第4話 あおい荘の住人たち


「あおいちゃん、いいかな」


 ノックすると、ドタバタと音がした後で、あおいが慌てた様子でドアを開けた。


「……大丈夫?」


「だ、大丈夫です。別に私、寝ちゃってた訳ではないですから」


「……寝てたんだね。いいよ、そんな言い訳しなくても。ここはもうあおいちゃんの部屋なんだし、好きにしてたらいいんだから」


「で、ですから私、ちゃんと起きてましたです」


「分かった、あおいちゃんは寝てなかった。これでいい?」


「はいです」


 そう言ったあおいの笑顔に、また直希は見とれてしまった。


「それで直希さん、何か御用ですか?」


「あ、ああそうだった。晩御飯の用意が出来たから呼びに来たんだ。お昼にあれだけ食べたんだし、まだお腹、空いてないかな」


「晩御飯!私もご一緒していいんですか!」


「あ、やっぱり食べれるんだ。じゃあ食堂に行こうか。ついでにみんなに紹介するから」


「みなさんに?」


「うん。みんな食堂に来てるからね。こういうのは早めに済ましておく方がいいから」


「わ、分かりましたです、よろしくお願いしますです!」


「あ、いや……俺にはもういいからね」





「えーっと、食事中にすいません。食べながらで結構ですので聞いてもらえますか。

 もうじいちゃんばあちゃんから聞いてると思いますが、今日からこのあおい荘に、新しいスタッフが入りましたので紹介させていただきます。さ、あおいちゃん」


「は……はいです……」


「名前は風見あおいちゃん。年は23歳だそうです。今日は長旅で疲れてたみたいなんで、みなさんと一緒にゆっくりしてもらいますけど、明日からしっかり働いてもらおうと思ってます」


「あ……あの……」


 栄太郎や文江を含め、6人の視線があおいに注がれる。あおいは直希の服の裾をつかんだまま、緊張した面持ちで言った。


「か……風見あおいです。直希さんのご好意で、今日からこのあおい荘に住まわせてもらうことになりましたです。色々ご迷惑をかけるかと思いますが、どうかよろしくお願いしますです」


 勢いよく頭を下げる。それに合わせて直希も、


「そういうことですので、温かく見守ってあげてください」


 と、一緒に頭を下げた。


「あおいちゃん、よろしくね」


 文江がそう言って、あおいの手を握った。


「は、はいです、ありがとうございますです」


「じゃあみんなを紹介するね。まずはこの人、西村誠三さん」


「ナオ坊、こんなかわいい娘っ子、どこで見つけてきたんかいの。お嬢ちゃん、よろしくな」


 そう言って西村が、あおいの手を握る。


「はいです。西村さん、よろしくお願いしますです」


「ちなみに……気を付けるようにね。この人、かなりスケベだから」


「ナオ坊、それはシーッじゃ」


「西村さん、この子につぐみや明日香さんみたいなこと、したら駄目だからね」


「ほっほっほ、何のことやら」


「この人、たまに風呂場とか覗きに来たりするから、気を付けてね」


「そうなん……ですか?」


「まさかまさか、ナオ坊、あれは事故だと何回も」


「事故で済んだら警察いらないですって。ほんと、頼みますよ。ほら、そろそろ手を離してあげて」


「厳しいのぉナオ坊は」


「直希さん、つぐみさんと明日香さんって」


「ああ、また紹介するよ。ここによく来るお客さんなんだ。それから次は……この人。小山鈴代さん」


 そう言って、車椅子の前で腰を下ろした。


「はじめまして。これからよろしくね」


「よろしくお願いしますです、小山さん」


「小山さんにはお孫さんがいてね、よくここに来るんだ。今は高校三年生、年も近いから、すぐ仲良くなれると思うよ」


「そうなんですか。お会いするのが楽しみです」


「それからこちらの貴婦人が山下恵美子さん。映画大好き人間」


「よろしくお願いしますです、山下さん」


「貴婦人って、ふふふっ、直希ちゃん、お上手ね。あおいちゃんあなた、映画はお好き?」


「はいです。でも私、どちらかって言えば古い映画の方が好きで、最近のはちょっと」


「どんな映画?」


「ベン・ハーとか、ローマの休日とか。あと、ロミオとジュリエットも好きです」


 その返事に、山下が思いきり直希の背中を叩いた。


「ちょっと直希ちゃん聞いたかい?いい趣味持ってるじゃないの。あおいちゃん、よかったらいつでも私の部屋に来てね。一緒に映画、見ましょ」


「はいです、楽しみにしてますです」


「そしてこの人は、生田兼嗣さん」


「よ、よろしくお願いしますです!」


「……ああ、よろしく」


「ちょっと無口な人だけど、優しい人だからね。最後は俺のじいちゃんばあちゃん。新藤栄太郎さんと文江さん」


「直希、昼にばあさんも言ってたけど、いい加減そのコンビみたいな呼び方、何とかならんのか」


「あ、でもでも私、その呼び方好きですよ」


「そう……なのか?」


「はいです!とっても可愛いと思いますです!」


「んっ……ま、まあ、あおいちゃんがそう言うなら、いいかな」


「何ですかおじいさん、顔、赤くなってますよ」


「そ、そんなことは」


「ははっ……じゃあ顔合わせも済んだことだし、あおいちゃんもご飯、一緒に食べようか」


「はいです!いただきますです!」


「……今のが一番、元気な声だったな。ははっ」

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