超巨大戦艦は動かせない

 巨大なフネは好きですか?スペースオペラや宇宙モノのSFなら登場させたいですよね?映画「スターウォーズ」第一作目の冒頭シーン、画面を圧するようなスターデストロイヤーの迫力に鳥肌を立てた方は多かったんじゃないでしょうか?宇宙戦艦ヤマトPart2あるいは映画「さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち」の中でやっとの思いで倒したと思った白色彗星の中から巨大戦艦が出てきた時の絶望感!地球を背に立ちはだかる超時空要塞マクロスの、いかにも決戦っていう高揚感。「ガールズアンドパンツァー」第一話の普通の街だと思っていたのにカメラがずっと引いていったら超巨大な空母だった時のワクワク感。


 いいですねぇ、大艦巨砲主義は王道です!


 巨大戦艦というのは何故こうもロマンチシズムを掻き立てるのでしょうか?

 ここでフロイト的な解釈を持ち出すようなオゲフィ~ンな御方にはお黙りいただくとして、大きい船というのはやはり安心感がありますよね。そう簡単には沈まないというような頼もしさを感じさせます。

 実際、大きい船は小さい船に比べて揺れが小さく、荒天でも安定しています。


 仮に風速15~20m/s、波高約5m、波長(波と波の間隔)約100mの荒れた海を船が航行することを考えてみましょう。これはビューフォート風力階級によれば7~8,気象庁の波浪階級によると6に相当し、船舶はもう避航ひこうするするのが無難とされ、実際にフェリー等旅客船舶は運休しはじめるレベルの荒れ模様です。

 こんな中では小型の船舶にとって波はもう山のようですね。水の山を駆けのぼり、乗り越えては駆け降るの繰り返しです。波の谷間に沈み込んでいる時には、水平線も波頭の向こうに隠れて見えなくなってしまいます。ただ針路を保つだけでも大変なのに、波を駆けのぼる時はエンジンを吹かし、波頭に達する手前辺りからスロットルを絞り、減速しながら波を駆け降るというような操作も必要になってきます。それが全長200mを超えるような大型船舶となると、揺れないってことはさすがにありませんが小型船よりはだいぶ楽になります。


 船が何で揺れるかというと浮力ふりょくの分布が変化するからです。浮力とは沈み込んだ船体が押しのけた水の量に比例し、船体が沈み込めば沈み込むほど大きくなります。

 船が航行中に前方から大きな波が来ることを想像してみましょう。船首が波に突っ込むと船首が水中に潜り込んだ分だけ船首部分の浮力が強くなり、船首が持ち上がります。そして逆に波を乗り越えると、波頭の先で船首が水面から持ち上げられてしまい、その分だけ浮力が減じて今度は船首が沈み込もうとし始めます。船尾でも似たような現象が起き、船首と船尾の浮力のバランスが変動することで、船は前後に揺れることになります。当然、左右でも同じような理由で浮力が変化し、左右にも揺れます。

 これがもしも船の全長が200m以上で波長が100mなら、船体が常に複数の波頭にまたがって航行できるわけですから、船は安定しやすくなって揺れは小さくなります。船にとって一番苦手なのは船の全長と波長がほぼ同じ長さの時だそうですが、基本的に大きければ大きいほど揺れない、荒天に強い船になると考えて良いでしょう。


 実際、それを根拠の一つとして全長609m、全幅91m、排水量50万トンという超巨大戦艦が構想されたこともありました。太平洋の波長がだいたい90mくらいだから、それより全幅を広く取って、それを基準に全長を伸ばせば太平洋でまったく揺れない戦艦が出来るという発想です。

 軍艦というのは揺れる船の上から大砲を撃たねばなりませんから、どうしたところで陸上の大砲に比べて砲撃の精度は各段に落ちます。陸上の要塞と軍艦が撃ち合えば軍艦が必ず負けるとまで言われるほど、その差は圧倒的と言えます。それが船体を超巨大化することによって波による動揺を無視できるようになるのならば、普通の軍艦なんて簡単に圧倒できてしまうことでしょう。また、大型化すれば沈みにくくもなりますしね。


 船を沈めるためには基本的に船体に穴を開けて浸水させ、それによって浮力を奪うしかありません。火災を起こさせて弾薬庫を誘爆させると言うのもありますが、それにしたところで船体を破壊して浸水によって浮力を奪うからこそ、船が沈むと言う点で全く同じです。

 しかし、軍艦は攻撃を受けることを前提にしているので、船体に穴を一つ開けられたぐらいで浮力を全部失って沈むことが無いよう、色々と工夫がされています。船体を細かく区切って浸水が起きても被害を最小限に食い止める水密隔壁すいみつかくへきなどはその典型ですね。他にも浸水を吐き出すための排水ポンプやら、浸水で船が傾いた時にあえて反対側に水を入れてバランスを保つ応急注排水おうきゅうちゅうはいすい装置などもあります。

 ともあれ、そうした対抗手段による防護能力以上に浸水を発生させ、浮力を奪わなければ軍艦を沈めることはできません。つまり、複数の攻撃を命中させる必要があると言う事です。

 一つの攻撃によって発生させられる被害が一定の範囲に留まるのであれば、船体が大きければ被害を受け止められる余裕分もそれだけ大きくできると考えられるので、船体が大きければ沈みにくいということになります。たとえば魚雷攻撃で軍艦を沈める場合、軍艦の排水量一万トンあたり1発以上命中させる必要があるように思われます。戦艦「武蔵むさし」なんかは6万4千トンの船体で21本もの魚雷を食らって沈みましたが、姉妹艦の戦艦「大和やまと」は7本で沈んでますね(正確な数は諸説ありますが)。空母「信濃しなの」は魚雷4本で沈んでますが、あれは乗員がほとんど乗り込んでおらず対応できない状態でしたから例外です。


 そのように考えると船は大きければ大きくなるほど安定し、沈みにくいというのは否定しようのない事実と断じてしまって良いでしょう。 

 仮に同じ厚さの装甲を全体に張り巡らすにしても、船体のサイズが大きい方が容積に対する表面積の割合は小さくなりますから、船体全体の重量(またはコスト)に対する装甲が占める割合も小さくでき、単体の兵器としての効率も高くなります。


 うん、大きいことは良いことだ!


 でも図体が大きくなれば取り回しは難しくなります。車だって軽自動車は簡単にどこへでもスイスイ入っていけるほど取り回しは簡単ですが、それが普通乗用車、大型SUVとなると乗りなれないレンタカーで知らない狭い道を行くなんて正直勘弁してもらいたくなりますし、中型トラック、大型のトラック・バスや大型トレーラーともなると、それ用の免許をわざわざ取得しなければなりません。

 船だって日本の法律では免許無しで乗れるのは手漕ぎボートか動力付きなら全長3m未満で出力1.5kW以下まで、小型船舶免許で一人で運転できるのは全長80フィート(約24m)未満で20総トン未満までです。それ以上となると海技免状という別の資格が必要となり、しかも航海士と機関士が別々に必要になり一人では操縦できなくなります。

 大きなものを動かすにはそれなりに周囲に対して注意を払う必要がありますし、色々と問題も出てくるからです。


 法的な問題を無視したとしても、たとえば戦艦「大和」はサイズの割に旋回性能が高くて小回りが利いたことで知られていますが、それでもあれだけ重たいフネですからどうしたところで慣性は大きくなります。だから舵が効き始めればクルクルと旋回してくれますが、実際には舵を切ってから旋回し始めるまでの間たっぷり1分以上は慣性の影響で直進し続けるとかいう話もありますね。

 戦艦「大和」よりずっと重たい現在の大型石油タンカーなんかは、海上を航行している状態から停止しようとしても、2kmくらいは直進し続けてしまうという話もあります。

 まあ、小回りなんて利かせようがないから仕方ないですね。


 船体そのものの慣性を何らかの技術や物凄い出力の機関で無視するとしても、中に乗っている人のことも考えなければなりません。

 たとえばアナタがアニメ「超時空要塞マクロス」に登場する全長1210mの初代マクロスに乗っているとします。すると後ろに敵が現れました。急いで向きを変えなければなりません。マクロスがその場で静止した状態のまま30秒かけて180度反転して向きを変えるとするとどうでしょう?


 30秒って結構ゆっくりじゃないですか?


 30秒で180度反転…それは時計の秒針と同じ速さです。

 でもそれが全長1210mの船でとなると大変です。中に乗っている人には遠心力がかかるからです。1210mの船体がその場で30秒で180度反転…毎分1回転の速度で回ると、その船の船首あるいは船尾の端の方に居る人にはおよそ0.7G近い遠心力がかかることになります。


 0.7Gってどれくらいか分かりますか?


 大体、車でやや急なブレーキをかけて、助手席に乗ってる人の背中が背もたれからフワッと浮くくらいの減速力が0.3Gです。0.7Gはその2倍以上…ちょうど普通自動車で乾燥したアスファルト舗装の道路で全力ブレーキをかけ、ホイールがロックしてABSが作動しはじめる時の減速度が0.7Gです。まあ、座席にシートベルトで身体を固定するのでない限り、普通の人は姿勢を保つことなんてできません。

 しかもこれ、定常円旋回…つまり一定のペースで旋回し続けている場合の数値です。ジッとしている状態から旋回を始め、向くべき方向が近くなって減速する…その過程で生じる加速度/減速度は考慮していません。

 静止状態から旋回を開始し、90度向きが変わるまで旋回速度を上げていって、90度超えたところで旋回速度を下げて180度旋回することを考えると、旋回速度が最大になっている時の遠心力はおそらく3Gを超えるはずです。旋回開始し旋回速度を上げていく過程で感じる加速G、そして90度旋回を終えて減速し始める時の減速Gは0.4Gくらいにはなるでしょう。


「反転180度ぉーっ!!」


 っていう号令がかかったかと思ったら、艦中央に居る人たちはそうでもありませんが、艦首あるいは艦尾に居る人はいきなり椅子から放り出されるような加速Gを感じ、それが加速と共に徐々に遠心力が加わっていき、15秒後には3Gもの遠心力で壁に押し付けられ、それから今度は15秒かけて3Gの遠心力が0.4Gの減速Gに置き換えられていくという体験をしなければならないわけです。その30秒の間に怪我をしないでいられる人がいるんでしょうか?


 全長1210mのマクロスでさえそうなんですから、スターウォーズシリーズのエグゼクター級スター・デストロイヤーなんてどうなるんでしょう。全長19㎞ですよ?


 まあ、あの辺の超巨大戦艦は人工重力とか慣性制御みたいなSF技術が普通に実現しているので、旋回する際の中の人たちに加わる遠心力なんてキャンセルできてしまうのかもしれません。というか、そうでなければまともに方向転換すらできないでしょうね。


 しかし、19㎞もの全長となると、もうほとんど大気圏に降りるわけにはいかなくなってるでしょうね。仮にエグゼクター級スター・デストロイヤーが地球の大気圏に降下して、やはりマクロスでたとえた時と同じように方向転換するとしましょう。そうですね、1分かけて180度反転するとどうなるでしょうか?

 時計の秒針の半分の速度で旋回する…言うなればそれだけなので簡単なようですが、ただそれだけのことでも全長19㎞の超巨大宇宙戦艦が行えば艦首と艦尾の速度が音速を超えちゃうんです。しかもあの図体の物が超音速で動くんですから衝撃波は凄いですよ?飛行機が低空で音速突破した時とはわけが違います。地上のあらゆるものが被害を受けるでしょうね。

 ガラスや陶磁器なんて全部割れちゃうでしょうね。家なんて軒並み崩れちゃうんじゃないでしょうか。人や動物なんか片っ端から吹き飛ばされるか、耳の鼓膜が破れてしまうかもしれません。そういえば戦艦大和が初めて主砲を実弾射撃試験を実施した時、衝撃波の大きさを調べるために甲板にカエルの入ったカゴを並べたそうですけど、射撃の後でカエルが口から内臓を吐き出して死んでたりしたという話がありますね。プールやお風呂に入っていた人や魚なんかは内臓破裂で死んじゃうかもしれませんね。戦時中、船から海に落ちたり飛び込んだりして海上や海中に浮遊している人が爆弾や爆雷の爆発の衝撃波によって水中爆傷すいちゅうばくしょうになって死亡した人の記録が残っていますが、外傷が全くないにもかかわらず次第に腹が膨らんできて激しい腹痛でかなり苦しみながら、憔悴しょうすいして死んでいくのだそうです。おそろしいですねぇ。


 これだけ巨体となると、ただ進むだけでも大変なことになりそうです。

 ロケット推進方式だったりしたら、ロケットが噴射される後方は大変なことになるでしょうね。現在の衛星打ち上げロケットでさえ、打ち上げの際は半径数㎞(種子島宇宙基地の場合で3㎞)を立ち入り禁止にしなければならないのです。仮にロケットエンジンなんか使わず、反重力とかで何かを噴射しなくても良い推進方式を使っていたとしても、数㎞にも及ぶような巨体が大気中を移動すればその容積に匹敵するだけの大気を押しのけながら進むことになるのです。衝撃波は発生しなくても、地上では気圧が急激に変化したりするかもしれませんね。

 それが海に浮かぶ船だったらもっと大変です。


 例えばアニメ「ガールズ&パンツァー」に登場する学園艦…設定によると全長7600m、甲板長7100m、甲板最大幅900m、喫水250m、甲板高440m、艦橋高150mだそうです。初代マクロスの6倍超ですね。こんな船が航行するんです…航跡波こうせきはが凄いことになるとは思いませんか?


 船が航行すれば、必ずそれまでそこにあった海水を押しのけながら進むことになります。その時に出来る波を「航跡波」、「航走波こうそうは」、あるいは「なみ」などと呼びますが、これは船が大きければ大きいほど、速度が速ければ速いほど、造られる波も大きくなることが知られています。


 もちろん、航跡波の大きさは船体形状や速度によって随分変わります。同じ速度でほぼ同じ大きさの船が航行したとしても、高速を発揮することを目的に設計されたウェーブピアシング型高速双胴船と、たくさんの貨物を運ぶことを目的に設計されたタンカーでは航跡波の大きさや形は全く違ったものになるでしょう。高速発揮することを目的に設計された船体形状の方が航跡波は小さくなります。

 学園艦は「翔鶴しょうかく」型空母をモデルにしているそうなので、高速発揮を意識した船体形状をしていることが想像できますが、それにしたところであのサイズでは相当な航跡波を生じさせてしまう事は疑いようがありません。

 

 全長100mくらいの普通の内航船ないこうせんでも、港の中を10ノット(約19km/h)で航行すると航路から約200m離れた岸壁付近ではその航跡波によって水位が±20~30㎝くらいは変化します。つまり、波高約50㎝の航跡波が起きていると言えます。

 残念ながら「翔鶴」型空母がどれくらいの航跡波を発生させるのか、データが存在しないので「翔鶴」をベースに学園艦が起こすであろう波の大きさを正確に推算することは不可能です。ですが仮に一般的な内航船などの船と同じような航跡波を発生させると仮定し、それをそのまま学園艦サイズに拡大して計算してみます。


 航跡波の推算には一般的にフルード数を用います。フルード数は船の速度(単位:m/s)を船の代表長と重力加速度の積の1/2乗で割ることで求められます。


フルード数 = 船速/(重力加速度 × 代表長 )^0.5


 代表長は一般に船の全長(m)を当てはめることが多いですが、だいたい船の大きさの比較ができる数値であれば良いのだとかなんとか…乱暴ですね。まあ、この式ではどのみち大まかな目安程度にしか求められないので大目に見てください(ホントに厳密に求める場合は船の精巧な模型を作って水槽で実験計測を繰り返しさないと無理なんです)。で、フルード数を3.5乗して0.9倍すると、だいたい発生する航跡波の最大波高/船の全長を示す係数H/Lが求められます。


 H/L = 0.9 × フルード数^3.5


 このH/Lの数値に再び船の代表長の数値を積算すれば最大波高が推算できることになります…が、これらの式に学園艦の全長7600mを当てはめても波がほとんど立たないという結果になってしまいます。

 実はこの推算式はフルード数が0.08以上でなければ成立しないそうで、0.08を下回るような極端に小さい場合はフルード数を3.5乗するんじゃなくて別の補正式を用いなければならないのだそうですね。で、私もド素人なんでさっぱりだったんですが、なんやかやでその補正式とやらを調べて計算してみた結果…あの学園艦は10ノットで航行したばあい、7~11mほどの航跡波が発生しそうです。

 10ノット(約19km/h)って言ったらだいたい港湾内で船が事故とか起こさないように周囲に注意を払いながら航行している時の速度です。乗用車の感覚で言えば駐車場の中を10~20km/hぐらいでゆっくり移動しているくらいの速度感なんですが、その時でもあの学園艦は7mを超える波を発生させてしまうわけです。まるで津波ですね。

 航跡波は当然、深度の深い外洋を航行している時と、船底をりそうな浅い水域を航行している時では後者の方が波が大きくなりますから、港湾の中ではもっと波が大きくなりそうです。


 波もですけど、あの船を接舷させるためには港を整備するのが大変ですよ。なにせ喫水が250mもあるんですから…そんな船が入港するためには水深250m以上深くなるよう海底を浚渫しゅんせつ(海底の土砂をさらって深くすること)しなきゃいけないんです。戦前の日本は大型の軍艦や船舶が航行できるように瀬戸内海の浅い部分を浚渫したことがあったそうですが、そんなの比べ物にならないくらいのとんでもない大工事ですよね。


 アニメの中ではあの学園艦が大洗港おおあらいこうに入港していたようですけど、あれを実現しようと思ったら港の中はもちろん、大洗港から日本海溝にほんかいこうまでの水深250m未満の海域で学園艦が航行するルートすべてを浚渫しなければならないのです。茨城県沖は日本海溝が近いとは言え、海岸から20㎞くらいは沖に出ないと水深300mにはなりません。何かあった際にUターンできるようにしておかねばなりませんから、最低でも幅8㎞以上のルートを用意する必要があるでしょう。面積で160平方㎞以上を浚渫しなければなりません。

 そして茨城県沖の水深は平均で100m無いくらいですから、150~200mは深く海底を掘り下げる必要があります。仮に平均180m掘り下げるとして288億立法mの土砂を海底から浚うことになります。ざっと東京ドーム23杯分ですね。

 浚う土砂の重量がどれくらいになるか想像もつきません。普通、土砂の比重は1立方mあたり1.3トン(水を含んでいると1.8トン)になりますが、海底の土砂は水圧で圧縮されているはずなので、海底では1立方メートルでも掘り出して地上に持ってきたら比重がどれくらいになるか…少なくも1.8トンじゃ済まないと思います(まあ、陸揚げする前になるべく水を切るんでしょうけど)。

 もちろんこれは「最低でも」という数値であって、実際はあの巨艦を幅8㎞ほどのルートを航行させるなんてまず無理ですから、風や潮に流されることも想定してもっと広い範囲で浚渫しないといけないでしょう。


 浚渫工事だけで総工費いくらになるんでしょうね?


 そしてあの船が接舷せつげんすることを考えてください。

 岸壁につけようとしたら、岸壁と船体の間の海水は居場所を失って押し出されることになります。全長7500m、喫水250mの船が時速1mで接舷するとしたら、一時間で1875キロトンの海水が前後250mの隙間と海底7500mの隙間から押し出されることになるんです。1㎡あたりの流速は最大で234トン/時くらいになるでしょうか?…下や前後だけじゃ間に合わなくて上にも溢れ出そうですね。つまり、船と岸壁の間から岸壁の上に海水が噴きあがって人工津波が発生してしまうわけです。その量がどれくらいになるか、私にはちょっと計算できませんが、岸壁で普通の船が接舷する時のように人が接舷作業をするっていうのは無理そうですね。それを防ごうと思ったら接舷はよっぽどゆっくりやらないと駄目でしょう。


 何でもそうですが、大きいモノになるとちょっとした動作をするだけでも周囲に与える影響は大きくなります。そしてその大きさが極端になれば影響も極端にならざるを得ません。

 ゾウがセックスをするだけでも、足元のアリには災難が降りかかるのです。

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