第15話:操り政権:まるで出来の悪いプロレス

翌日から、新ヒロイン・八坂のもとで稽古けいこが始まった。

時間が無いので、いきなり立ち稽古からやっている。

記録係は毎日進行日誌をつける。

いったいこの茶番劇にどんな記録をつけるって言うんだ。

〈墓でも暴ければなあ……〉

 浅倉が台詞せりふを言う。そして、八坂。

〈そんな、ムリだわ。第一、暗がりじゃ、デッサンなんて……〉

「なに言ってんの、これ?」

 って八坂のバカ。

「主人公は芸術家で絵描きでもあるの。だから、人体デッサンのために死体を解剖かいぼうしたいって言ってるの」

 水谷が真面目に説明する。

「絵描き?。そんなの聞いてないよ」

「第一幕に書いてある。続けます」

〈ダヴィンチは、実際にやったというがなあ……〉。再び浅倉。

〈でも、フ、フ、フ……〉。また八坂で止まる。

「ふらん。腐爛ふらん死体のこと」

「これ、ホラーなの?」

台本読んでこいよ、このバカ。

1シーンの出番で台詞のほとんど無い私だって一応全部読んできてるのに。

それでも水谷は辛抱強く説明する。

もう、いいよ、水谷。真面目に付き合うだけ損だ。

噛み合うわけないんだ。目的が違うんだから。

「そんなのよりさあ、第四幕やろうよ」

八坂がよだれを垂らして言った。

まただ……。

一斉に部員たちの力が抜ける、と言うより、どっと疲れが出る。

第四幕は、主人公とヒロインが抱き合うシーンがある。つまり、ラブシーン。

八坂はこればっかり。

と言うか、これ目当てで入部してきた。

「第四幕は、動きが中心になりますから、とにかく、第一幕と第二幕の台詞を入れましょう」

「でも、クライマックスじゃん」

「あとで出来る」

水谷が演出としてきっぱり言う。

八坂は従わざるを得ない。

が、従わないのがこのバカ。

「やらせてよ」

 八坂の低いドスが入る。

「今は台詞を……」

「台詞なんて、家帰っておぼえるって」

「相手とのがあるから」

「ちょっとッ」

 突然、万引き犯でも捕まえるようなとがった筋肉質な声。

 きたッ……。

「やらせてあげなよ」

 西野だ。

「ちょっと待って」

 水谷はあくまでも立場を貫く。

「役者の気持ちいいようにさせてあげなよ。実際、舞台立つのは彼女じゃない。あんたなんてそでで見てるだけでしょう」

「演出する責任があります」

「えらそうに」

西野が、やおら立ち上がり、水谷に鼻っつらを刀のように突き付ける。

引かずに見つめる水谷。

みんな、グッと腹に力が入り、ギュッと目をそむけ身をすくめた。

「休憩しましょう……」

池田が、パンと手を叩いた。

みんな、ビクッと一斉に溜息をく。

まるでコントだ。

やってられっか!。

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