第6話 私は忙しいけど元気です。

【ユイナーダ王城宰相府宰相補佐官室】



私は、ユイナーダ王国第四王子シオン。

三年前に学園を卒業し、現在はここ宰相府で宰相補佐をしている。

いずれ宰相の跡を継ぐ予定の私は、かなり忙しい……

今日も早朝から、ずっと仕事をしている。




「シオン様、コーヒーが入りました。

あまり根を詰めるとお仕事に差し支えますよ。」


気を使って秘書官がコーヒーを持って来てくれた。


「ありがとうクリス。

たまには、君も一緒に飲まないか?」


そう言って彼にも休憩を即す。

彼も早朝から一緒に仕事をしているのだから、疲れているのは同じはずだ。


彼の煎れてくれるコーヒーは、とても美味しい。

学生の頃よく通った【ユウリン館】で出されるコーヒーに引けを取らない美味しさだ。


「ありがとうこざいます。

では、お言葉に甘えて頂きます。」


彼は、私の秘書官をしているクリス。

学園の頃からの友人で三年も飛び級して学園を卒業した非常に優秀な男だ。


だが彼の嗜好はかなり変わっている、コーヒーを飲む時に入れる砂糖の量が、尋常ではないのだ。


私は、こういう人間をもう1人知っている。

叔父のロピアー公爵だ。

彼と叔父は、紅茶に砂糖を入れないのにコーヒーにだけ大量に砂糖を入れる。


「シオン様どうしました?

私の顔に何か着いていますか?」


「いや、別に……。」


「⁇」


それにこの飲み方……

そして何よりこの顔、叔父にそっくりだ。


「⁇」


クリスは不思議そうにドロのように甘いコーヒーを口にした。


******************



【ユイナーダ学園高等部二年】



この一年で肩書きが増えました。

新聞部部長、作家、絵本作家、シナリオライター、同人作家です。

なので私は、かなり忙しい。

でもお陰様で人脈を広げる事ができました。




新聞部長として、学園内外での取材を通して学園生や学園街の人達との交流。

作家や絵本作家として、作品に関わった多くの人達や作品のファンの方達。

シナリオライターの仕事を通して、出会った演劇部の人達。

仕事を手伝ってくれる同人仲間達。




感謝です。




毎日忙しいけど、私は幸せです。




そんな頃あの事件が起こったのです。


【エミール様悪役令嬢事件】

(国立ユイナーダ学園高等部シリーズ①参照)


エミール殿下に纏わりついている、失礼な女生徒がいる。

最近、編入して来たばかりの男爵家の庶子、キヨミナさんです。

私達はエミール殿下が小説を書いていらっしゃる時、お邪魔にならないよう話し掛けたりしない。


それなのにこの方は、エミール殿下が社交辞令で、呼び捨てにしても良いと言われたのを、真に受けて本当に呼び捨てにしたのです。


その上、エミール殿下の執筆活動を妨げるなんて!

見兼ねてクラスメイトが、何人も注意しましたが聞く耳を持ちませんでした。

私も注意しましたが『アタシの身分が低いからバカにしてるのね!』と言って教室から出て行ってしまいました。


その内、他の学科の人達に『クラスメイトにイジメられている』『エミールって貴族の女に教科書を破られた』『制服を汚された』等とありもしない事を言いふらして同情を買い、金品を巻き上げ始めたのです。


エミール殿下は、締切が近いのかそういった事に感心がありません。

仕方なく私は、エミール殿下の婚約者であるサーラちゃんに、それとなくエミール殿下に状況を説明して、対処して頂くように頼んだのですが……


その日の放課後、エミール殿下の事が心配で図書室に行くと、騎士科のレオル先輩がいて何故かサーラちゃんに詰め寄っていたのです。


そういえばレオル先輩、確かキヨミナさんと付き合い始めたとか聞きましたけどまさか……


「お前がエミールだな!」 


あ、終わった……。


残念です先輩、きちんと調査しハニトラに引っ掛からなければ、『殿下方の近衛騎士に』との話しもあったのに本当に残念ですわ。

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