は
~~~『不運☆品目』とは?~~~
「第X位、XX座。アンラッキーアイテムは・・・」と、星座ごとに避けるべきアイテムを伝えるラジオ番組。明け方に1度だけ放送される。
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【不運☆品目 『メス』 ×
『しし座のアンラッキーアイテムはメス! オス、メスのメスじゃないですよお。お腹をパッカリ切っちゃうメスです。関係あるのはお医者さんくらいかな? 今日はメスを避けて生活しましょう!』
かわいらしい声優の声がラジオから聞こえた。
「ついに、きたか」
欲しいものを聞かれたとき 「ラジオ」 と答えた。テレビは嫌いだった。 『不運☆品目』 はこの部屋に来てから知った。毎日、アンラッキーアイテムを聞いた。しかし、拘置所で与えられるものは決まっているのでほとんど意味がなかった。
「オレは
また独り言。話し相手がいない独居房では独り言を言わないと気が狂いそうになる。彼は事実、無罪だった。最初の取り調べで刑事に脅されて嘘の供述をしてしまった。その後、否認したが遅かった。直接証拠はないが状況証拠と供述で刑が確定してしまった。
「食事だぞ」
ドアについた小さな扉から食事が提供された。
「あざす」
食事は焼き魚とごはん、味噌汁。その横にビニールに入った
「さあ、いただきますか」
ビニールを
「ん?」
ビニールの中に入っていたのは1本のテーブルナイフ。
「まさかと思ったが本当に来たか。 『メス』 と言われればそう見えなくもねえな」
自殺防止、凶器になるなどの理由で金属製のナイフやフォークが出されることはない。誤りか、いたずらかは分からない。しかし、ラジオを聞いてから、
「妻には悪いことをしたなあ」
寝転がって目を閉じて考えた。
無実の人間の人生を狂わせた警察や国には言葉で表せない恨みがあった。1時間後、
コンコン。ノックの音。
「夕食だぞ」
小窓が開き看守の目元がだけが
その先には
「しっかり見てろよ」
そう言って
「おい、何をしている! やめろ!」
― 結末 其の壱
ナイフは
「警部、本当に自殺なんですよね。どうすればこんなことになるんですか?」
「全くだ。首の皮一枚しか繋がっていない。自殺でここまで切れるか?」
現場検証が行われていた。彼らの目の前には惨殺体。周囲は血しぶきで真っ赤だ。看守が見ているので他殺は有り得ない。
「何かに相当、恨みがあったんですかね」
「国や警察だろ」
警部が顎でテーブルの上のノートを指した。部下の刑事が手袋のまま確認した。そこには、冤罪の恨みが延々と書かれていた。そして、こうも書かれた。
―死刑確定から執行までは平均5年。確定しているなら即座に執行しろ。法務大臣の判断で執行が決まるのはおかしい。オレは誰かに命を握られるくらいなら意思ある死を選ぶ
遺体は首を仮で縫合して妻に引き合わせられた。妻はノートの最期にある 「お前が頑張ってくれているのにスマン。もう限界だ」 との記述を見て泣き崩れた。
―10年。妻が執念で勝ち取った無罪判決までに掛かった期間だ。
「これでやっとあなたに会いに行ける」
その手にはテーブルナイフが握られていた。ナイフは夕日の光を反射して一瞬、キラッと光った。
― 結末 其の弐
「おい、何をしている! やめろ!」
看守が叫んだ。
「・・・・・・冗談だよ。ダメだろ、死刑囚にこんなもの与えたら」
「どこから盗んだ!」
「食事に付いてきたんだよ。ちゃんとチェックしないとあんたの首がとぶぞ」
その後、しばらく死刑は執行されなかった。
「また家族で暮らせる」
それだけで
出所時は 「また一緒だね」 と言っていた妻だったが、最近はめっきり笑わなくなった。今日も夕食時に妻が言った。
「私の人生、なんでこうなっちゃったんだろう」
返す言葉が無かった。あの時、ひと思いにテーブルナイフで・・・・・・・その方が妻は幸せだったのだろうか。しかし、妻の努力で勝ち取った無罪を終わらせる勇気は無かった。薄っぺらいカツを切るナイフにぼんやりと
― 結末 其の参
別の結末はあなたの想像の中に。
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