第5話 命

「ところで、マユミ。弓はどうやって手に入れたのです? 最初見た時、持ってませんでしたよね?」

 

『ヤバー! 忘れてた!! てか、私も何で弓が出てきたのか知らないんですけど……』


 不思議そうな表情を向けるソフィー。

「あぁ〜、はは何でだろうね……」


『苦しい……、何で苦しい言い逃れだ……。そうだ!』


「ところでさ、どうやったら魔法は使えるの?」

「え? 魔法ですか、そうですね……って! 先程魔法使ってらしたじゃないですか!?」


「それがさ、自分でも分からないんだよね……。気がついたら出来てた、みたいな!」


「はぁ〜、まぁ良いですわ! 魔法ですけど、全てにおいて共通な事は、思いや願い等で魔法を構築し、簡単な詠唱で解き放つ、という感じですかね」


『思いや、願いね……』


「私は聖魔法の回復魔法しか使えませんが、他の魔法も同じと聞きます」

「ヒール? だっけ?」

「はい、ヒールは、回復系魔法の基礎となる魔法ですね」


『ヒール、ヒールねぇ〜。このボアって基本危険じゃないのよね……じゃあ良いよね』


「……ヒール!!」


 ボアの体を緑の光が包んだ。


『おお〜! ………あれ?』

 まるこげだったボアの体はすっかり元通りになっていた。

 なっていたのだが………。


「マユミ? 何をしているの!?」

「いやぁー、危険な魔獣じゃないのなら、可哀想だし生き返らせてあげようと思ってさ」


「……生き返す!?」


『うん〜、【ヒール】は傷を治すって感じか!? じゃあどうすれば、命・命、そうか魂がもう無いから無理なんだ、それなら』


 さっきより強く思い願う。

『お願いこの子の命、助けてあげて』

【ヒール】の時よりも強い光がマユミの体を包む、そしてその光はボアへと流れ込むのがわかった。

 ボアの体を包む暖かくも強い光。

 私は自然と、ある魔法名を唱えていた。


「レイズ」


 瞬く間にその光はボアの中へと消えていった。

「……レイズ!?」

 そんなソフィーの声が聞こえたが今は構っていられなかった。

 何故なら、体からとてつもなく多くの何かが体中を巡っている感じがし、またそれがボアに流れるのを感じたからだ。

 少しでも集中力を欠けば失敗するとも感じた。

 時にして数秒の事、私は少しの疲労感はあれど特に変わらなく目を開けた。

 すると、目の前のボアの体が少し動き、やがて目を開ける。

 ゆっくり起き上がったボア。

 危険ではないとはいえ、少し恐怖心が出て後退りあとずさりをしてしまう。

 ソフィーは、信じられないと言わんばかりの驚きと、立ち上がったボアへの、警戒心で少し混乱している。

 セバスさんは、そんなソフィーを守るべくソフィーの前に立ち警戒していた。

 しかしそれは杞憂きゆうに終わった。

 ボアは、こちらに少し顔を向けると、すぐに森の方へと向き直り歩いて行ってしまった。

 私達は緊張から解放され、自然と笑いが起きていた。


「マユミって、一体何者なのですか?」

「え? 何者と言われても」

「……いいですか、聖魔法というのはこの国でも使える人は少ないんです。私は生まれつきその素質があったみたいですが、普通の人はまず、素質があったとしても使えません。

 鍛錬をしてようやく使える、という感じです。

 もちろんそのまま使えない人の方が多いくらいです。

 ですので、聖魔法を使えるというだけでこの国では優遇されるのです」

 そう説明したソフィー、聖魔法だけではなく、闇魔法、空間魔法もまた同じような感じらしい。

 創作魔法に至っては……

「それなのに、マユミ!」

「はいっ」

「今さっきマユミが使った、レイズという魔法ですが、あれは何ですの? まず私は知りません。

 そもそも、無くなってしまった命を無かったことにするような魔法です、相当の魔力が必要だと思うのですが、マユミは平気なのですか?」

「確かに、発動した時かなり多くの何かが体中を巡ってたな」

「それが魔力です、魔法とは魔力を必要としますが、魔法の難易度によって使われる魔力量が異なります、ましてや命を元通りにするなんて、普通なら命の危険がある魔法かと思います」

『へっ、へぇ〜そう、なんだ……』

「特に変わった事はないんですよね?」

「え、えぇ〜、大丈夫みたい」

「そう、ですか……セバス」

「はい、お嬢様」

 何やら、ソフィーとセバスさんが話し込んでいる。

 しばらくし、こちらに向き直るソフィー。

「では、行きましょうか」

「え、行くってどこへ?」

「もちろん、私の家にですよ」

「……え、さっき丁重にお断りしたと思うのだけど……」

「あぁ〜、それは無理となりました」

「へぇ?」

「レイズなんて、魔法を使った方を放ってはおけませんもの、それに」

「それに?」

「気になる事がありますの」

『え? 気になる事?』

「では、参りましょう」

 私の手を取り楽しげに笑うソフィー。

『まって、まってぇよ〜、気になる事ってなに? 嫌な感じしかしないんですけど〜』

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