ドワーフ達もここに住むようです

恐らくというより間違いなく、皆さんから見た異世界であるここに強制転移させられたのでしょうね。」


「ヒロシ殿、どうしてそう思われる?」


余りの唐突な言葉にいぶかしげなドワマシーさん。


いきなり言われても困るよねー。


「実は、同じような経緯で半年前にこちらに来られた方達がいらっしゃるのです。


20名程度ですがこの結界の中で生活されていますよ。


ここから見える農地も彼らが切り開いたものです。」


「なるほどな。.......ところでヒロシ殿、我々はこれからどうするべきであろうかのお。」


ドワマシーさんの顔には疲労と困惑の色が隠せない。


村長としての責任感もあるだろうし村人達の手前、不安を表に出せないのだろう。


「皆さんをこの結界の中にお迎えすることはできますが...」


俺はここで言葉を切る。


安堵の後に緊張の色がドワマシーさんの顔に出る。


「ドワマシーさん、ちょっとこちらに来て頂いてもよろしいでしょうか?」


「...皆、ここで大人しく待っておるのじゃぞ。儂はヒロシ殿とちょっと話しをして来るからの。」


酷く緊張しているドワマシーさんと対照的に、その言葉を聞いているのかいないのかワイワイ言いながら美味しそうにたべ続ける村人の皆さん。


「はーーー...」


村人の緊張感の無さにため息をつくドワマシーさんを不憫に思いつつ、ヒロシはドワマシーさんを結界の中に連れて行った。




「ドワマシーさん、正直なところをお聞かせください。


俺は皆さんを結界の中にお迎えしたいと思っています。ただいくつかの条件を守って頂く必要が出てきますので、それをお話ししたいと思います。


仮に、その条件が守れなくても放り出すことはありません。


村人の皆さんがおられる場所辺りに別の結界を作り、そこに住んで頂く事にはなりますが。」


「ヒロシ殿、条件とは?」


「1つ目は何らかの形で仕事をして頂くことです。この中には既に皆さんと同じように強制転移させられてきた住人の方が住んでおられます。


彼らはひどく勤勉であり、皆さんをお迎えしたとしても充分な食料を生産できるでしょう。


それだけに彼らに釣り合う仕事をこなして頂かないと、不平不満が出ることになると思います。


2つ目は、彼らと決して争わず、共存共栄することです。同時に彼らが皆さんを受け入れる必要があると思います。


3つ目は、この村のルールを守って頂くことです。


これは当たり前といえば当たり前のことなのですが、違う種族が同じ場所に住むわけですから常識も生活様式も異なると思います。


ですから最低限の生活ルールは設けるつもりです。


以上3点ですがドワマシーさん、どうでしょうか。」


「.......先に住んでおられる方々がどのような種族でどのような常識を持っておられるのか分からん以上、何も言えんのじゃが......


儂等は酒造りや建築を生業にしておる職人集団じゃ。


仕事には誇りを持っておるから、仕事を与えてもらえば一生懸命頑張れる。


ただ、性格はおおらか...うーん、ちょっと奔放なところがあるからのお、先に住んでおられる方々が生真面目というのであれば、うーん、どうかのお。」


見た目同様、仕事や性格もドワーフのようだな。


さっきから村人達を見ていたけど、たしかに奔放そうだけど裏表もなく正直に生きているだけみたいだし。


争うような気配も見受けられなかったからな。


「わかりました。とりあえず向こうの村長と会って頂きましょうか。


ちょっと話しをしてきますのでお待ち頂けますか。」


うなずくドワマシーさんに軽く笑みを向けてヒロシはカザミさんのところに向かった。


収穫を終えた田んぼに麦を植えていたカザミさんに事情を話し、ドワマシーさんのところへ同行を願う。


既にシンブさんから異変について聞かされていたカザミさんも緊張の色を隠せないが、自分達と同じような境遇の者を放っておけないのか、直ぐに準備をして同行に応じてくれた。


カザミさんを抱えてドワマシーさんのところまで飛んでいく。


「ドワマシーさん、お待たせしました。こちらが先にこの村に住んでおられる種族の村長カザミさんです。


カザミさん、こちらが移住を希望されている種族の村長ドワマシーさんです。」


お互いは緊張しつつも共に驚きの表情を浮かべている。


「その体型、その髭、もしやドワマシー殿は伝説のドワフル族であらせマスカ!!」


「なんと、その長い耳、すらっとした手足、そちらも伝説のエルハレの民では!!」


はいっ?????


お互いの種族を知ってそうだけど、『伝説の!!』って何?


「カザミさん申し訳ないんですけど、ドワマシーさん達をご存じなのですか?」


「...いえ、実際にはお会いするのは初めてデス。


ただ我々のいた世界に大昔ドワフル族という職人集団がおり、我が祖先と協力して都市国家を作ったという伝説が残っておるのデス。


建国後、両種族により平和で安定した国家が長く続いたことになっておりますが、幾度かの大規模災害に見舞われるうちに、国家は散り散りになりドワフル族も何処かに去ったのだと伝えられてオリマス。


焼き畑をするための森林を失い、豊かな農地を失った我が種族も新天地を求め別の場所に移動を繰り返したそうデス。」


「カザミ殿、我々に残る伝説も同様です。ただ違うのは国家が消滅したのは、我々が大規模な森林伐採を長年繰り返したことによる、長雨と山崩れによる人災だと伝わっております。」


なるほど、元々カザミさん達と、ドワマシーさん達は共同で国家を樹立するほどの協調性を持っていたわけね。


なら安心かな。


「カザミさん、ドワマシーさん、エルハレとドワフルという種族だったんですね。


昔はともかくとして、お2人は共存できると思われますか?」


「ドワマシー殿、我々エルハレの民は元々流浪の民だったそうです。それがドワフル族に助けられ、協力しながら国家を建設し安住の地を得られたとされてイマス。


残念ながらその国家も今は失っておりますが、ドワフル族に対する敬愛の気持ちは皆持っていると思イマス。」


「カザミ殿、それは我らとて同じことじゃ。エルハレの民が食料を提供してくれたことで今の職人集団としての誇りが築かれたのじゃからな。」


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