ヒロシ暴露する

「ヒロシ君と言ったね。

君にはその見掛けにそぐわない波乱と闘争の気迫がみえるよ。


だが、本当に君は信用に値するのかね。


とりあえず話しを聞かせてもらおうか。」


山下老人の冷ややかで突き刺すような視線を受けながら、努めて冷静さを保つヒロシ。


実年齢が70歳を越え、エレクトスでの数々の死闘と商社時代に海外での豊富な経験があるヒロシでなければ耐えることは出来なかったに違いない。


「山下さん、ここでお話ししても信用して頂けないと思います。


よろしければこれから俺のところにご案内したいと思いますが如何でしょうか?


見て頂ければご理解頂けると思います。」


「行くのは構わないが。ただ君の秘密を知った上で、わたしが拒否する、もしくはそれをしかるべきところに公開するとは思わないのかね。」


「それならそれで結構です。ただそれを聞いた人が信用するかどうか。

また、俺はそれを完璧に隠蔽することも出来ますし。


ただ俺は山下さんを信用に値すると判断しています。これでも結構な経験をしていますのでね。」


俺の目をじっと見つめる山下老人。


「はははは、すまない、すまない。


やはりわたしの判断は間違っていないと思ったよ。

わたしもそれなりの経験をしてきたが、今までに君ほど読み取れない瞳を見たことは無い。


分かった、君を信用しよう。さあ連れて行ってくれるか。」


「ありがとうございます。では行きましょうか。」


ヒロシは山下老人を導いて先程来たばかりの林に入っていく。


魔方陣の場所まで来ると「山下さん、手を」と手をつなぐことを促す。


差し出された手としっかりと握り、反対の手はミーアとつなぐ。


「では行きます。」


魔力を流すと辺りには光の粒子が発生。山下老人は驚いた顔をするがすぐに柔和な微笑みに変わる。


「やはり君は面白そうだ。」


ヒロシも微笑みを返して頷く。


次の瞬間、強烈な光が満ちそれが消えると、場所は転移魔方陣のある石造りの倉庫の中であった。


ゆっくり目を開いた山下老人は辺りを見渡し、そして足元を見る。


「これは魔方陣かい?」


「ええ、そうです。今あの公園からここに転移してきました。


ここは俺の管理する土地です。さあこちらへどうぞ。」



ヒロシの案内に従い、倉庫を出る山下老人。


目の前にはこの季節に無いはずの一面の豊かな稲穂が広がり、その向こうには四季を無視した様々な果物や野菜が実る畑が見える。


「...ここはいったい」


「ここはあの公園から遠く離れた場所にある山中で、ここ一体は魔法による結界で覆われています。


温度や降水、季節までもが魔法でコントロールされており、一年を通じて豊かな作物を収穫できるのです。


さあ、醸造所はこちらになります。」


信じられない光景に目を疑うもヒロシと名乗る青年の持つ柔らかな雰囲気と優し気な微笑みに、こんなものかと納得し、微笑みを返す山下老人。


そんな山下老人の肝の据わった態度にヒロシも安堵の表情を浮かべる。


しばらく無言で耕作地を歩く3人。


やがて日本酒の醸造所に到着すると山下老人は目を大きく見開く。


そこに見たのは彼が少年の頃に夢中になっていた光景.......


そこにはドワーフ達が日本酒の仕込み樽をかき回し、わいわい言いながら試飲している姿があった。


そう、彼も少年時代にはラノベに異世界の夢を見ていたひとりであったのだ。


「ドワーフ...ドワーフなのか...」


「そうです、ドワーフの皆さんです。ちょっと前に異世界から飛ばされて来たみたいで今30人ほどおられます。


今日お飲み頂いた日本酒は彼らが作ったものです。」


「......なるほどな、確かにこの光景には驚かされたが、ヒロシ君、君の言うことが理解できたよ。


ここで作った酒を公にできるわけはないからね。そしてわたしの酒蔵を製造販売の窓口をしたいことも十分理解できたよ。」


「山下さんがご理解ある方で助かりました。


何故こんな場所があり、俺がここにいて、そしてドワーフ達が酒を作っているのかについてお話しさせて下さい。」


俺はミケツカミの導きで異世界転移経験があり、そこでミーアと知り合い、魔法が使えることになったこと。

こちらに戻ってきてから商社マンとして世界中で商売していたこと。

75歳の時にミケツカミによってミーアと一緒に若返ったこと。

この地には魔法が豊富で身を隠して生活するには都合が良かったこと。

ある日大きな落雷と共に異世界からドワーフ達が転移してきたこと。


等を説明した。


山下老人は話しを遮ることもなく、一つ一つの話しを咀嚼しながら聞いているようであった。


「....とまあこんな感じになります。」


「うーーん、にわかに信じられん話しではあるが、実際にここを見ては真実であることは疑いようがあるまい。


しかしヒロシ君、いや榎木広志さんは本当に数奇な運命を辿られたのだな。」


俺の話しが終わった時、山下さんは深いため息とともに俺達のことを肯定し信用してくれた。






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