第28話 ポロは万能薬

「エリオノール総師長報告します。先程森の中から巨大なヘビが現れまして!」

「何!? 魔物か?」

「あ、いえ! マユミ様と一緒にいた蛇だとの事です」

「では!!」

「はい、マユミ様は無事帰って来られました」

 エリオノールは居ても立っても居られず天幕を出て、私を迎えにきてくれた。

「マユミ殿〜!!」

「エリオノールさん!」

「良くぞご無事で!」

「はい、問題なしですよ。そしてこれが……」

 異空間からディノカイザーの部位を取り出す!

「凄い! あいつを倒したのですか?」

「まぁ、木っ端微塵になってしまいましたのでこんな物しか手に入らなかったんですけどね」

「いや、これは凄い品ばかりですよ!」

「そうなんですね……。ところで皆んなは大丈夫ですか?」

「はい、それが……」

「うん?」

 私はある所に連れて行かれた。

 そこで見たものは、殆どの騎士、魔術師達が重体になっていたのだ。


「これは、どうしてですか?」

「あの、ディノカイザーの毒のせいです。確かに浄化はできたのですが、完全に取り除けなかったみたいなんです。撤退する際にも少し魔物に遭遇してしまい、その戦闘で殆どが犠牲になってしまいました。ただ一人の死者も出なかったのが救いでしたが、この毒がいつまでもつか……」


 私は、彼らの方へ歩いていく。

 そして、精一杯の魔力を注ぎメガヒールを発動する。

 キラキラとした緑色の発光体が全ての隊員へと降り注ぐ。

 体の四肢が、欠損していた者は全て元に戻り、軽症・重症問わず傷が癒えていった。

 しかし、一つだけ治らない物があった。

 ディノカイザーの毒の効果だ。

 先程のメガヒールで殆どの人が助かった。

 毒に侵されていた人も軽症の人には有効だったみたいだ。

 それはまさに奇跡といえる物だった。

 しかし、数名は傷は癒えても、苦しそうにしていたのだ。


「なんで、何でダメなの!?」


「マユミ殿……。」


『マユミ、奴の毒はかなり上位の毒だ、森から出る時奴の尻尾の棘を持ち帰らなかったか?』

『これ?』

『それから解毒薬が作れるはずなんだ』

『本当!!』

『多分だけどな』


 私は異空間からディノカイザーの棘を取り出し、ポロの前に置いた。

 すると、その棘をポロが口に放り込んだ。

『え? 大丈夫なの?』

『マユミ、何を言ってる。俺は王だったんだぞ! それにな俺の得意分野は何だった?』

『あっ! 状態異常か!』

『そういう事だ!』

『でも、ポロの状態異常系の技に回復なんてあったっけ?』

『マユミ、状態異常にできるという事はその逆もできるって事だ。よしこの毒の解析が終わったぞ! 俺をマユミの中に入れて武装してくれ!! 一部で良い! 後は分かるな!』

『早!! もう、わかったの?』

『俺をなめてもらっては困る!!』

 ポロを一旦私の中へ戻す。


「一部武装 ポルストロアンド」


 案の定何も起こらないのだけど。

「飲んでもらうにはやっぱり入れ物が必要よね……瓶、瓶か!!」

『ポロ、瓶とかにもなれるの!?』

『なれなくもないが、量産は出来ない! それに消耗品に変化する事が出来ないんだ!!』

『そうか……じゃあ、仕方ないか』


 私は小さな小瓶のイメージを始める。

 すると、徐々に魔力が集まり始めやがて集約、そこには小瓶が数個出現したのだ。

「これならいける!」

 これを繰り返し人数分用意した。


 そして……。


『じゃあポロよろしくね!』

『了解した』

 ポロが手を瓶に触れて欲しいと言うのでその様にすると、小瓶の中に液体が注がれ始めたのだ。

 色は紫を少し薄めた色だった。

 それを瓶の数だけ行った。


『良いぞ、完成だ』


「よし」


 私はその瓶を異空間の中へ全て入れ、救護室に向かったエリオノールさんを追いかけた。


「エリオノールさん!」

「どうされましたか!?」

「解毒薬を作ったんですけど……」

「解毒薬を!?」

「ディノカイザーの尻尾の棘を解析して作った物です」

「まさか、そんな事がこの短時間で……」

「一刻も猶予はありません、とりあえず急ぎましょう」

「わかりました」


 救護室には相変わらず苦しんでいる人達がたくさんいた。


「皆、苦しいだろうが聞いてくれ、マユミ殿が解毒薬を作ってくれた……」

 私に向かって(うん)と頷く。

 さっき作った解毒薬を一瓶渡す。

「これがその解毒薬だ! 今から配るので飲む様に!」


 その後手分けして皆んなに手渡す、しかし……。


「どうした?」

「これ本当に解毒薬なのでしょうか?」

「なに? どう言う事だ?」

「いえ、疑っているわけではないのですが、こんな短時間で解毒薬が作れるなんて……」

「確かに腑に落ちないかもしれない、しかし一刻の猶予も無いのだ頼む飲んでくれ」

 それでも、手をつけたがらない人が多い。


「では、私が試しに飲みましょう! 私は毒にはなっていませんが、飲んだとしても害は無いのだとわかると思います」


 私は解毒薬の瓶を開け全てを飲み干した。

 確かに味は美味しくない、美味しくないけど……??


「はぁっ!!」


 周りからなんだなんだ!! 失敗か!! などの声が上がる。


「何かありましたか?」

 エリオノールさんが不安そうに聞いてくる。

「あっ! すいません。大丈夫です、大丈夫なのですが、この感じは……。スキルなどが見えるわけでは無いのですが、もしかしたら何らかの耐性がついたのかもしれません!!」

「何ですって!! 私にもその解毒薬を……」

 エリオノールさんも一気に飲み干す。

「おお〜、これは!!」

 エリオノールさんも何かに気づいた様だ。

「皆、これは凄いぞ解毒以外に毒の耐性がつく様だ!」

 おお〜!! 周りからは声が上がり、それに安心したのか皆が皆一気に飲み干したのだ。

 すると、今まで苦しんでいた毒の効果がみるみる内に消え、むしろ耐性まで付いてしまったのだ。


「「「おお〜、凄い、凄いぞ〜」」」


 周りから歓声が上がる。


「マユミ殿ありがとございます。彼らの命を守って頂いて本当にありがとうございました」

 深々とお礼をするエリオノールさん、すると後方で見ていた騎士や、魔術師の人、全ての人が私に向かって深々く頭を下げていたのだった。


「ちょ! やめて下さい、やめて下さいよ」


 ある者は一度無くなった腕や足を触りながら、ある者は笑みを浮かべながら、そしてある者は泣きながら、私への感謝の気持ちを伝えてきたのだった。


「よかった、よかったです。本当に!」


 私もそれにもらい泣きをしてしまったのだ。

 その後全ての人の体調が戻った事を確認し、王都へと帰還したのだった。


 王都へと着くとエリオノールさんが話しかけてきた。

「今回もマユミ殿が居なければ、私を含め全員全滅でした。貴方には何度助けられているか……。今回の事はガルムにも報告しておきますので、よろしくお願いしますね」

「わかりました。あと、エリオノールさん! です!!」


「え?」


「私の名前はです!」

「はい、存じ上げていますが……マユミ殿」

「ですから、その殿はいりませんよ。もう一緒に戦場を共にした友ではありませんか!!」

「マユミど……」

「うん?」

「……マユミ! わかりました。これからはマユミと言わさせて頂きますね」

「ええ、エリオノールさん!」

「マユミ、それでは私の事を〝エル〟と呼んでください。私の愛称なのです。

「わかったわ〝エル〟!」




 こうして17名もの人が亡くなった森への調査は多大な犠牲をはらんで幕を閉じたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る