第34話:お祭り騒ぎ:自慢する気でやったんじゃねえよ

イナゴの大量発生。

どこを見ても視界が消えるくらいビュンビュン八坂の噂が飛びっている。

校舎が、がなり立て、ズンズン揺れる。

みんな、あのビラを手にしている。

朝の湿気ででられた黒インクの油のにおいがムンムンと鼻を締めつける。

チャラチャラバサバサと、ビラをたたかせる音。

それがたばになって轟々ごうごうと壁を揺らす。

みんな、ニタニタキョロキョロ、周りを気にしながら目を笑わせて泳がせている。

口が狂った鳩時計のようにビービーと鳴り動き、両端からつばの泡をふくらませている。

噛み過ぎたガムの固く酸っぱい味だ。

あからさまにケラケラ笑う者。

事態を把握はあくできずまゆひそめる者。

見て見ぬ振りをする者。

男子はゲラゲラ踊り狂っている。

1・2年生は、みんな、冷やかし。

残りは「かわいそー」と無責任な声援。

祭だ。

生贄いけにえがいい、最高に気が利いている。

階段の踊り場の陰で、八坂に泣かされた連中が

「当然だよね」

と隠れキリシタンのようにヒソヒソと肩を寄せ合っている。

教室へ向かう。

近付くにつれ、音が消えていく。

耳が冷たい。

床が固く重い。

四方の壁に押しつぶされそうだ。

空気が張りつめて皮膚をピリピリとさせる。

みんな、誰とも目を合わさない。

カチカチのロボット。

そりゃそうだ。ヤクザの組長がやられた。

八つ当たりのとばっちりの流れだまが飛んできたらたまったもんじゃない。

犯人に仕立て上げられたらかなわない。

教室に入る。

人の息が止まっている。

二酸化炭素の茂みで鼻が曲がる。

男子はいない。

みんな、外で笑っている。

女の塊でモワモワえてる。

そこに干潮かんちょうで浮き出た海の孤島。

八坂たちだ。

西野の胸でギャーギャー泣いている。

それを「組長の醜態しゅうたいをみるな!」と言わんばかりに、3人組が取り囲んでにらみをかせている。


へへ、美しいぜ。


泣くより他にあるか?。

みんな、そうやって泣かされてきたんだ。

ざまあみろ。

ここにはビラは一枚もない。

みんな、知らん顔してただおびえている。

この日は、朝から職員会議が開かれ、一日中自習になった。

みんな、勉強なんか手につかない。

当然だろ。

私は、明日からの演劇部のすえだけをじっと考えていた。

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