この世界に馴染んでみよう1
俺達がいた2047年の日本。その並行世界であろうと思われるこの世界。
魔方陣に飛ばされてしまった俺とミーアはゴブリンの襲撃を受けていたこの街を助けた。
この世界がどんな世界かは分からないが、見慣れた街の風景や人々をほおっておくわけにはいかない。
魔方陣から湧き出すゴブリン達を殲滅、魔方陣ごと破壊して当面の危機は防いだ。
回復魔法を全体的に施したし、ひとまずは安心だろう。
この街が被害を受けているということは別の街も襲撃されている可能性があるため、俺とミーアは隣街へと向かうことにしたのだった。
「ヒロシー、こっちは大丈夫みたいだねー。」
「そうだね。っていうかすぐ隣の街であんなことが起こっていたのに、全く関係ないみたいに静かなのが不思議だね。」
そうなんだ、空から見たその街はまるで平穏な日常。
後3時間あまり後には正午を迎える日曜日の午前、歩行者天国の片側3車線道路には大道芸人が準備を始めていて、屋台も昼時に合わせるように開店準備に忙しそうだ。
まだ人通りはそれほどでもないが、駅からはゆっくりと人波が流れ込んできているし、道路に面するファストフード店にもおしゃべりする男女がゆったりと朝食を楽しんでいたりと各々の時間を過ごしている。
たしかにおかしいんだ。だって数100メートル先、河を渡って向こう側では阿鼻叫喚の状態が起こっていたのにこんなに平和な風景があること自体おかしな話だ。
俺達が戦ってゴブリンを殲滅してからまだ数時間しか経っていない。
当然ニュースが流れているだろうし、警察や消防が動いていて当然だと思うんだけど、そんな気配も全くない。ごくありふれた日曜の朝だ。
そんな街に大きな違和感を感じつつも、平穏であることに安心して地上に降り立つ。
しばらく散策して異常が無いことを確認し次の街へと移動した。
東に3キロメートルくらい進んだところで次の街に着く。都心部に近くなり交通量も多くなってきた。
少し広い公園の目立たなそうな場所に降り立った。
「この辺りも大丈夫そうだねー。」
「そうだね。」
都心部に近くなったとはいえ、この辺りは閑静な住宅街、大手私鉄が売り出した比較的お洒落な家がたくさん建っている。
その街並みを歩きながらショーウインドウの張ってあるポスターに目が留まった。
”ショルダーホン” 携帯電話の先駆けで肩紐のついたバッグのような電話機に受話器が付いた奴。
親父が社用車にも乗せてたやつだ。
まだ俺が学生時代だったから1980年代後期だったと思う。
とすると、ここは昭和?
いや待てよ。一番初めに着いた街は平成20年、西暦で言うと2010年前後だったはずだ。そうするとこの街はあそこよりもまだ20年以上も古い時代ということになる。
ということであれば、この街やひとつ前の街も時代がずれたパラレルワールドということになり、お互いが干渉し合わないことになる。
どおりでゴブリンの襲撃のことを知らないはずだ。
だって、世界が違うんだから。
しかしいったいこの世界はどうなっているんだ。
こんなに近い範囲でしかも自由に往来できるのにそれぞれが独立した世界になっているなんて。
俺はムーン大陸を思い出す。
あそこも中の世界と外の世界で時間の流れが違った。いわば別の世界だ。
しかも自由に行き来できるにも関わらずだ。
まるでここと同じような感じだな。
ということはどこかに次元の境目があるはずだ。
強めに気配察知を掛けると、僅かながら次元の歪みがわかった。
「ミーア、次元の境目を見つけたよ。
行ってみよう。」
次元の境目。
そこはなんの変哲もない公園の真ん中にあった。
次元の境目と言われてもわからないくらい、なんの変化も無い。
でも上を見上げると、雲が僅かばかり擦れていることに気付けた。
境目の地面を調べると、数10センチの隙間があった。
ここに入れば、この奇妙な世界から抜け出せるかもしれない。
しかし、もっと悪い状況になるかも。
「ヒロシ~~」
思案していると誤ってミーアが隙間に入り込んでしまっていた。
俺は急いでミーアの手を掴んだ。
淡い光に包まれる。
もう慣れっこになりそうだよ。
光が解けるとそこは中世の街並み。
しかし目の前に見えたのはゴブリンだった。
今度は異世界でゴブリンの国か?
もう驚かないさ。
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