■KAC お題 真夜中

 書くことは大体まとまった。もう今日の日付か。

 椅子の背凭れに上半身を預け、大きく伸びをした。スマホの画面が光ったか? そう感じた矢先、着信音が室内に響く。

 登録していない番号が表示されていた、こんな真夜中に一体誰だ。


「……はい?」

『夜分遅くにすみません』


 丁寧だ。それに聴いたことのある声。


「木広さんですか? どうして僕の携帯番号を?」

『知り合いに記者をやっている者がいまして、勝手ながら掛けさせて戴きました』


 知り合いに、ねぇ。木広さんが次の言葉を発する前に、耳からスマホを離しスピーカーへと切り替える。咄嗟にメモを取ろうと紙とペンを握る、寸前で手を止めた。何でもかんでも記事にする必要は無い。


『数日間、悟くんと過ごしてどうでしたか?』

「良い子ですね、優秀だと思います。──…それが聞きたくて掛けたんですか?」


『え~と…』そう口ごもる。知り合いに頼んでまで入手した俺の番号だ、言いたいことがあるに決まってる。


『昴さんは施設のことをどう考えてます? 本当に必要だと思いますか?』


 現場と同じ緊張感を体感するのに、仮想空間は良いだろう。ただ、学生らに任せるのは早いよなぁ。素晴らしい能力があったとしてもだ。


「設備は評価されると思いますよ。必要かどうかは判断しかねます」

『悟くん達、若くして集められた学生たちを、普通に過ごさせてあげたくて』

「大人が勝手に思っているだけだったら、どうします? 学生全員が普通を望んでいるでしょうか」

『どういう事ですか!? 実際に言ってたんですか!?』


 適当に言ってみる。見た目の印象からは真逆の、素直で優しい人なんだな。


「すみません、反応をみる為に敢えて言うのが癖になってまして。紺野くんの証言しかありませんし、他は解りませんが、楽しさは感じませんでした。僕が言ったことをどう捉えるかは、木広さんに任せますね」


 一呼吸おいて、木広さんは言う。『今回お電話したことをどう記事にするかは、昴さんのお好きなようにして戴いて構いません。悟くんと過ごしていた貴方は、楽しそうでしたよ』


 返す間もなく電話は切れた。

 俺が、楽しそうにしてた?

 あんたに何が解る……。支配する側がいるなら、される側があって。仮に木広さんが同業者だったなら、される側になってしまったか?



  ───…つづく

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