第4話 出会い

 フライで空を飛んでいた分身の視界からカルネ村を見ていると、そこは死の騎士デス・ナイトが騎士相手に無双していた。突然現れたモンスターに騎士たちは当然手も出せず、奥で身動きが取れない住人たちはその光景を見るしかなかった。


 「き、貴様ら!あ、あの化け物を抑えよ!お、俺はこんなところで死んでいい人間じゃなぁい!は、早く抑えよ!」


 何やら指揮官らしき男が何か叫んでいるが、嘲笑うかのようにデス・ナイトはその人間に向かっていった。周りの騎士も逃げている住人にも見向きもしていない。


「ひいっ!?あぁ…」


 デス・ナイトが目の前に来た瞬間、指揮官らしき男が倒れる。よく見ると白目をむきながら気絶していた。気持ちは分かるが、なんだか情けない姿である…。


「ひぐっ!?」


 しかし、気絶したからといって放置するデス・ナイトではない。相手は感情のないモンスター…持っていた大剣を倒れた騎士の腹に突き刺した。しかも何回もめった刺しを食らったのだ。


 「いだっ!や、やめて!お、おかね!お金あげますから!お、お金をあげますから!や、やめでぇ!」


 …この男、何故死にそうなのにモンスターに金銭で対応しようとしたのか。その後もデスナイトは無双をし、残りの騎士はもう二桁もいないほどになった。


『そろそろ降りましょうか』

『ですね。にしても…デス・ナイトでここまでボロボロにされるとは…』

『まあ…この人たちだけかもしれませんけどね。何はともあれ、支配者ロール楽しみにしてますよ?』

『ゔっ…』


 このまま放置すればデス・ナイトは確実に全騎士を粛正してしまう。それどころか、他の住民も巻き込んでしまうかもしれない。


「デス・ナイトよ!そこまでだ!」


 アインズさんが下に降り、それに続くように俺も降りた。そして、残りの騎士たちに向かってアインズさんが叫ぶ。


「初めまして、私はアインズ・ウール・ゴウン。諸君らには生きて帰ってもらう。そして…諸君の飼い主に伝えろ。この辺りで騒ぎを起こすな。騒ぐようなら…今度は貴様らの国まで『死』を告げに行くと!行け!そして確実に我が名を伝えよ!」


 この言葉に騎士たちは一目散に逃げていく。このまま飼い主に報告してくれればいいが…


「さて…君たちはもう安全だ。安心してほしい」


 村人にアインズさんが話しかける。緊張の糸が切れたのか、ほとんどの村人がその場にへたりこんだ。因みにアインズさんは今、嫉妬マスクというアイテムを顔に着けている。これは、クリスマスの日に2時間以上ログインしていると無条件でもらえるアイテム…だがこれで勝ち組と負け組が争うきっかけになった困った物だ。俺も持っているが、単純に着けたくないだけだ。


「貴方様方が…私たちの村を…ありがとうございます!」


 おそらく…村長らしい、だいぶ歳をとっている人がお礼を述べてきた。それに続くように村人皆がお礼を告げてきた。でも、中には何故こんな村を?と疑問に思っている人も多数いる。偶然とはいえ監視していたとは言えない。


「…とはいえ、タダというわけにはいかない。それなりの礼をいただきたい」


 ああなるほど。営利目的にした方が余計な詮索はされずに済む、と。流れで村長の家に入り色々と情報を聞いていた。金貨、周辺国の件、この世界の常識を知っている限りの事を話させていた。因みに我々の事は僻地で研究している世に疎い者たちとして理解してもらえた。


「負傷者はこちらに。特に女子供の方、重症の方から来てくれー」


 大抵の話を聞いた俺は、村の復興と共に怪我人の治癒に当たっていた。


「あ、ありがとうございます…。でも…このような高価なポーションに支払えるだけの代価を…私たちは持ち合わせておりません…」


 高価…?ユグドラシルで腐るほど見てる安物のポーションだぞこれ。


「心配無用、俺が持っておいても腐らせるだけだ。それなら今必要としている方に使った方が、ポーションを作った人も喜ぶというもの。遠慮なさらず飲め」


「おお…なんと寛大な…」


 何故か人から崇められているのだが…。

 それにしても、先程のデス・ナイトの行動然りこのポーションの価値も違っている。住民たちが嘘を言っているようにも見えない…これは大幅な修正が必要……!?

 ここで空を偵察していた分身体が何かを発見し、視界を読み取る。

 どうやら二つの集団を感知したようだ。一つは装備も不統一の馬に乗った30人を超える集団、もう一つは装備統一されている集団だ。警戒度は後者の方が高いが、前者がもう直ぐ村に着く。アインズさんにも連絡を入れ、住民たちと共に集団を迎える準備に入る。



 「私はリ・エスティーゼ王国、王国戦士長・ガゼフ・ストロノーフ。この近隣を荒らしている騎士達を討伐するために王のご命令を受け村々を回っている」

「お、王国戦士長…!」

「そちらは村長だな。横にいる方々は、一体誰なのか教えてもらいたい」


 王国戦士長の言葉に村長が驚く。このような偏狭な村でも名が知れているという事は、先程聞いたリ・エスティーぜ王国の中でも有名な方なのだろうか?


「初めまして王国戦士長殿。わたしはアインズ・ウール・ゴウン、魔法詠唱者です。そしてこちらは…」


「私はブラッド、こんな生りだがアインズ殿の斥候をしている」

「…この村を救っていただき感謝の言葉もない!」


 戦士長さんは考える素振りの後、馬から降り礼儀正しくお辞儀をした。こういう人間にはまだ好感は持てる。


「戦士長!周囲に複数の人影。村を囲むようにして、接近しつつあります!」


 戦士の一人がそう報告する、恐らく後者の方だ。明らかに変である。


「ひとまず、このままではすぐ見つかって攻撃を仕掛けられる可能性がある。この場にいる人たちは全員家の中に、我々は一番村の外に近い家の中に入って様子を伺いましょう。それでいいですね。戦士長」

「…ええ」

「…それでしたら、俺が見てきましょうか?」


 俺がそう言った瞬間、2人は唖然とした顔で俺を見つめたのであった。

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