カワリング帝国にて
カワリング帝国との国境の街シューベルト。
国境の砦に最も近いこの商業都市は店を畳んで逃げ急ぐ商人達でてんてこ舞いになっていた。
この街はカワリング帝国との交易と国境砦が落とす莫大な消費に支えられていたのだが、先月の戦でその全てを失なった。
その上カワリング帝国の兵がいつ攻めて来るかという不安が拍車を掛けては、律儀に街を守ろうと立ち上がる者もいるはずがなかった。
騒然となったメイン通りには怒号が飛び交い、とりあえず荷物を詰め込んだ馬車を無理矢理走らせて猛スピードで走り去る商人達が我先にと門を後にしていた。
「ヒロシー、なんか凄いことになってるねー。」
「そうだな。恐らくいつ攻められるか分からないから焦ってるんだ。
この混乱でも兵士が出てこないところを見ると、砦に向かったか、あるいは先に逃げたかどちらかだろうね。」
「あっ危ない!」
街の喧騒を余所に上空から街の様子を見ていたのだが、突然ミーアが物凄いスピードで地上に向かった。
地面すれすれで体勢を変えて馬車に引かれそうなっていた少女を掬いあげると、その勢いで馬車を蹴飛ばして俺のいる所まで戻ってきた。
馬車はというと、蹴られたところが砕け散り、繋いであったハーネスが切れた馬達は驚きのあまり走り去ってしまった。
「ミーアやり過ぎだよ。」
「だってあのままじゃ、この子死んでたよ。」
「まあ、そうだな。ミーアよくやったよ。」
「そーだろー、もっと誉めてもいいよー。」
「しっかし、とんでもないことになってるね。
あっミーア、その子下ろしてあげなよ。」
「そーだねー。君、お家はどこー?」
さっきまで驚きのあまり我を忘れていたのだろう、ミーアに声を掛けられた少女はしくしく泣き出した。
「もう安心だから、泣かずにお家を教えて。
連れていってあげるからさー。」
「……お家無いの。壊れちゃった。」
「お母さんは?」
「知らない。はぐれちゃった。」
なにやら複雑そうだな。
その後、俺達は街から外れた空き地に降りた。
ここなら人も来ないから静かだし。
俺は収納から昼食を3人前取り出してミーアと少女に渡した。
「お腹空いただろ。これをお食べ。」
白いパンに熱々のシチューを見て少女の目が大きく開かれた。
「こんな豪華な食事初めて見た。これ本当に食べてもいいの?」
恐る恐る俺を見る少女を余所にミーアがパクパク食べている。
「ヒロシー、おかわりー。」
俺はミーアのおかわりを出してやり、少女にも食べるように勧めた。
ミーアの食べっぷりに安心したのか、少女はパンを小さく千切りながら大切そうに食べ出した。
「おいしーー!」
それが引き金になったのか、それからは「おいしーー」を連発しながら無心でパンとシチューを食べている。
あまりにも美味しそうに食べてくれるから、果物とかお菓子とかどんどん出してあげたんだ。
次々出てくる珍しい食べ物に目を見開きながらも食べる勢いは止まらない。
「「ふうー」」
小1時間も経ってようやくふたりの満足そうなため息と共に食事が終わり、少女の顔には安心した笑顔が溢れていた。
「ごちそうさまでした。」
きちんとお礼を言う少女に、改めて事情を尋ねる。
どうやら彼女の家は砦近くにあり、砦の陥落後村に入って来た敵兵から逃れるために母親とシューベルトの街に逃げて来たそうだ。
ただ途中で戦乱に乗じた盗賊に襲われ彼女だけが近くにいた商人の馬車でシューベルトまで来たのだが、街があの状態だったため、商人は彼女をその場所に置き去りにして、次の街に逃げたらしいのだ。
その話しを聞いてミーアは憤慨しているが、何か事情があったのかも分からないし、一方的に商人も責められないよね。
とりあえず俺達のやることは少女のお母さんを探すことかな。
だけど盗賊に捕まってもう殺されてるかもしれないし、どうしようかと迷っていると、「お母さんを探しに行こう」ってミーアが元気よく少女に話し掛けた。
「うん!」
嬉しそうな少女。
案ずるより産むが易し。ミーアの行動力にはいつも助けられるよ。
俺はミーアの予備の飛行服を少女に渡し、3人で盗賊に襲われた辺りに急いだ。
この辺りは荒野が拡がっているが空を飛んで行けばすぐに到着。
馬車の残骸とか亡くなった人達がそのままになってたから場所はすぐに分かった。
横たわる人達に生存者がいないかひとりひとり確認したけど残念ながらダメだった。
土魔法で大きな穴を掘って遺体を埋葬した。
幸いというか、少女の母親はその中にはいなかった。
ということは、盗賊に連れて行かれたという可能性が高いので、次は盗賊を探しに行く。
ただ広い荒野。闇雲に探すのも能がない。
地面に手をついて魔力を流し、神経を集中していく。
表面を舐めるように薄く広く拡げていく。
薄く薄く薄ーーーく!!
盗賊、見ーーーつけた。
100年生きられなきゃ異世界やり直し2~日本でも異世界でもヒロシとミーアの旅は続くよ~ まーくん @maa-kun
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