第9話【山田先生:教育課学芸部・バンド係】

インド人のような顔立ちだが日本人。穏やかな口調で、時には厳しい、

お兄さんみたいな人。物事の良識を持っている人。

棟から棟を移動するとき、受刑者は勝手には移動できない。決まった通路を

号令をかけながら、基本、一列で歩く。そして保安上、必ず先生が後ろから

ついてくる。が、こともあろうに山田先生はバンド練習部屋の鍵をもって、

バンドメンバーの移動の時には娑婆のように管理者が前を行く。

知れたら懲戒ものだろうが、そんな人間味のある山田先生が誰よりも

メンバー全員が大好きだった。バンドの管理者として鬼軍曹に命ぜられたのだ。


バンドの練習は週一であった。しかも体育時間にやるものだから、

他の受刑者から反感をもらっていた。発表会前になると練習も毎日と

なったためその反感は増し、とうとう他の先生からも嫌味を言われるように

なった。しかしそこは鬼軍曹のお膝元なので安全は確保されていた。

慰問演芸と題を打ち、いかにも俺が作った楽団だといわんばかりに、

鬼軍曹が自慢していた。全国刑務所内の機関紙「人」誌にも案内され、

テレビ番組の特集も組まれ、モザイクと音声変えての出演もした。

他の施設にも慰問で行かされた。セピア色の管内と違い、久しぶりの

娑婆ではカラーが溢れており、目が疲れる経験もした。

 鬼軍曹からお達しだ!

「そろそろ発表したいから、今流行りの音楽をやれってさ」

舎房には楽器を持って入れるはずもなく、どうやってみんなのパート譜を

作るのか?それは次回までのお楽しみに!

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THE GARAKUTER'S 津屋崎晋 @musika1982

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