第15話 ハプニング

 王宮の廊下を歩く2人。

「総師長様、マユミさんのあれは魔獣種でしょうか?」

「わからぬ」

『いや、あれは魔獣種などではない。あの時私は〝龍神様〟と呼ばれるものに対して威圧をかけた、しかしいとも簡単に弾かれ、それどころかその何倍もの威力の威圧が殺気と共に押し寄せてきたのだ。とてつもない疲労感と恐怖感、あれだけの事が魔獣種如き召喚獣が行えるであろうか。確かに魔獣種の中にもドラゴンはいる、たがあれは……』



〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜


 私は今エルランド王国にある、ギルドの中に居た。

 そして、今目の前には大男が立っていた。


『でかぁ〜! 何この人、人間?』

『そこの、ねーちゃん』と聞こえ周りをキョロキョロしても私以外他に女の人は居なかった。

「あ〜、もしかして私?」

「もしかしなくても、あんただよ」

『ですよねぇ〜。てか、本当にあるのねこんなあるある展開』

「え〜っと、何か御用ですか?」

「ここわな、お前みたいなひ弱女が来るところじゃねぇ〜んだよ」

『はぁ〜、やっぱりこのパターンね』

 私は構わず受付嬢さんへ向き直る。

「続きを教えて下さい」

「え、でも……」

「おい、お前! シカトしてんじゃねぇ〜ぞ!」

「大丈夫ですので、続けて下さい」

「は、はぁ〜! はあっ!!」

「だから! シカトしてんじゃねぇ〜つってんだよ!!」

 激昂した男が私に襲いかかろうとしていた。


『はぁ〜、ランちゃん。よろしく』

『承知!』


 そう、ランちゃんに話しかけた後私は受付嬢さんにニコッと微笑んだ。

 彼女は迫り来る男の手と私の笑顔を見てどっちを信じて良いのか分からず複雑な表情をしていた。

 しかし、もちろん大男の手は私に届く事はなかった。

「うぎぁ!」

 変な声が聞こえた後、チラッと後ろを見ると案の定変な格好で固まっていた。

 私は再々度受付嬢さんへと向き直り続けて下さい、と伝えた。

「は、はぁ〜」

 周りの人達からも『あれはどういう事だ!』等の声が聞こえてきているが、まぁ気にしない。

 その後、受付嬢さんはチラチラと私の後ろの大男を見ていたが説明してくれた。


 このギルドでは最上位を、Sランクとし一番下がEランクとの事だ。

 もちろん一番下からクエストを受け、そのランクの上限のポイントを超えたら上に上がる仕組みだ、しかしAランクとSランクになるには試験があるみたいだった。

「ここまでで何か質問はありますか?」

「いえ、大丈夫です」

「では……」

 チラッと何度目かの後ろを見ていた。

「あの〜、後ろの方大丈夫ですか?」

「うん?」

 私は後ろを見ると、すんごい泣いてた!!

『うわぁ!! そんなに泣く? もうね、ぐちゃぐちゃだった』

「……はぁ〜。貴方、もう私に何もしないと約束できる?」

 無言だった……。

『うん? あっ! 忘れてた多分喋れないんだ。ランちゃん、あの人話せるようにしてあげて』

『了解した』

「もう…やめて……やめてください…」

「さっきも聞いたけど、もう……」

「もう何もしない! しないから助けてぐだざい〜」

『ランちゃん、もういいよ』

『よろしいので? このまま捻り潰しても……』

『あぁ〜、気持ち悪いからそれはやめて』

『承知致しました』

《ドサッ》と床にへばりつく大男。


「受付嬢さん後は、何かありますか?」

「あ、いえ。特にはもうありません、あちらのボードにクエストがあるのでそこから選んでください」

「わかりました」

「……あ! 忘れてました。お名前をお願いします」

「あぁ〜、マユミです」

「……マユミさん! あっ! マユミさんですか?」

「…はい、さっき名乗りましたけど……」

「あっ、すいません少しお待ち下さい」

「うん? わかりました」


 しばらくの後、奥から受付嬢さんと共に男の人が出てきた。

「お主がマユミとやらか?」

「はい、マユミですが…」

「…話は、アリエラ様より聞いている。マユミという女性がそちらに行くと思うのでよろしくお願いします、と」

「確かに、そんな事を言われていましたね」

其方そちがのぉ〜」

「な、何でしょう?」

「いや、何でもない。して……あいつは何をしている?」

 未だに後ろで半ベソをかいている大男。

「さぁあ〜」

「まぁ地道に頑張ってくれ」

「…はい、ありがとうございます」

 私は、クエストボードの方へ行きどんなクエストがあるのか確認する。

『Eランクのクエストはっと…ふむ、採集クエストに、掃除関係、ペット探しか。まぁこんなもんだよね、とりあえずは、採集クエストでも受けますか…』

 

《バン!!》『助けてくれぇ〜!!』乱暴に開けられたドアから1人の男が血相を変えて入ってきた。


 周りの人達もどうしたんだ、と不安そうな顔をしている。

 そこに、騒ぎを聞き駆けつけて、さっき私が話をしていたあの人が出てくる。

「ギルマス、頼む助けてくれ!」

『あの人、ギルドマスターだったのね』

「どうした?」

「この近くの草原で、ワイバーンが3頭も出たんだ!」

「なに!? ワイバーンが! しかも3頭だと!」

「誰か、助けてくれ! このままじゃ俺のパーティが全滅しちまう!」

 しかし、誰も反応しない。

 関わりたくないと思っているのだろう。


「あのぉ〜」

「は、はい!」

「ワイバーンってそんなに強いんですか?」

 受付嬢さんに聞いてみた。

「ワイバーンはそれほどまで強い魔獣ではないのですが、それは1体相手の場合を意味します。しかし、今回は3頭いるそうなので、それなりにランクの高い冒険者じゃないと最悪命を落とします」

「ちなみにランクはどの程度なんですか?」

「もし、1体のみの場合はCランク程度なのですが、3体同時となるとAランクに匹敵します」

『ありゃま、それは確かに大変だ』


『ランちゃんは、ワイバーンって知ってるの?』

『うん? ワイバーンか、知っているも何も我の配下の配下じゃな、要は一番の下っ端ですな』

『……そうなんだ』

 ちなみに今どこにいるのかを確かめてみる。


【サーチ】


 ワイバーンというのがどういうものかわからなかったが、近くの3頭という事もイメージしたらヒットした。

『あぁ〜、いるね。そして…』

 次に人のイメージをしサーチを発動すると…。

『3人! ワイバーン3頭に対して3人!』

「これは詰みだね」

「え?」

『おっと、思わず声が出てしまった』

『う〜ん…うん? サーチで見ていたワイバーンが急に方向を変えこのエルランド王国に向かって飛んで来るのがわかった。あ〜、これはヤバいね』


「あの〜、ちょっと良いですか!」

「うん? なんだ? 今は忙しいんだ!」

「その、ワイバーンなんですけど、こっちに飛んできてますよ」

「はあ!? 何言って…ワイバーンがこのくに……」

《ドンっ!!》

またドアが凄い音と共に開かれた。

「ギルマス、大変だ草原に現れたワイバーン3頭がこっちに向かってる!」

「なに!!」

 ギルドマスターがこっちを見て少し睨む。

『ひぇ〜! 恐〜!』

「お前、なんでわかったんだ!?」

「あぁ〜、魔法で? なんちゃって」

「魔法だと? まぁ今は良い、ところで王宮の連中はどうしてる?」

「わからねぇ〜よ、そんな事!」



〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜


 その頃、王宮内にもワイバーン出現の報告が入っていた。

 宰相の部屋には、数名の隊長格と宮廷魔術師団総師長であるエリオノール・カレントが呼ばれていた。

「ワイバーンが3頭じゃと、倒せるのか? エリオノールよ!」

「はっ! 我が宮廷魔術師団を総動員し対処致します」

「おお。それは頼もしい。頼んだぞエリオノールよ」

「はは!」


 その後、宰相は宮廷魔術師団の補佐をするようにと各隊長達にも伝えた。


『ワイバーンが3頭、正直に言うと勝てる、勝てるのはまず間違いないのだが、被害をゼロにするというのは流石に難しいだろうな』


「エリオノール様、ご報告申し上げます」

「なんだ?」

「ワイバーンが、3方向に、分かれました!」

「何!! どこに向かっている!」

「1体は、真っ直ぐここに向かっているとの事、後の2頭はそれぞれ、ギルドがある方と街の方へと向かっております」

「くっ! まずいな! こちらと、ギルドに向かった奴はそれぞれ我らと、ギルドの、連中がどうにかしてくれるだろうが、街に向かったものをどう対処するか!」


 幸いな事に分かれてくれたおかげで、倒すのは容易にはなったが、それでも被害をゼロにというのは難しい。


「くっ! どうすれば……」



〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜


 ギルドサイド


 ギルド内にもワイバーンが3方向に分かれた事が伝えられた。

「よし、王宮に向かった奴はあのねぇ〜ちゃんがやってくれるから問題ねぇ〜な。問題はここと、もう一つ街に向かった奴だ、お前達この街は俺達皆んなの街だ、俺達が守らずして誰が守る! そうだろう?」

「「「おぉ〜!」」」

 周りから歓声が挙がる。

「今回のワイバーン討伐は緊急のクエストとする。討伐した者にはそれなりの報酬を出す! お前ら踏ん張れよ!」


『…ふむ。どうなるか! 運が悪い事にこの街の上級ランカー達はほぼ出払ってるからな』


 今このギルドにいる冒険者達は最高でもCランクの者しか居ない。

 しかもそのCランカーも数えるほどしか居ないのだ。

 ワイバーン1体に対してCランカー数人でかかってようやく討伐ができる相手だ。

『くっ!!』



〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜


『なんか大変な事になってきたな』


【サーチ】


 再度ワイバーンの位置を探る。確かに王宮、このギルド、そして……。

『うん? この方向は……』

「あっ!!」

『ヤバ!!』

 この場にいた全ての人がこっちを見る。

『恥ずかしい〜』

「おい、嬢ちゃん。どうした?」

「い、いえなんにもありません。すいませんでした」


『焦った〜! まずいわね、確かこの方向にはソフィーの家があるはず』


 私はソフィの家をサーチすると、まるでその家を狙っているかのように真っ直ぐに飛んでいる。


『流石にこれは黙っていられないかな』

『ランちゃん、ランちゃんの配下の配下ならなんとかなるよね?』

『無論、問題ないですぞ』

『……では、行きますか!』



〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜


 王国軍


 宮廷魔術師20人、騎士隊30人。



〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜


 ギルド


 冒険者50名



〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜


 王国軍50人、冒険者50人、そして私もまたこのエルランド王国の為、民の為に戦場へと赴くのだった。

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