山下醸造所

ヒロシ領を訪れた山下老人。


ヒロシの自己紹介に驚きつつ、自らの過去も話し始めた。


20歳で傭兵となり、中東を中心に米軍兵として戦いに身を置いていたが40歳になる頃に日本に戻り実家の醸造所を継いだとのことだった。


米軍とのコネクションもあり、国内でもそれなりの暗部の影響力も得られるとのことで、俺達が山下醸造所を窓口(傀儡)として酒造・販売することを約束してくれた。


もちろん販売に関しては山下さんの販路を継続して使わせてもらうことになる。


主に米国を中心とした海外向けの販路を使うことになるようだ。


ヒロシは願ったり叶ったりである。


元々ヒロシは国内での販売には大きな不安があった。どこからこの場所の存在がバレルか分からないからだ。


しかし海外が販路であればいくらでも誤魔化せるしバレる恐れも少ない。


ヒロシは山下老人に酒作りの責任者ドグラスさんを紹介する。


すっかり若い時代に戻った山下さんは中学生当時に夢見ていたドワーフとの遭遇に興奮していた。


山下さんも俺と同様に厨2病患者だったらしい。まあ実際に中学生だったから厨2病って言えるかどうかは分からないけどね。


それから具体的な話しに入る。


まず、これまで山下醸造所で作っていた日本酒の銘柄3種はドワーフが再現して継続的に販売できるようにする。


それと同時に今回試飲してもらった酒を中心として段階的に販売を開始していくという流れになった。


経費は営業に掛かるものと製造に係わるところをそれぞれが負担し、売上については折半ということになった。


これでドワーフ達の作った日本酒が日本を除く世界中でお披露目されることになるだろう。


実際には販売後の売れ行きがものすごく、日本国内では逆輸入の形で販売されることになるのだが。



ともかく、ミーアの縁で俺達は無事に販路を見つけることが出来たわけだ。


「ミーアちゃん。うちでアルバイトでもしてみないかい。ここの酒を扱うのに今いる事務員だけでは心元ないのでね。」


「うーーーん、アルバイトってよくわかんないけど、僕にできるのかなあ?」


「「ミーア様、私達がお手伝いシマスヨ。」」


そこに現れたのはシーナさんとシールさんの姉妹。ふたりともエルフの美人さん。


山下さんは再度の衝撃に震える。


「もしや、もしやその耳、まさか、まさかエルフ....」


「あー、まだ紹介していませんでしたね、ここにはエルフ達もいて、酒米も作ってくれているんですよ。


こちらはシーナさんにシールさんの姉妹です。そうだおふたりは計算が出来るのでしたね。」


「ええ、高等学校卒業程度認定試験は取得してイマス。英語もある程度は話せマスヨ。


ヒロシ様が学習の機会を与えてくださったオカゲデス。」


「これは心強いな。山下さん、このふたりでは如何でしょうか?


あっ耳は魔法で隠しておきますので。」


「いやー、ドワーフのみならずエルフとも一緒に働けるとは....


榎木さん、いやあえてヒロシ君と呼ばせて頂きましょうか、長生きしてみるもんですなあ。あははははは!!」


こうしてシーナ、シールのふたりが結界の外で働くことになった。


もちろん山下醸造所の近くに社宅としてアパートを借りてもらい、そこから通勤する形にしたし、そのアパートの押し入れには転移用の魔方陣も設置したよ。


これで偽装工作もばっちりだね。


元々酒蔵を閉める予定だったので従業員は皆さん退職しており、山下さんの家族や親族だけしか残っていなかったので機密保持は万全。


こうしてドワーフ謹製の日本酒を安心して販売できる体制が整ったんだ。





「さあ皆んな、酒を作るぞーー!」


ドグラスさんの大声が酒造所全体に響き渡る。


「「「おーーー!!!」」」


本格的に日本酒作りが始まった。


ドグラスさん筆頭に日本酒担当の10人が忙しく動き回っている。


でもね、どの顔にも笑顔が溢れているんだ。


ちょっと緊張感がなさそうに見えるけど、ドワーフは仕事の手を抜かないからね、品質はバッチリだよ。





「ミーア、今から送るよー。」


「オーケー!」


今日は日本酒の初出荷日。


日本酒出荷専用の転移魔方陣から送られた出来たての日本酒は山下酒造所の最奥にある倉に届く。


そこに待ち受けているのはミーアと山下老人、そして従業員の皆さん。


山下老人がドグラスさんと会ってから約2カ月。


この間に山下さんが自身の販売網にプロモーションを掛けてくれたこともあり、今回の出荷分については既に販売先が決まっている。


それどころか追加の注文も続々と入っているそうだ。


今回の初出荷分が納品される頃には更に大量の追加注文が来るだろう。


ヒロシは初出荷を終えて酒盛りを始めたドワーフ達を見ながら感慨無量の心地に包まれていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る