日本酒を作ろう1

ドワフル族の歓迎会の翌日、俺はまだ夢の中。


昨夜、ドワマシーさん達に日本酒を振舞った後、呑めや唄えの大騒ぎになって俺はてんてこ舞いだったんだ。


まず、ドワマシーさん、ドグラスさんがお猪口の日本酒を一気に飲み干した途端の大絶叫。


それを契機にドワーフ達が群がってきたので、次々に日本酒を注ぎ渡すことに。


当然1升程度じゃ足りるわけもなく、日本酒コレクションは空っぽに。


慌ててネットですぐに配達してもらえる酒屋を検索。


コンビニに行けば買えるんだけど、今の俺は未成年だから無理だし。


ようやく見つけて大急ぎで注文。すぐに用意できる50本を購入。


シンブさん達にも手伝ってもらい、ドローン発着場から歓迎会場までピストン輸送して何とか数を揃えた。


宴会はって?


もちろん朝まで続いたのはいう間でもない。


酒の調達を終えて戻って来た時にはアカペラののど自慢大会の真っ最中。


あの人達、ホントに自由だから、大きな歌声が四方八方から響いていた。


堪らず遮音の結界で囲んだくらいだよ。


エルフ達は基本的に酒を飲まないみたいだから、それぞれ適当に帰って寝ていたみたいだけど、次々に杯を重ねるドワーフ達の相手をしていた俺に寝る時間なんて無かったよ。


早朝に畑仕事に出かけるムムさん達の姿が見えたのでそこで漸くお開きとなった。






「ドンドン、ドンドン」


うん?誰か来たか?


時間を見るとまだ朝の8時。お開きになったのが5時頃だったからまだ3時間くらいじゃないか。


いったい誰なんだ?


横ですやすや寝ているミーアを起こさないように、玄関に向かいドアを開ける。


そこにはドワマシーさんとドグラスさんの姿があった。


「お2人共どうされました?」


「ヒロシ村長、昨日は我々の歓迎の宴を開いて頂きありがとう。

でな、今日は折り入ってお願いがあってきたんじゃ。」


「ちょっと待ってくださいね。」


2人の真剣な顔を見て、俺もしっかりと話しを聞くために、顔を洗って着替える。


「さあ行きましょうか。」


俺達は食堂に向かった。


衰弱していたエルフ達を最初に迎えた療養棟が、今は村の共同食堂となっている。


ここで会議や勉強会なども行っているのだ。


2人をテーブル席に案内し席に着く。


「昨日はお疲れ様でした。それでお話しとは?」


「...ふむ、実は村長、我々がこの村で日本酒を作る許可を頂きたいのじゃ。」


「えっ、日本酒ですか?」


「そうじゃ、あの高貴で気品のある味わいを我らの手で作ってみたいのじゃ。

ここにいるドグラスはのお、以前の村で酒工房を仕切っておった。


こ奴が真剣に日本酒造りに取り組んでみたいと言いおるんじゃ。」


「ヒロシ村長、昨日の日本酒。あれは実に旨かった。我々も酒造りに関しては誰にも負けない自負を持っておったのですが、鼻をへし折られた気持ちです。


職人の意地に懸けてもあれを造ってみたい。」


真剣な眼差しを向けるドグラスさん。その目に一点の曇りも無かった。


それにドワーフといえば酒造りだしね。


「ええ良いですよ。早速酒蔵を作りましょう。


でも俺日本酒の作り方を知らないんで、一から勉強してくださいね。」


「「ありがとうございます。(有難いことじゃ)」」




あらかじめドワーフ達用に割り当ててある場所に行くと、彼らは自分達の家を建てている最中だった。


いや家というよりも大きな工房なのかな。まあいいか。


その少し奥の方に100坪ほどを確保。


「ゴーレム!!酒蔵を頼むよ!!」


目の前のスカウターには江戸時代から続く清酒メーカーの酒蔵のイメージが映っており、それを魔力に乗せて建設予定地へ。


地面が振動を始めるとそこから次々とゴーレムが立ち上がりそれぞれの場所へ移動。


木を伐り出す者、製材する者、建築していく者、土壁に変化する者。


あっという間に酒造場が完成。清酒メーカーのそれと同等の者が出来た。


後は酒を造るための道具を作っては搬入を繰り返し、2時間ほどで完了。


唖然とするドワーフ達を酒造場の会議室に案内し、あらかじめ収納に入れて持ってきておいたモニターとネット接続機器を設置。


モニターに酒造りの映像を流す。


「これを押したらこうなって、こっちでこうなって、あっ、口で言っても大丈夫ですよ。『スイッチオン!』、『仕込み風景!』  ほらね。」


「.......」


見ていたドワーフ達が驚いて言葉を発せない中で、一人ドグラスさんだけが目を輝かせていた。


「これで...、これであの酒が造れる。俺達で作れるんだーーーー!!!」


その叫び声に再起動した酒職人の皆さん。


「「「おーーーーーー!!!」」」


出来たばかりの酒造施設に彼らの決意が響き渡るのであった。




「ではドグラスさん、ここはお任せしますね。必要なものは言って下さい。

米はムムさんに相談して下さいね。」


酒造所完成から3時間後、昼を少し過ぎた頃、ヒロシの睡眠が再開されたのだが、酒造所内の熱気は冷めやらず、早速日本酒の製造に向けて動き出していたのだった。


ドワーフって本当にタフだったんだな。





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