第27話 魔物の森②

『マユミ、諦めるな!! あの毒を浄化するんだ。奴は俺に任せろ!』

 そう言うと、ポロはディノカイザー目掛けて突進、火を吐く前に一撃を喰らわした。

「よし、これなら! エリオノールさん、この辺一帯の毒を浄化します。魔法を構築している間私を守って下さいませんか?」

「承知した!!」

 私は直ぐに魔法の構築にはいる。

 この辺一帯の毒の浄化、かなりの範囲だそれに……。

『毒の浄化はできると思うがこのの元は……』

 イメージが構築していくと同時に魔力が膨れ始める。

 その魔力をこの辺一帯へ向ける。


【プリフィケーション】


 すると、私を中心に光が溢れここら一帯の毒が浄化していったのだ。

『よし後は、にお……い!』

 さっきまで臭っていたあの、臭いが今はしないのだ。

『わかった! あの毒そのものに発火作用があったんだ!』


「エリオノールさん! 毒はもう大丈夫です」


「了解した。しかし、このままでは」

「私があいつの相手をしますので、エリオノールさんは撤退の準備を!」

「撤退!?」

「そうです、撤退するべきです! あのオオカミの魔物はおそらくこの森を統べるすべる魔物ではありません!」

「何ですって、何で分かるの?」

「考えても見て下さい、かなり入ってきたとはいえここは森の初めの方です、そんな所にこの森を統べる魔物が猛スピードでわざわざ来ると思いますか?」

「……確かに!」

「それに、オオカミの魔物は自分ではなくさらに下のディノカイザーを寄越したのです。それは奴の方が強い事を意味しています。ディノカイザーだけでもこの被害です、辛うじて奴に勝ったとしてもこの先には死しか見えません。違いますか?」


「……くそっ!! 撤退だ!! 撤退しろ!!」


 エリオノールさんの声が響く。

「エリオノール! 撤退だと、どういう事だ!!」

 騎士団の団長がエリオノールさんに詰め寄る。

「これ以上被害を増やさない為です!!」

 この戦いに参加した騎士・魔術師は総勢50名。

 しかし、既に全体の三割の人が亡くなっており、残りの半数が何らかの怪我を負っている状態であった。


「このままでは、全滅してしまう! 悔しいが撤退するのです!!」


「くっ!!」


「撤退!! 撤退だ!!」

 再度エリオノールさんが号令をかける。

 しかし、その撤退をほいそれと許してくれる魔物などいない。

「くっ!! どうすれば!!」


「エリオノールさん!! 殿しんがりは私に任せて下さい!」

「何を言っている、マユミ殿一人では!!」

「一人ではありませんよ!」

 私は今もディノカイザーと戦っているポロを見る。

「わかった!! 任せます! 必ず……必ず帰ってきて下さいね!!」

「もちろんですよ!」


「皆!! マユミ殿が殿しんがりを務めてくれる! 私達は彼女の勇気を胸に一刻も早く撤退し体制を整えるのだ!」


「「「おおー」」」

 号令と共に撤退を開始する。

 しかし、そんな彼らに魔物が迫る。


「プロテクト」


 逃げる隊員の後ろに魔法を発動し追撃を阻止する。


「お前達の相手は私達よ! ポロ!! 行くよ!!」


 今までは隊員等多くの人を守っての戦闘だった為、私とポロは離れて戦っていた。

 しかし、守る物が無くなった今私は……。



「本気で行かせてもらうわよ! 完全武装ポルストロアンド」



 その瞬間ディノカイザーと戦っていたポロがその姿を消し私の体へと戻ってきた。


「行くよ、ポロ!!」


『いつでも良いぜ、!』


「お前達、覚悟しなさいよ! 私は今かなり怒ってんだから!」

 私は拳銃型の武器を両手に持ち、さらに。


【プレディクション】


 予知を意味する空間魔法を発動する。

 その直後から、周囲の魔物の動きを予知しながら屠ってほふっていく。

 それは、刹那の如き速さだった。

 次々と倒れていく魔物達、着実に数は減ってきているがまだまだ多く、2丁の拳銃では追いつかない。

 

「追いつかないな! あれを試してみるか!?」


 ニヤリと笑いそのある物をイメージしその形へと変化させた。

 そのある物とは、ロケットランチャーだ。

 しかしロケットランチャーはあまり連射には向いていない、そこでロケットランチャーとマシンガンを組み合わせる事にした。

 

「変な形!! さすが異世界ってでたらめだね!」


 銃の本体はマシンガンその物なのだが、先端が円状に広くなっていて回転しながらロケットランチャーが飛び出すみたいだ。

 試しに魔物に向けて撃ってみると!

 

「何これぇ〜! めっちゃ楽しい!!」


 無数のロケットランチャーが周りを塵へと変えていく。

 マシンガンの様な《ドドドドド》という音、ロケットランチャーが着弾する《ドーン》という無数の音、そして魔物達の悲鳴が辺りを包む、その中で異質と化した私の歓喜かんきの笑い声。

 もはや戦闘ではなく蹂躙じゅうりんだった。


 しばらくし、周りを確認すると周りにいた魔物達はちりとなっていたのだ。


「あとは………」


 一帯が、砂埃で見えない中一匹だけそこに立っていた。


 そうディノカイザーだ。


「タフだねぇ〜!」


 口からは大量の血を吐いていて、右腕は根本からもげていた。

 尻尾の棘も何本か無くなっていたのだ。


「さ〜て、終わりにしようか!!」


 ロケットランチャーから、手榴弾へとさらに変更。

それを持ってディノカイザーの方へと歩いていく。

 奴は、こちらを睨み一度咆哮する。

 そして、こちらへと突進してくる。

 私は手榴弾三個の栓を抜き、ワープにて一旦上空へ登る。

 目の前から消えた事で突進を止めるディノカイザー。

 再度ワープにて今度は奴の口元へと移動する。

 咄嗟に口を開けたディノカイザー。


「これで終わりよ!」


 口の中へ手榴弾を全て投げ入れ、ワープにて退避する。

 その数秒後、奴の体は木っ端微塵こっぱみじんにバラバラになったのだった。


「ひぃー!! 威力強すぎ!! てか、気持ち悪い〜!!」


 全てが終わった後、私は自然と涙を流していた。

 今回亡くなった死者は15人を超えている、負傷者を含めると半数以上が犠牲になっているのだ。


 ディノカイザーの尻尾の棘やその他の部位で少しでも役に立ちそうな物を集め異空間の保管庫へとしまう。


「ポロ、お疲れ様。帰ろうか!」

「大丈夫か、マユミ?」

「こういうのにはあまり慣れてないからさ、結構辛いかな!」

 ポロが具現化し出てきた後、私を包み込む。

「どうしたの?」

「良いから乗っとけ」

 尻尾を丸めその上に私を乗せてくれた。

「ありがとう、ポロ!」

 私は少しの間泣いた。

 こんなにも魔法が使えて、あのディノカイザーをも倒せる力がありながら、15人以上の人が亡くなり、多くの人が怪我をしてしまった。


「何て弱いんだろう……」


「マユミ、どれだけ強くても全てを救う事は出来ないのだ。以前ランドロスや爺が言っていた事を覚えてるか?」

「ポロの配下の事?」

「そうだ! 遥か昔の事だが、俺はくだらない理由で戦争を起こした。この世界が五つの大陸に分かれていた頃、それぞれに王や支配者が居てな、それぞれが不可侵条約を結んでいたんだ。だが俺はそれを破り、侵攻を開始した。そいつとは数年にわたって戦ったが相手にもされなかった、まぁそいつがそういう性格でもあったからだが、その数年の間に俺の配下は皆死んでいたんだ。俺がくだらない戦争さえ起こさなければあいつらは死なずに済んだんだ。俺はダメな王だったんだよ」

「そんな事があったのね」

「まぁその後、ランドロスや爺が来て戦争は終わったんだがな、その代償がこれだ!!」

「召喚獣になった事?」

「そうだ! その時を生きた五つの王や支配者達は全て現実世界から消されたんだ、あの方によってな」

「あの方!?」

「まぁ、俺もあんまり知らないんだけどな。あまり興味なかったし!」

「そっか、話してくれてありがとう」



〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜


[主人よ、人間どもは帰って行った様子です]

[そうか、ご苦労だった。しかしディノカイザーがやられたか!]

[はい、あの女とあの蛇により倒されました]

[そうか、わかった。下がって良いぞ]


 純白のオオカミが、主人と言われる物に対して今回の戦闘の報告をしたところだった。


[弱くなった物だな〝堕蛇神〟よ]



〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜




 私は森を出るまでポロの背中に乗っていた。

 そして、エリオノールさん達の居る陣へと戻ってきたのだった。

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