*軒下に一匹のネコと、男の子。
屋根を伝い行き場を失った雨粒は、地面へと落ちていった。静かに降り続く雨。シャッターが目立つ商店街、雨だから人の通りも少なくて。
ちょっと早いけど、閉めようかな。軒下に置いていたテーブルとイス、そのイスにまだら模様の猫が居た。雨宿りにでも来たんだろうか。身体を丸め、眼を閉じる。飾り物のテーブルとイスだから、居て困ることは何もない。
看板を畳み、店の中へと仕舞う。ブラインドを下ろそうと、入り口横の窓へ近づく。ふと、制服を着た男の子と目が合った。お客さんだろうか、閉めようとしてたんだけど、念のため。そろり、そろり寄っていった。しゃがみ、猫を撫でている。
「もしかして、キミん家の猫?」
「猫は好きだけど、飼ってない」
猫が大きく口を開ける。空腹にも似た音が聴こえた。
「残った材料で簡単なものしか作れないけど、良かったらどうかな?」
男の子はすくっと立ち上がり、ポケットや鞄を漁る。
「お金のこと、気にしてくれてる? 店側としては満足なものを出せないから、大丈夫だよ、ありがとう」
「でも、やっぱ、なんか悪いし……」
「そうだなー。古びた商店街に、小綺麗な喫茶店があったって、お友達とかに広めてくれるかな? それでいいよ」
「ほんとに、それでいいんですか?」
「シャッターが目立ってきて、人も少ない。人が来ないと、お金も集まらないからね。ちょっと待ってて、いろいろ準備するから」
軒下のテーブルを拭こうと布を持ってきたら、「僕にさせてください」ときた。お客さんに頼ったの、初めてかも。
ほんのり熱を帯びたフライパンに、うっすら味付けの溶き卵を流す。ジュー、と静かに卵へ熱が入る。とろっとした部分を残し、火を止めて。サンドイッチ用の薄い食パンに乗っける。飲み物は、オレンジジュースがいいかな。
「お待たせしました~。たまごサンドです」
勢いよく、たまごサンドへ手が伸びたかと思っていたら、「あ、…頂きます」と視線が私のほうに飛んできた。
少し焦げ目をつけておいた食パン。噛む度に良い音をさせる。固まりきらないうちに火を止めたから、彼の口角に黄身が付く。
お皿の模様が顔を出し、ジュースも残りわずか、男の子は息をつく。
特に話すこともなく、視線はお互いに猫へと向かい。雨音がなんだか心地よかった。
男の子はイスから立ち上がる。鞄を肩に掛けた。
「そろそろ帰る? 良かったらまた来て。次はフルーツも付くから」
「友達誘って、また来ます」
少し歩いては、身体の向きを変えた。じっと私の目を見る。「ご馳走さまでした」深々と頭を下げて。
そんな大袈裟なと言いたくなったけど、彼が考えてしてくれた行動だから。
古びた商店街。「ひょっとして、連れてきてくれた? なんてね。偶然よね」身体を丸め、眼を閉じていた猫。「にゃぁ~」と鳴いた。
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