第5話 あっけない戦闘

「な、何者だ!?」

「初めまして、皆さん。私の名はブラッドと申します」


 ガゼフとアインズさん達から別れた後、そのまま空へと駆け出す。いつも通り索敵をしていると、隊長らしき男と本隊と思われる集団を発見した。その集団は俺が空中に浮いている姿を見るや否や、甲冑の中でも驚いている声を上げている。


「あの村とは少々縁がありましてね」

「村人の命乞いにでも来たのか?」


 こんな自分を見ても、隊長格の男はすぐに冷静さを取り戻した。これから大殺戮を決行するそんな余裕すぎる態度にイラついた俺は、先程までとの丁寧な口調とは打って変わり、ドスの効いた声で威圧的な言葉遣いに変わった。


「お前たちは、この私が手間をかけてまで救った村人を殺すと広言していたな。これほど不快なものがあるものか」

「不快とは!大きく出たな、見知らぬ天使よ!で?だからどうした」

「抵抗することなくその命を差し出せ。そうすれば痛みはない。


だが…拒絶するなら、愚劣さの対価として、絶望と苦痛の中で死に絶えることになるだろう」


「っ!天使たちを突撃させよ!」


 すると、周りの隊員が天使を召喚して襲ってくる。


 それにしても…これがステータスの差というものなのか、こちらに向かってくる天使の行動が遅く感じる。防御をする素振りさえ見せなかった俺だが、二体の天使に光のレイピアみたいなもので貫かれる直前に受け止める。スーツのおかげか、それとも単にステータスの問題かダメージはない。


「はっ、無様なものだ。くだらんハッタリで煙に巻こうと……っ?」


 隊長さんは笑えることにこの光景を見て倒せたとでも思ったのだろう。あちらから見れば、天使が俺の腹にレイピアを刺しているような光景。だが、その突撃させた天使がバタバタともがいているのを見て言葉を止めた。


「言っただろう?抵抗することなく命を差し出せ、と。人の忠告は素直に受け入れるものだぞ?」


 俺はバタバタともがいている天使を、掴んでいる頭ごと地面に押し潰しアイアンクローを決めた。ダメージを受けた天使はそのまま光の粒子となって消えた。


「バカな…!」「何かのトリックに決まっている!」


「上位物理無効化。データ量の少ない武器や低位のモンスターの攻撃を完全に無効化するパッシブスキルなんだが…お前達が何故、ユグドラシルと同じ魔法やモンスターを召喚できるのか知りたかったが。まあそれはひとまず置いておくとしよう。次はこちらの番だ。


行くぞ…


鏖殺だ」



「っ!全天使で攻撃を仕掛けろ!急げ!」

「…核爆発ニュークリアブラスト!」


 その場で第9位階魔法を放つ。この攻撃は、炎属性と殴打属性で半分ずつの複合ダメージで同位階の中では弱い方だが、全魔法の中でも最上位の効果範囲がある。

 また、強いノックバック効果や毒、盲目、聴覚消失等の複数に渡るバッドステータスを与える事が出来る。効果範囲の中にいる全てが対象だが、自分は兎も角敵部隊を五体満足に生かすため、そのステータスはつけないようにした。おかげでその場にいた全てのアークフレイム・エンジェルが消滅するだけに留まった。


「な…あり……えない…!」

「ば、バケモノ!」


 そのあとは、誰か1人が打った魔法を引き金に、ほぼ全員が俺に向かって様々な魔法を打ち込んだ。どれもSP消費が少ない簡単な魔法ばかりだが…。


「誰が…その魔法を教えた!」

「う。うわぁぁ!」


そんな中、SPが尽きたのか、単純な石飛礫で攻撃してきた奴がいた。


が…



ブシャッ!



「何が…起こった?」


 

 簡単な話、当たる前に跳ね返して逆に相手の首から上をぶっ飛ばしたのだ。隣にいたマジックキャスターと隊長さんは一瞬の出来事に、何が起こったかわかっていなかった。まさかここまでステータスに差があるとは…


「っ!監視の権天使プリンシバリティ・オブザベイションかかれ!」



『あ、アインズさん。アレ、俺の攻撃が通用するのか試して見たいので』

『ええ、構いませんよ』

『ありがとうございます。では…スキル【幻の魔眼】』


 ずっと隊長のそばに控えていた大きい天使が動き出したので、試してみたかったことをしてもいいかと、遠くで見ているアインズさんに許可を取ると普通に了承してくれた。アインズさんの前に入った数秒後に、メイスを構えた天使が殴りつけてきた。それを、片手で受け止めスキルで身動きを封じる。


「な…に……。ありえない…あんな小僧ごときがあ!」

「その身で受けてみろ、ドラゴン・ライトニング!!」


 俺は身動きが取れていない天使に、第5位階雷系魔法を放つ。ダメージが通ったのか、その天使も光の粒子となって消えた。


「た、隊長!我々はどうすれば…!」


 自分達の魔法が通じない、戦力が上である使い魔天使達も殲滅されたマジックキャスター達はたじろいでいた。しかし、その隙を見逃さない俺達ではない。


「さて、今度は貴様らも受けてもらうぞ…!」


 次の瞬間、俺は隊長さんを含め敵にドラゴン・ライトニングを放つ。向こうも応戦するが、あらゆる魔法を飲み込み、あるいは跳ね除け敵部隊は雷の裁きを受けた。


「……お前は一体何者だ…!?」


 ドラゴン・ライトニングを受けうつ伏せながらも隊長さんが質問をする。他に比べ生きているとは、敵ながら褒めてやりたい。


「ブラッドだよ。この名はかつて、知らぬ者がいないほど轟いていたのだがね…」

 



パリン!


 


そんな中…上空が、割れた。まるでガラスを割ったかのように。


「な、なにが…」

「なんらかの情報系魔法を使ってお前を監視しようとした者がいたようだな。私の攻性防壁が起動したから大して覗かれてはいないはずだが…」

「本国が…俺を?」


 どうやら自分が仕えている国にすら信用されていなかったようだ。可哀想に…


「では、遊びはこれくらいに…」

「ま!ま、ま、待って欲しい!ブラッド殿!いや…様!わたしたちっ!いや!私だけで構いません!い、命を助けてくださるならば!望む額を…」

「黙れよ」


 この男は自分の状況を分かっていないのだろうか、自分以外を平気で見逃すとは…自分の体の中で血が沸騰しているのを感じる。俺は隊長さんの足元まで向かい、蒼い目で彼を見下ろす。


「抵抗する事なくその命を差しだせと…これで3回目だ。お前の事は後でじっくり尋問して聞いてやる…せめてもの情けに、苦痛なく死を与えてやる」





「…さて、これで一件落着…かな?」


 敵部隊ほとんどを捕縛し、何人かをあのガゼフと呼ばれる騎士に預けて俺とアインズさんはナザリックへと帰還の歩を進める。いつの間にか、後ろでアルベドがかっけーと聞きながら…。


「アインズ様、ブラッド様…ご質問をしてよろしいでしょうか?」

「どうした、アルベド?」


 アルベドが俺達に質問をする。何故あのガゼフという隊長を助けたのだと。ナザリックの皆が人間嫌い…自分達が排除すればいいだけ、何もリーダーである自分たちが直接赴かなくていいのだと…。

 彼女の言う事はもっともだ、部下であるNPC達は信頼される力はある。それにアインズさんはこう答えた…「この世界の知識が無いうちは、常に敵が己の力を勝る可能性を考慮する必要がある」と。何故この世界に呼ばれたのか、誰が敵なのかもわからない…その意見に俺は賛成した。


 そして、世界に入る前に視えた…あの黄色い髪の少女を見つけなければ…。

 俺は照らされる満月を見て、そう思った。

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その少女、弟子にして後の嫁 しん @shin7650

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