第29話 まさかの昇格そして決断

 エルと別れて王都の街へ足を向ける。

 さすがにポロは私の中に入っている。

「あんな厳しい戦いをしてきたとは思えないな」

 街の中は本当に平和だった。

 その裏で尊い命が無くなった事を知る物は数少ない。

 私はギルドへと行く事にした。


 ギルドに着き、入ってすぐの事。

「マユミ、大事無いのか!?」

「あ、ガルムさん」

 ギルドマスターのガルムさんが近づいてきた。

「大丈夫ですよ、ほら!」

「そうか、それは良かった。ちょっとこっちに来てくれ」

 私はギルドの奥にある部屋へと案内された。


「改めて、今回は大変だったな! エリオノールから聞いたぞ」

「情報が早いですね……」

「まぁな、それよりかなり犠牲が出たんだって!?」

「17名亡くなりました」

「そうか、一体何があったんだ!」

 私はあの森での事を伝えた。

「ふむ、純白のオオカミにディノカイザーか! オオカミの方はわからないが、ディノカイザーはSランクの魔獣だ。逆に戻って来れた事の方が奇跡だぞ!」


「Sランクですか!!」


「そうだ、奴はなその強さから災害級の魔獣に指定されているんだ、マユミも良く来られたな?」


「え〜と、逃げてはないです」

「うん? だがこうして帰ってきてるじゃないか」

「あ〜、え〜っと。これをみて下さい」

 私はディノカイザーの尻尾の棘や、牙など集めてきた物を机に出していく。

 しかし、一つづつ出していくにつれてガルムさんの顔が驚きから驚愕へ、そして呆れ顔へと変化していった。


「え〜っと、とりあえず聞くが、これは?」


「じゃあとりあえず言いますが、ディノカイザーの残骸です!」


「まさかとは思ったが……倒したのか!! あの災害級を!! もしかしてその戦いで17人が……」


「いえ、こいつとの戦いの時は誰もいませんでした」

「……誰もいない?」

「ええ、私一人でしたから……」


「……はあ!?」


 あっ! やってしまったと思ったが時すでに遅かった。


「こいつをお前一人で殺ったやったのか!?」


「…………」

「ギルマス!」

「なんだ!?」

 一人男の人が入ってきてガルムさんに耳打ちしていた。


「はぁ〜、お前ってやつは……」


「うん?」

「今、エリオノールから連絡があったそうだ! ディノカイザーはマユミが一人で倒したから考慮する様にってな!」

「あはははは」

「マユミ、お前の試験は無事合格だ!!」

「そうですか」


「お前をSランクは昇格させる!!」


「あ〜、はいわかり…………はあ!?」

「当たり前だろ! Sランクのディノカイザーをたった一人で倒せる奴がAランクなわけないだろうが!!」


『ですよねぇ〜』


「ところでこのディノカイザーのは……」

「全て納品しますよ! 私が持ってても使い道がないですから」

「本当に良いのか?」

「ええ」

「ではありがたく頂く、報酬はまた今度で良いか?」

「それで結構ですよ」


 私とガルムさんは部屋から出ると。


「皆聞け!! ここに居るマユミ殿が、現時点をもってSランク冒険者となった!!」


『ええ〜!! なんで言っちゃうの!! 恥ずかしんですけど』

 ガルムさんの発言の後、すぐに周りから歓声やら驚愕の声が聞こえてきた。


「これで、大丈夫だな」

「いや、何が大丈夫なんですか!?」


「でも、困ったな。材木の確保が出来ないと復興が進まねぇな」

『材木かぁ〜』

「マユミ、どうにかして材木を手に入れられないか!?」

「そんな事を言われても……。ちなみにどれくらい必要なんですか?」

「そうだな、でっけぇ木を100本位は欲しいかな……」

「100本!!」

「まぁ考えといてくれや!」

 そういうと、再度部屋へと入って行った。


『はぁ〜、なんか色々ありすぎて疲れた〜、帰ろ! 家か、もうそろそろかな……』


 ソフィーの家に帰ってきた時には日も傾いてかたむいてきていた。

『長い一日だったな!』

「マユミ、今日は大丈夫だったのですか?」

「エリオノールさんから聞いたの?」

「……はい。悲しい事です」

「そっか……」

「今日はゆっくり休んで下さいね」

「ありがとう、ソフィー」

 

 お風呂に入った後、皆んなでご飯を食べ早々に寝床へと向かった。


「ねぇ、ソフィー。私もうそろそろ、ここを出ようと思うの」

「え!? なぜですか?」

「少し前から考えてたんだけど、ずっとこのままお世話になるわけにはいかないのよ。こっちでの生活も慣れてきたしね」

「そう、ですか……」

「まだこれから住む場所とかを見て回るからすぐにってわけではないから、もう少し厄介になるんだけどね」

「そんな、厄介なんて……」

「大丈夫よソフィー、家が変わっても会えないわけじゃないんだから、ソフィーやアリエラ様が良いって言ってくれるならまた泊まりにも来るしね。ソフィー、この家は私にとってもう、本当の家と一緒なのよ」

「マユミ……」

 ソフィーの目からは涙が流れていた。

「何、泣いてるのよまだ早いってば……」

「ですが……」


 その夜は少し遅くまで起きて二人で話していた。

 そして話疲れた後、私達は深い眠りへと入っていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る