▼能力者たちの、昼下がり(改訂

 頬杖、その視線は何を見ているのか。

 彼の机にカードを置く。「さぁ、ゲームを始めようか」

 目をぱちくり、彼は応えた。「あぁ……うん、ババ抜きな」


「それじゃ雰囲気ムードが台無しだよ~」

「休憩時間の度にババ抜きだぞ、同じテンションでやるのは無理だ」


 適度にシャッフルし、耕也とオレの分、交互にトランプを分けていく。で、この状態ではする意味が無くなるから、予め数枚ほど抜いておく。

 二人だから、オレの方に無ければ耕也のところにジョーカーはある。細かに手元は動いた。


「なぁ、耕也。ジョーカーはどこに配置してる?」

「それを聞いて答えるとでも? 能力使えば?」

「相手を試せるのがエグザムの強みだけど、耕也の力って何をどう試せばいいか見当つかないんだよね。何を言えば動揺してくれる?」

 椅子の背に凭れ、「俺に聞くな」どこか余裕が垣間見える。


 気持ちが読まれにくいメリットがあるブラントだけど、本人的にはどうなんだろうね。


「いい加減、やめないか?」

「休憩時間じゃないか、付き合えよー」


 すると、耕也の視線が廊下や、窓の方へ移る。勢いよく過ぎたのは、影か?


「頼む、匿って!」


 肩を上下に息を乱した様子からすると、結構走ってるのに。足音無しか。音を操れる能力者ってとこか。まぁ、単純に考えて。


「誰かから逃げてるのかい? テストの補習とか?」

「自業自得だろ」


 オレからトランプを一枚取り、手元のを合わせ、机に出した。関係ないよって顔が、実に彼らしい。…──実際、関係ないけどね。


「冷たいこと言わないでよ~。君の能力は?」

 チラッと視線を送り、「ブラントだけど」そう応えた。両手が出てきたかと思うと、耕也の手を掴む。掴まれた拍子に、トランプは机に散らばった。


「使えるっ! 助かった」


 おや? ひょっとしたら愉しいこと起こる?


「この状況が片付いたら、もう一戦な」


 不服な表情が見えた。怒りでも何でもいい、耕也の隙が見えるなら。


「賑やかだね。先生が物凄い形相で来てるけど、誰かが何かやらかした?」


 これはこれは、耕也の友人じゃあないですか。丁度いい。


「柊! トランプやらないかい? いや~突然来たこの男がさ、先生から逃げてるらしいんだ」

「ふーん……」


 見ただけで解る、柊の分析する能力。オレのは知識がないと、能力を弄んでしまい、かなり残念な事になってしまうから。羨ましいね。

「え、な、何か?」って、相手はどぎまぎしてる。


「匿うなら、エグザムの方が良くないか?」


 ん? 何でそうきた?


「先生の能力は?」

「ブレスだったよ」


 トランプをシャッフル、適当なところで手を止めた。「だったら、ブラントが適任かもね」…──っていうのは適当で。あぁ、思い出した。ブレスは呼吸を見れる能力だった。


「耕也、協力する気は?」

「俺が何かしないと収束つかない状況なんじゃないの?」


 抑揚の少なさ、低い声。……不機嫌だ。


「まぁまぁ、耕也、睨まない。柊だってその能力に期待してるんだから。適任なのは間違いないよ」


 先生が入ってきた。

 迷うことなくオレたちのところ……? あっ、オレのせいか。思い出してホッとしてるから。


「ここに渚は来なかったか?」

「来てませんよ」


 自然と見下ろされる形となり、半ば威圧に思える視線が、耕也に注がれる。


「廊下を勢いよく走って行きました。階段を下りたんじゃないんですかね」

「そうか、ありがとう。あと私物はきちんと管理するように」

「はーい」


 先生の姿が遠くなっていく。女子が一人、駆け寄ってきた。


「足音も聴こえなくなったし、大丈夫だと思う」


 んーと、音の響きを感知できる、エコーだね。


「ありがとう。ほら、これで充分だろ」

「マジで助かった~! 連携スゴいな!」

「先生、戻ってくるかもよ?」

「そう、だな。本当ありがと! じゃあね」


 机の上だった手が、下におろされた。もしかして。


「さぁ、事は済んだ。続きをしよう」

 耕也の視線は泳ぐ。「あ~……チャイム鳴るよ?」


 念願だった、耕也の隙。それをオレだけで成し遂げるには、少々無理があるようだ。





 **

 以前に使っていた設定を思い出したので、書いてみました。


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