第14話 緊迫

「ド、ドラゴン!!」

 侍女さんが一番に声を出した。

 その声を皮切りに、ソフィー、アリエラ様は私から少し距離を取って不安そうに見ている。

 そして、侍女さんの声に反応して廊下に待機していた護衛やその他諸々が部屋に入ってきた。

 もちろん、護衛の方々は武器を持ちながらね。

 あと、廊下にいた数人はどこかに走り去って行くのがわかった。


『ヤバ! かなりヤバいかも。でもまぁ、そういう反応になりますよね』


「なんじゃ、どうしたのじゃ?」

「いや、ランちゃんを見て驚いているのよ」

「そうか、これは我に向けての殺気か……」


 言葉を話すドラゴンを見て皆がソワソワとしている。

 しかし、誰も警戒心を解いてくれない。


「ふむ、我はここに座すおわすマユミ様の眷属が一柱〝龍神〟ランドロスである。我はマユミ様に仇なすあだなす者なら容赦はせぬが、その方らはマユミ様の敵なのかな?」


 皆が皆呆然としていて、且つかつ龍神様の流暢りゅうちょうな言葉に圧倒され何も言えないでいた。

「うん? 我の言葉が通じておらぬのかの?」

「ランちゃん、ちょっと待って!」

「ふむ、わかった」

「皆さん、聞いてください。このドラゴンは、決して皆さんの敵ではございません。私が闇属性魔法の眷属召喚にて召喚した私の眷属です。彼は〝龍神〟名をランドロスと言います。彼は私の護衛の様な者です、皆さんには決して危害を加えないと私が責任を持って補償します。ですので、その矛を収めて下さい」


 それを聞いて、護衛の中には不安な言葉も出てきていた。

「マユミ、本当に危険はないのですね」

 アリエラ様が私に聞いてくる。

「はい、全く問題ありません」

「マユミ、近づいても大丈夫なの?」

「ええ大丈夫よソフィー、ほら。」

 私はランちゃんを抱きしめて皆んなにアピールをする。

 じゃあ、とばかりに近づいてくるソフィー。

「王女様、危険では……」

 周りでは護衛の方がそう呟いているけど、ソフィーは気にせずランちゃんの前までやってきた。

「あの、龍神様…。さ、触っても大丈夫でしょうか?」

其方はそちはマユミ様の友達でございましたな」

「ええ、そうですけど。どうしてご存知なのですか?」

「我は、主人。マユミ様の中から貴方様のことを見ておりましたから存じ上げております。そして、貴方様は主人の心の拠り所であり、友以上の関係だと主人は思っておられるのです」

「…ランちゃん!! 恥ずかしいからやめてよ!!」

「ふふ…」

「ソフィー、笑わないでよ。あぁー恥ずかしい!」

「龍神様、私もまたマユミの事を本当に大事に思っておりますわ」

「ランドロスで良い」

「…はい、ランドロス様」

 そんな恥ずかしい事を話しながらソフィーはランちゃんと打ち解けてうちとけていった。

 その光景を見た周りの人達はようやく警戒を解いたのだった。


「ランちゃん、外では皆んなの迷惑になるから私の中に入っていてね」

「我も外を見てみたいのだがな」

『いやいや、貴方の見た目で外に出られたら、迷惑を通り越して大混乱ですよ!』


「ソフィー、今夜はこの前言っていたお風呂を改造するね」

「おお! 楽しみです。…ところでもう体調は大丈夫ですの?」

「うん、大丈夫だよ」

「良かった。今日は私もお母様も用事があってマユミとは一緒に行動できませんが…」

「ああ、大丈夫だよ。気にしないで、今日は街を見て回ろうと思って」

「では、ギルドに行ってみてはいかがですか?」

 アリエラ様が、そう言ってくれた。

「そうですね、一回行ってみます」

「ギルド長にはもう話してありますので」

「ありがとうございます」

「では、マユミまた夜にね」

 ソフィー、アリエラ様共にこの大きな部屋から出て行った。

『ふぅ〜、やっと解放されたか。では街に行く準備を……』

「へぇ? あれ? 服、が無い……」

 私が今着ているのは、どう見ても寝る時に着る物、しかも、私のじゃ無い!

『このままじゃ、外に出られない! うう〜』

「魔法、魔法でなにか……。あっ、出来るじゃん多分だけど」

 私は早速服のイメージを考える、あまり可愛過ぎず、もっさりしてない、程々に可愛い服をイメージする。

 すると、私を中心に光が溢れ出しそして全身を包み込んでいく。

 そして瞬く間にイメージした服が出来上がったのだ。

『よし、これで良いかな』

 私はその場でくるっと回る。

「うん、動きやすい」

「……あのぉ〜、マユミ様!? 今のは?」

「……へぇ?」

『誰も居ないはずの部屋から声が……』

「あっ!」

 部屋の入り口付近に一人女性が立っていた。

『なんでいるのよぉ〜、ねぇランちゃん!』

『なんでございますか?』

『入り口にいるあの子、いつからいるか知ってる?』

『あの者なら、主人が魔法を構築してる途中に入って来ましたよ』

『なにぃ〜!! こうなったら、巻き戻しの魔法で……』


[コンコンコン]


『くっ! このタイミングで誰よ……』

「は、はーい」

 入ってきた人は初めて見る人だった。

『誰?』

 あと、もう一人『ロニオさん』


「初めまして、マユミ殿。私はこのエルランド王国にて宮廷魔術師団の総師長を担ってになっております…」


〝エリオノール・カレント〟と申します。


 そう名乗った女性は腰くらいまである深紅の髪の毛が特徴で、後ろで束ねてあった。

 その顔は整った綺麗な顔立ちをしていた。

『綺麗な人だぁ〜!!』

「マユミ殿!?」

『あ、またやってしまった』

「いえ、何もないです」

「そうですか、ところでそちらが例の〝龍神様〟ですか」

 総師長さんがランちゃんを見る。

 そのランちゃんはというと、私の側で丸まっている。

『ランちゃん、あの人めちゃくちゃ見てるよ』

『そうみたいじゃの、我に物凄い圧力をかけておるわい』

『え! そうなの?』

『まぁ、我には全くもって効かんがの……。ただ、そろそろめんどいの!!』

「うっ!!」

 総師長さんが前屈みにまえかがみなり、項垂れてうなだれてしまった。

「え?」

「総師長殿? どうされたのです?」

 側で控えていたロニオさんが、総師長さんに声をかける。

「いや、何でもないすまない。」


「本物であったか…。」


『ランちゃん…? また何かしたでしょう?』

『何もしておりませんよ』

『それに、本物であったって何のことだろう』

『それは、我が本物の神皇種しんのうしゅかどうかを試しおった結果ではないかの』


『神皇種?』


『左様、眷属召喚にて出てくる召喚獣は、5つの分類に分かれている。一番下が小獣種しょうじゅうしゅ、その上が中獣種ちゅうじゅうしゅ大獣種だいじゅうしゅと続き魔獣種がその上に来る。そして、それらの頂点に君臨するのが我等〝神皇種〟なのじゃ』


『ランちゃん、あなたそんなに凄い子だったのね』


『ふははは、そうかもしれませんが、主人貴方の方が凄い方なのですぞ!』

『どうして?』

『神皇種と呼ばれる神は我を含めて五柱しかおらぬ』

『もしかして…』

『左様、主人が有しておる眷属は五柱、即ち我等〝神皇種〟全てを有しておられるのです』


『………マジで!?』


『…その言葉の意味はよく分かりませぬが、本当で御座います』

『へぇ〜、そうなのねぇ〜! ……聞かなければ良かった』

 項垂れる私。


「マユミ殿は、平気なのですか?」

「えーと、何のことでしょうか?」

「いや、何でもありません。貴方は一体何者なのですか?」

「はははぁ〜、何者でもないですよ、ただの人間ですよ」

「……そう、ですか。ロニオから貴方の事を聞かされてから会いたいと思っておりましたが、想像以上でしたよ」

『え? 何が? 何が想像以上だったの??』

「はぁ〜、そうだ、ロニオさん。この前はお礼も言えず申し訳ありませんでした」

「いえいえ、気にしておりませんよ。私も勉強になりましたから」


「それではマユミ殿、時間を取らせてすいませんでした。これから街に出ると聞いていましたのにお止めしてしまいました。是非楽しんできてください」

「ありがとうございます、カレント様」

「私の事はエリオノールとお呼びください」

「……では、エリオノール様と」

「まぁ、良いでしょう。これからもよろしくお願いしますね」

『お願いします? って、何を?』

「は、はい〜」

 とりあえず頷いておいた。


 そんなこんなで時間が食ってしまったがようやく城の外へ出ることに成功した。


 しかしこの日以来私の名前は王宮内に知れ渡ってしまった。


「ふあぁ〜、やっと出れたよ」

 ランちゃんはちゃんと私の中に入っている為、独り言だ。


 一人で街を歩くのは初めてだったが、気兼ねなく回れる為凄く楽だ。


『ギルドかぁ〜、どんなところだろうか』



〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜


「ふぅ〜、やっと着いた」

 ギルドの場所を知らされていなかった為、迷いに迷った。


「ほへぇ〜、やっぱり王都のギルドだけあっておっきい〜!」

 ドキドキとワクワクが入り混じる中ギルドの門を開けた。


『ほへぇ〜! すご!』


 中もまた広く、清潔感のある空間だった。

 受付らしき所へ向かい、そこに座っていた女性に声をかける。

「あのぉ〜、すいません」

「はい。どうしましたか?」

「初めてなんですけど、ギルドについて教えてもらえませんか?」

「あ、新規加入希望の方ですか?」

「まぁそんな所です」

「では、ご説明………」


《ドンっ!!》


『!! なに? びっくりしたぁ〜』

 後ろの方から聞こえた大きな音に無意識に振り向いていた。そこには、私の身長をはるかに超える大男が立っていた。



「おーい! そこのねぇ〜ちゃん、ギルドに何の用だ?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る