【七】不運ファイター

~~~『不運☆品目』 とは?~~~

「第X位、XX座。アンラッキーアイテムは・・・」と、星座ごとにを伝えるラジオ番組。明け方に1度だけ放送される。

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 マサキ、20歳。大学生、いて座で実家暮らし。SNSの 『#不運☆品目』 では有名人だ。


 彼は、ラジオ番組 『不運☆品目』 で放送された 『いて座』のアンラッキーアイテムを避けるどころかえて使ってSNSでレポートするのだ。アンラッキーアイテム避ける人が多い中、逆に戦いをいどむことから 『不運ファイター』 とあだ名がついた。


 SNSの利用者の中にはこのレポートを楽しみにしている者もいた。大抵たいていは大きな不運にはならなかった。不運が重なっても致命的なレベルには至らなかった。


 マサキがいつものようにSNSをチェックしたら、ちょっとした祭りになっていた。


―ワースト いて座 こんなアイテムありえねえ

―『不運☆品目』 ついに不運ファイターに宣戦布告せんせんふこくか?


 マサキはスマホをスクロールしてアイテムをアップしたメッセージを探す。

「確かに、これは・・・・・・」

 

―ワースト いて座 アンラッキーアイテム 呪いのわら人形


 マサキの行動が番組にバレたのかもしれない。アイテムをけなくても大丈夫だと広まると番組の威信いしんに関わる。「だから嫌がらせか?」 マサキは不審ふしんに思った。


 マサキは『不運☆品目』が嫌いなわけではない。着想が面白いとすら思っている。ただ、アイテム1つで運勢は変わらないと思っていたのだ。「そんなに気にすることはない」 というメッセージのつもりでアンラッキーアイテムを使ってレポートをしていた。


 しかし、今回はさすがに不吉な気がした。マサキの心は揺れ動いた。


―戦え! 不運ファイター

 SNSは盛り上がっている。


「ギリギリまでやろう」

 マサキは心を固めた。

 リアルなわら人形だと恐ろしいので、段ボールとガムテープで簡易なわら人形を作成した。


「撮影場所、どこにしようかな?」

 日中、学校で昼食を取りながら考えていると、偶然、友人がこんなことを言った。

「10年前、学校近くにある神社で人が亡くなったらしいぜ。駐車場に停めた車の中で人が殺されたって」


 マサキはネットで調べてみた。友人の話は誤りだった。真相は男女の自殺だったようだ。ネットで初めて知り合った男女が車の中で練炭れんたんいて・・・ってやつだ。


「まあ、明るいうちなら大丈夫だろう。殺人じゃないし」

 マサキはそう考え神社を撮影場所にすることにした。


 夕方、マサキは古びた神社の境内の前にいた。


 呪いを掛けたい相手の名前を書いた紙を中に埋め込むのが本筋だがそこまでするつもりはなかった。白い短冊状の紙に 「XXXX」 と特定の人の名前にならないような文字を書いて人形に貼った。


「結構リアルなのでフォロワーも盛り上がってくれるだろう」

 周囲は夕闇に包まれ始めていた。


 五寸釘ごすんくぎをで打ち付ける代わりに画鋲がびょうで簡易わら人形を木に張り付けた。

「写真を撮って早く終わらせよう」

 マサキはスマホのライトをオンにして簡易わら人形に向けた。


「・・・・・・・!!」

 マサキは息をみ、後ずさりをした。

 スマホの画面越しに映った簡易わら人形。白い紙に掛かれていたのは・・・・・・


「ま さ き」

 恐怖のあまりスマホの画面をオフした。


 そして、改めて直接、簡易わら人形を見た。

「XXXX」

 紙は元の通りだった。気のせいか? 早く終わらせよう。


 おびえながら改めてスマホのカメラをオン。すると・・・・・・。

「ま さ き」

 画面越しに写った紙には確かにそう書いてある。


「ひっ・・・ヒー」

 マサキは短く悲鳴を上げた。


 今度は手が動かない。いや、体自体が動かない。スマホを簡易わら人形に向けたまま目をらすこともできない。


 その時―


らないのォ

 背後から女の声がした。


―早くりなよォ

 背後の別の方向から低い男の声。


 パシャ。指が勝手に動いてスマホの撮影ボタンを押した。


女の声 ―早く、アップしなよォ

男の声 ―みんな待ってるよォ


―みんな、お待たせ 不運ファイター レポートします!

 また、指が勝手に動いてSNSに打ち込まれた。

 さらに、写真のアップまで・・・・・・。


 声はやまない。


女の声 ―まさき・・・・・だったよなァ

男の声 ―そうだったよォ

女の声 ―死ぬっていってたのに逃げたよォ

男の声 ―あいつが練炭れんたんいたよォ 

男の声 ―オレ、死ぬ気なんてなかったのにィ

女の声 ―アタシも話し聞いて欲しかっただけだよォ

二人の声 ―憎いよォ まさき 憎いよォ


 10年前に車に集まったのは二人じゃなかった! もう一人いたのだ。

「そ、そのマサキはおれじゃねえ!」

 マサキは大声で叫んだ。

「!?」

 突然、体が動くようになった。


 マサキは走った。簡易わら人形を回収する余裕は無かった。初めて感じた底知れぬ悪寒おかんと恐怖。やめれば良かったと後悔した。


女の声 ―また逃げるのまさきィー

男の声 ―今度は逃さなないよォ まさきィー

 神社を離れても声が聞こえ始めた。

「やめてくれー」

 マサキは手で耳を塞ぎながら一目散いちもくさんに自宅を目指した。



「おかえり、マサキ」

 玄関のドアが閉じる音を聞いてキッチンにいた母親が言う。

 バタッ。台所に続くドアが開いた。

「マサキ? マ、マサキッ?」

 マサキは普通の表情じゃなかった。目がうつろで口はうっすら笑って半開き。ヨダレもれている。

「ど、どうしたの、マサキ!」


―また逃げるのォ

―今度は逃さなないよォ

 マサキはボソボソとつぶやく。そして、自分のスマホを取り出して床にたたきつけた。ガシャ。画面が割れた。マサキはそのスマホをグチャグチャになるまで踏みつけた。


―また逃げるのォ

―今度は逃さなないよォ

 つぶやきながら二階の自分の部屋へ向かった。母親は恐怖で動けなかった。


 ガシャ、ドンドンドン・・・・・・。二階から激しい音がする。

 パソコン、ラジオ、デジカメ、マサキは部屋のあらゆる電子装置を破壊した。

 そして、マサキは部屋の内側から鍵をかけて二度と出てこなかった。



 その頃、SNSは荒れていた。

―不運ファイター  マジでやったんだ  ワ〇人形

―やはり 神!

―写真ブレてるけど

―その後の反応ないけど 呪われた? 心配

―おーい 不運ファイター!


 

 翌日のSNSにて。

―不運ファイター 生まれ変わりましたァ

―不運ファイターは人を探してるよォ 名前はァ―

 

 誰?


(終)

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