第23話 蛇神

「おはようございます、マユミ」

「おはよう、ソフィー」

「ところでその手紙はお父様からの……かしら?」

「ギクッ! なんでわかったの?」

「なんでって! その印字は私の印字と同じですもの」

「ですよねぇ〜」

「で、国王様との謁見の事ですか?」

「……なんでわかるの?」

「そりゃ、娘ですからね……。お父様からマユミの事は時折聞かれますので」

「あ〜、なるほど。あのぉ〜、ソフィーさん?」

「どうされましたの?」

「これ、やっぱ行かなきゃダメ?」

「う〜ん、どうしてもっと言うのであればアレですけど……。多分行かなかったら行かなかったらで後々大変ですよ!?」

「え? どう、大変なのよ?」

「おそらくですよ、街中に貴方の英雄譚がばら撒かれるでしょうね〜、もちろん私の親友として紹介されますので、直ぐに皆んなには顔を知れ渡るでしょうし……。家の前に行列が出来るんじゃないですかね……。アレだけの事をして、アレだけの事を言ったんですからねぇ〜」


「………あ〜、胃が痛い!!」


「さぁ〜、どうしますか!? マユミ? もしかしたら、国王に謁見して、マユミが、マユミのした事を言わないで下さいって言えば、それはそれで叶うと思いますけど……」

「う〜、ソフィーの意地悪………」

「あらあらまぁまぁ」

『絶対、楽しんでおられるなこのお嬢様は……』

「わかりました、行きます行きますよ」

「ふふふ、ではその旨私から伝えておきますね」


「……はい………あっ! ダメだ!?」


「どう、しました?」

「私、そんな小洒落たこじゃれたドレスなんてないよ」

「そんな事ですか!」『そんな事! なんだ!』

「謁見の前に王宮の侍女達がマユミの準備を手伝ってくれますから大丈夫ですよ」

「はぁ〜、そうなんですね」

「ちなみに日にちはいつなのですか?」

「それが、書いてなくて……」

「おそらく、マユミの答えを待ってからという形かもしれませんね」

「そっかー!」『あぁ〜、憂鬱だ!』


「ねぇ〜、マユミ!?」

「なに?」

「ランドロス様って居るの?」

「ランドロス、ああ〜! 居るよ」

「え〜と、また会えますか?」

「別に構わないけど……!?」

『ランちゃん! ソフィーが会いたいってさ』

『ほう、あのお嬢様がな、では……こら! お前!!は……』

『うん?』


「出てくるみたいよ」

 その言葉に喜びの顔をするソフィー。


 マユミの体を黒いもやが、包みそして消えていく、そしてその中から……。


「………蛇!? デッカ!!」

 出てきたのは龍ではなく、蛇だった。

 体長は約3メートル程で、ほぼ真っ黒な表皮、鋭い牙が2本生えていた。

 丸まっているからそれ程大きくは見えないけどそれでも大きい蛇である。

「……誰?」

「誰とは失礼だな! 主人よ、まぁ

 そう言った蛇は、不敵な笑みを私に向けた。


「あ、あの時の……」


『ランちゃん、この蛇なんてったっけ?』


『〝堕蛇神〟ですね』「堕蛇神だ!!!」

「おお!!」

 まさか私の中と、外から同時に言われるとは思わなかった。

「堕蛇神さん? 今の聞こえてました!?」

「何を当たり前の事を、龍神に出来て俺に出来ないとでも思ったのか?」

「いえ、そうですよね〜」


『主人よ、なぜか今はそちらに具現化する事が出来ません』

「あ! そうなんだ!」

「言うておくが我は戻らんぞ! こんな楽しそうな場所に出れたんじゃ、この世界に出るのはあの時以来だからな!」

「あの時?」

「まぁ遠い昔の話だ」


「あの〜、マユミ!? そちらの蛇さんは? 大丈夫なの?」

「ああ〜、ごめんごめん。何か、この蛇さんが出たらランドロスは一緒には出れないらしくて」


「おい!! さっきから蛇蛇って、俺をその辺の爬虫類と一緒にするな!!」

「でも、蛇ですよね?」

「蛇じゃねぇ〜、堕蛇神だ!」

「名前が堅いんですよ、そうだ! 名前教えてよ」

「名前だと?」

「あるんでしょう? 名前?」

「まぁ、あるが……」

「じゃあ教えてよ、名前で今度から呼ぶから」

「……嫌だ!」

「なんでよ!?」

「嫌なもんは嫌なんだ……」


『主人よ、そやつの名前は』

「やめろー!! 言うなよお前!!」

『名前は……』

「あぁー!! ランドロス!! 貴様〜!!」


『……ポロという!』


「貴様ぁ〜!!!」ポロ

「ポロ!?」私

「ポロ!?」ソフィー


「ポロじゃねぇ〜よ、ポルストロアンドだ!!」


『ポロだろ?』ランちゃん

「ポロだね」私

「ポロですね」ソフィー


「貴様らぉ〜!!!」


 ポロが、怒り始め周りのものが揺れ始める。

「こらやめなさい!」

「ふん、知るか!!」

 段々、力が膨れ上がるのがわかる。

「ポロ!! それ以上は許しません!!」

 強い口調で伝えると、ポロが纏ってまとっていた力の気はすっと無くなったのだ。

「何?」

『堕蛇神よ、諦めろ! 我らの力は既に主人であるマユミに全て譲渡してある。おまえが、どんだけ力を使おうが主人の了解なしではただの飾りだ。それにそれだけで済んでよかったな!』

「どういう事だ?」

『主人がその気なら我々など一握りで消滅させられるぞ!』

「何を戯言ざれごとを!」

『試してみるか? まぁそんな事をしたらもう二度とこの世には戻っては来れぬがな!』


 龍神ランドロスは知っていた、いや気づいたのだ、マユミ様はあの方に近いお人だと。

 それが真実なら我々など一溜まりもない。

 まぁあの方は(マユミ)あんな事はされないと思うが……


「くっ! わかったわかった!! もうしませんよ」

「よろしい! じゃあポロで良いね!」

「くっ!」

「良いね!?」

「……勝手にしろ!!」

「よし、ソフィーポロだよ!」


「……ポルストロアンド!! どこかで聞いたことがある様な…」

「ソフィー!?」

「いえ、以前何かの文献でポルストロアンドという名前と〝堕蛇神〟という単語をどこかで……」


「おお! 俺の事を知ってるなんて見所があるじゃねぇ〜か!」


「でも、すいません。ハッキリとは覚えてなくて……」

「そうか……」


『意外と繊細なのね!』


「ポロ、今日ギルドと街に行く予定なんだけど、その時は私の中に入ってね」

「なぜだ?」

「なぜって、そんな大きな蛇が街を歩いてたら皆んな驚くでしょうが……」

「嫌だ!!」

「子供か!!」

「久しぶりのこの世なんだぞ! 俺は絶対お前と一緒に行くからな!!」

「でも〜!!」

「何を言われようと行くぞ!!」

「わかった、でも! これだけは約束! 絶対私の側から離れない事、余計な事はしない事!! わかった?」

「はいはい、ご主人様の仰せのままに! ひっ!」




 まぁこのわがままな蛇神様が言う事を聞くわけもなく……

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