第24話:膿だし:最後に残るもの

反西野派の部員が大量に辞めた。

水谷を支えてきた部員たちだ。

「そう来たか」と言うより「ついにやったか」と言う感じ。

役者の一部は責任感で残った。

しかし、スタッフが大幅に減った。

これで19人。

残ったのは、私のような役まわり的に中立を取れるヤツらと、西野派の連中、

そして、水谷を支えるわずかばかりのきの部員。

落ち込んだと言うより、むしろ清々せいせいした。

今までがいびつな状態だったんだ。

いつ折れてもおかしくない、限界までしなりに撓った竹のようなものだった。

バキッと真っ二つに折れてくれてスッキリした。

薄靄うすもやが晴れたという感じか。

しかし、肉体的にはそうはいかない。

物理的に仕事量が追い付かない。

人が足りない。

ペタペタ足音が、ドタドタとがなりたてる。

モワモワ舞い上がる汗ばんだほこり

ドーランのあぶらせ返るにおい。

ビュンビュン飛びう人の声。

赤や黄色の衣装がガサガサ音を立てて右から左へ。

目がまわる。

役者も裏方も手弁当てべんとうで舞台を支える。

全員役者、全員裏方。

浅倉目当ての連中も、さすがに「マズい」と思ったらしく、夜まで残業した。

大量の水を買ってくる私。

すぐに無くなる。

みんな、ガムを噛んでっぱい口のかわきをごまかす。

クチャクチャ気怠けだるい音はしない。

カツカツ忙しそうに歯が当たる筋肉質な音。

100m走のよう。

水谷は、シャーシャー超高速自転車。

まるで、倒産間際の中小企業の社長みたいだ。

営業やって経理やって人事やって、時間が余れば配送だってこなす。

まさにフル回転。

1年生の幕引きの女にまで台詞せりふを仕込んでいた。

「何かやることないのォ」

西野が寝ぼけたごろつきのように言う。

頼むから黙って見ててくれ、この、しゃくれあご

余計ややこしくなる。

そう言えば、こいつ、誰かに似てると思ったら、歌手のマドンナに似てやがる。

ホームベースづらでしゃくれたところなんてそっくりだ。

テメエもちょっとは十字架背負え。

こんだけき乱しておいて、何の罪悪感も生まれないんだなあ……。

とことんいい性格だよ。

私にはできん。

水谷にはもっとできんだろうが……。

しかし、水谷は、何でここまで我慢するんだ。

水谷は、中学からの筋金入すじがねいりの演劇学生。

図書館の、劇書房ベストプレイ・シリーズの戯曲集を、司書に3年間ねばり強く交渉して全巻入れてもらっている。

部室には自分の資料まで寄贈している。

そんな水谷……。

演劇愛だけで、ここまでやれるか?。

実は、私には前から引っ掛かっていることがあるのだが……。

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