きまぐれ文庫
戌井てと
*消えるプリン
ほぼ毎日食べていると言っていいモノが、僕にはある。
それは、プリンだ。
キャラメル部分は苦くて嫌だったけど、今ではその苦さと卵の調和を楽しむほどに好きだ。
いつでも常備されているプリン。僕が夢中なのを母さんも知ってるんだろう。
だが最近は、プリンが何者かに食べられている気がするんだ。僕のプリン好きを母さんは知ってるから食べないはず、父さんは甘いモノ苦手だから始めから関係ないとして。
冷蔵庫を開けてすぐ目の前に、並べられているプリン。近々食べたいモノに自分の名前を書いておく、こうすれば無くなってしまった時、証拠ができる。
数日経過して、楽しみにしていたプリンを食べるため、冷蔵庫を開ける。パッと見た感じでは変化のない並び。さて、僕が書いたのは……残っていた。食べられてる気がしたのは気のせいだったのだろうか。
確かに名前はある、が、僕はこんな字を書くのか。自分の筆跡に違和を覚えるなんて、気味の悪いことを考えたもんだなー。
日付が近いモノから食べていく僕である。この違和感を解消するには、記載されている日付を見るしかない。
…──あと三日余裕があるぞ、このプリン。
一日しか余裕の無かったプリンは何処へ。
「腹減った。何か旨いもんあるー?」
「兄貴って甘いモノ好きだっけ?」
「普通」
たかがプリンだ。どこまで咎めるのか。目星がついたなら、それでいい。しかし、誤って食べたとして、罪悪感から僕の名前をカップに書くまでに再現させておく理由は何なのか。食べたくて食べたなら、それでいいんだけどさ。
「日付が明日までのプリン、どこへ行ったか知ってる?」
「気持ち悪、え、何、そこまで見てんの? プリンもう食えないじゃん」
「いや普通に食べなよ」
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