第6話 農民達の国

『……ほぉ〜! すごぉ〜!』

 目の前には中世ヨーロッパを思わせる程大きなお城が佇んでたたずんでいた。


 草原にいたのは数分前のことだ、私とソフィーそしてセバスさんは今、エルランド王国王宮前にいた。

 遡るさかのぼること数分前、私の手を取った後ソフィーはセバスさんに『お願いね』と声をかけた。

 するとセバスさんは何やら集中し始め、ある魔法を発動した。

 一瞬の事でわからなかったが、気づいた時にはこの王宮の前に立っていたのだ。

「セバスはね、空間魔法が使えるのよ、そして今のは場所と場所をつなぐ魔法【ゲート】という魔法」

『確かに向こうでゲートって言ってた様な』

「空間魔法、ですか。他にはどんな空間魔法があるのですか?」

「そうですね、先程使った【ゲート】は場所と場所を繋ぎます、その為自分が知っている場所、行った事のある場所にしか移動出来ません。移動系では【ワープ】という魔法もありますが、こちらは見えている範囲までしか移動ができません」

「なるほど、便利な魔法ですね」

「はい、ですがこの魔法は構築が難しく発動までに時間がかかるのが厄介で、先程のボアの時は集中できず、お嬢様には怖い思いをさせてしまいました」

「セバス、その事はもう良いの、おかげでマユミという素晴らしい方と巡り会えたのだから」

「そうでございましたね。ではお嬢様、マユミ様、私はこれにて失礼致します」

「ありがとう、セバス」

「ありがとうございます、セバスさん」

「いえいえ、今後ともお嬢様を、よろしくお願い致します」

 そう言い残しセバスさんは王宮の中へと入って行った。

「では、私達も行きましょうか」

『とうとう、王宮に……?? あれ? ソフィーさん?』

 目の前の王宮がどんどんと離れて行く?

「ソフィー?」

「何ですか?」

「家に行くんじゃないの?」

「はい、そうですけど」

「え? でも、家ってあそこじゃないの?」

 王宮を指さす。

「確かにあそこにも住む所はありますが、家というよりは職場です」

「職場?」

「父があそこで働いています」

「……え〜っと、お父さんって……確か」

「そうですよ、この国の王ですね」

「え? じゃあ職場という事は毎日通っておられるの?」

「流石に王ですから、通ってはなく王宮に住んでますよ」

『ですよねぇ〜』

「ソフィーは、あそこには住んでないの?」

「うん〜、泊まることはありますけどたまにですね。私と母は別の場所で普段は暮らしています」

『ま、まさかの王様、単身赴任!!』

「先程も言いましたが、この国の王は元は農民です。そして一度無くなった国でもあります。ですから、王族のみが裕福な生活をするという事が無い様にとの事でこの様な形になっています」

「へぇ〜」

『変わってる国だ〜』

「もちろん、王族ですから少しは皆んなより裕福ではありますが、それは身の安全の保障という概念からそうなっています。いきなり王や王族に何かあった場合、国の運営が立ち行かなくなる為です」

「なるほどね、ちなみに王以外に誰があそこに住んでるの?」

「この国の幹部達、要は父の友達兼側近です。他にも数人の料理人、執事にメイドの方々、掃除を担当する人達、そしてその方々の家族も多くはないですけど住んでますね」


『私の知ってる王宮じゃない……』


 あまりにも違いすぎる王宮の概念がそこにはあった。

 まさか、王妃と王女が王宮で暮らしてないなんて。


 王宮から伸びるメインストリートには沢山の店が並びそれを目当てに多くの人が訪れていた。

「凄い賑わいね」

「元は農民の出の人が多いって事もあって、商売もどんどん発展していって、今では商業都市エルドとも呼ばれています」

「エルド?」

「エルランドって言いにくいからそうなったみたいです」


「あ〜ソフィア様だ、ソフィアさま〜」

「こんにちは」

「ソフィア様、寄って行って下さいよ」

「ありがとう、また今度是非行かさせて頂きますね」

「ソフィア様」「ソフィアさま〜」

「人気者なのねソフィーは」

「そんな事はないですよ」

 結局ソフィーの家に着くまで出会った人達から声をかけられていた。

「マユミ、ここが私の家よ」

 そう言われて視線を向けると、少し大きめではあるが他の家とあまり変わらない建物が立っていた。

「ただいま、ママ〜」

『ママ〜!? それに、ただいまって……』

「おかえり、ソフィー。あら、そちらの方は?」

 出迎えてくれたのは、ソフィーに良く似たとても美しい女性だった。

「こちら、マユミっていうのよ。今日危ない所を助けてくれたの」

「あら! そうなの!! ごめんなさいねマユミさん、ソフィーが迷惑をかけたみたいで」

「いえ、大丈夫です」

「マユミ、こちらが私の母、アリエラです」

 ソフィーに紹介された女性は、これぞ貴族のお辞儀と言わんばかりの綺麗な姿勢をし、私と向き合う。


「お初にお目にかかります、エルランド王国、王妃アリエラ・リム・エマニエルでございます」

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