■KAC お題 猫の手を借りた結果

「すみません、猫の手を借りたい気分なんですけど……、いやこれは、昴さんにしか頼めないことで」


 何やら深刻そうに思えて、深く考えず紺野くんの相談を引き受けた。そして今、体育館裏。学食で購入した軽食を片手に、2人で体育館裏に居る。


「学生らしいことをやりたくなって、昴さんならいろいろ知ってそうだし。本当は、下校途中で買って、食べ歩きをしたかったんですけど。……これが、その変わりです」


 なるほど。誰でもいいけど、頼みにくいからか。俺の中学時代ってどうだった? 紺野くんが望んでいる食べ物を買って、食べ歩きをしたことあったかな。

 ブラウン管テレビ。ビデオを再生するような、はっきりと思い出されない自分の過去。


 校舎をぐるっと囲ってある、ブロック塀。その細いところをすいすいっと歩く猫の姿。

 じーっと見つめても、互いに眼が合っても、歩くスピードは変わらない。よく出入りしてるのかも、警戒心が無い。通り過ぎるかと思えば、スタッと降りた。そして、俺たちのほうへ近付いてくる。


「ずいぶんと慣れた猫だなぁ」

「こんな近くで猫を見るのは、初めてです」


 興味津々の紺野くん。ちょうどいい、猫の手を借りよう。

 俺たちが持っている食べ物につられたらしい。猫の視線が食べ物を追い掛けている。パンだったら問題ないかな。小さくちぎって与えた。


「あ、食べましたね。かわいいなぁ」


 まだ成長しきれてない紺野くんの手が、猫の額に触れる。本当に落ち着いている猫だ、あちこちで恵んでもらっている可能性があるな。


 突然来たかと思えば、ふらっと立ち去る。

 それが猫。


 動物が持っているというか、醸し出される暖かさは何なんだろうな。居なくなると急に詰まらない。


「昴さんと学生らしいことしたかったのに、猫に夢中になってました」

「まぁ、これもその一環だよ」


 嘘つけ。話せる楽しい思い出、無いくせに。




  ───…つづく

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