第8話 Au revoir

(なんだろう…この飲み物、綺麗)

 なんとなくで日本に旅行、サマーフェスティバルに来てみた。

「綺麗な飲み物」

 クリスタルのボトルに入ったクリアな飲み物、1本買ってみたけど…

(どうやって飲むの?)

 クリスタルのボトルにクリスタルのボールで栓をしてあるようだ。

 この栓が…どうにも…

 ツアーにしておけば、誰かに聞けたのに。

 ボトルを月にかざしてみたり、振ってみたり、回してみたり…

(ダメだ…開かない、飲めない)

 目の前で飲んでる子供がいるのだ、インテリアではない。

 これは飲み物‼


 諦めて、フェスティバルのステージの隅で座って、隣に置いたボトルを指で突いていた。

「えっ?」

 ボトルを持ち上げた少年。

 ポンッ‼ カランッ…

 心地いい音、クリスタルのボトルにクリスタルのボールが沈んで炭酸がシュワッと弾ける。

「Merci」

 私は差し出されたボトルを受け取るとお礼を言った。

 少年はニコッと笑ってジェスチャーで飲み方を教えてくれた。

「délicieuse」

 ペリエを甘くしたような飲み物。

 少年は私の手を引いて、彼の友達と一緒にフェスティバルを案内してくれた。

 フランス語と日本語、皆で笑いながら色々な物を食べて飲んで、可愛い魚、フランスへ持って帰りたかったけど…


「日本へ来てよかった…」

 帰りの飛行機で、また来ようって思った。


 引っ越した部屋には、あのときのボトルを飾った。

 チリンッ…

 フェスティバルで買ったクリスタルの小さなベルが風で鳴る。


「忘れられそう…あの人の事」

(Au revoir)

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