今度はドワーフです

「ヒロシ様ーー!!結界の向こうにたくさんの人間がイマス!!」


息も途切れ途切れなシンブさんの声に朝食を食べていた俺達は何事かと驚く。


「結界、結界ぎりぎりまで農地を広げる作業をしていたら、外に人がたくさんいたんデスヨーーーー!!」


相当慌てているご様子。


それを見て反対に落ち着くヒロシは考える。


結界は土地全体の半分程度までしか張ってない。


近隣の村々との境を含め、おおよそ人が入れそうなところには土地の端まで結界を引いてあったはずだし.....


ヒロシの張った結界は、外からの熱や風水は完全に侵入を防ぐ。


動物も嫌いな匂いを感知し自ら避けて近寄ってこない。もちろん一定の範囲に侵入すると物理的に遮断される。


人間については、入ってきたとしても空間を曲げることでごく自然に別の場所に排出されるようになっている。


そのため、そちらからの侵入はあり得ない。


そうなると、結界が途中までしか張られていない渓谷の方になるか。


しかしあの断崖絶壁の渓谷を越えて人が入って来れるものなのか?


いやあ、無理だろ。


「シンブさん。ちょっと尋ねますけど、作業していたのは西側ですか?」


「そ、そ、そ、そうデス。ここから作物小屋を越えてずっと向こう側の結界の側デス。」


じゃあやっぱり西側、渓谷の方か。


前に調査した時は、渓谷に囲まれていて渓谷を越えないと絶対こちら側にこれなかったよな。


仮に渓谷を渡れたとしても、そこからは曲げられた空間のせいでこちらに近寄れないはず。


ということは.....?


「ミーア、とりあえず行ってくるよ。朝食残さないようにね。特にピーマン。」


ヒロシが思案中にこっそり添え物のピーマンを捨てようとしていたミーア。


「そ、そ、そんなこと、す、す、するはず無いじゃないか。ヒロシーおかしなこと言うなよなーー。」


反論しながらも目が泳いでいる。


「行ってくるね。」


ヒロシはシンブさんにもお茶を出してから、飛行魔法を使って現地に向かった。


「うーーん、だいぶ耕作地も広がって来たなあ。いくら現代の農機具が揃っていて、耕作に適しているからって、この短期間にここまで広げられたのはエルフ達の勤勉さの賜物だねーー。」


シンブさんの慌て具合に対してヒロシはかなり暢気なものだ。


「うん?あれかな。」


しばらく飛んでいると遠くに何やら真ん丸な体格をした人達がうごめいているのが見えてきた。


近づいてみると、相撲取りを縦に縮めたようなおっさんばかり30名程がそこにいた。


身長は160cmくらいで体重は120キロは超えているだろう、超肥満のおっさん達。


どうやら彼らには結界が見えているようで、しきりに結界に触れている。


用心して結界内から彼らに対峙する。


向こうも俺に気付いたようで、しきりに何かを訴えているようだ。


武器も持って無さそうだし、とりあえず話しを聞いてみることにした。


身体に結界を纏わせ、村を覆う結界の一部を開いて外に出る。


「「「〇△✕□□△〇×ω@%$#)=~(」」」


うん、分からん。


こんな時は翻訳魔法を使おう。使ったことないけど。


魔法はイメージが大切なんだ。


まずは相手の言葉をよく聞き、日本語で話していると想像して、魔力を注いでいく......、注いでいく......、注いでいく...


「ここは何処じゃ。わしらはなんでここにいるんじゃ。」


「こらお前足を踏むんじゃない。」


「お腹減ったんじゃがーー」


「おい、お前儂の酒飲むなーー」


おっさん達の訳の分からん言語が理解できてきた。


じゃあ、こちらもおっさん達の言葉を話せるのをイメージしてっと。


「皆さん、おはようございます。俺はヒロシって言います。

皆さんは何処から来られましたか?」


「おおお、我々とは違うお人、我々の言葉を話せるようじゃな。

儂らはテンプス村の者じゃ。


ここしばらく大雨が降っておってな、昨日裏山が崩れたのまでは覚えとるんじゃが、その後気が付いたらここに居ったのじゃ。


ちなみにここは何処じゃ。」


嫌な予感がしたヒロシは「やっぱり」とため息をつく。


おっさん達の後ろに隕石が落ちたような大きなくぼみが出来ていたのを見つけたからである。


そう、エルフ達の時と同じなのだ。




ヒロシは結界の外に土魔法を使って大きな小屋を作った。


とりあえずそこに入ってもらう。


腹が減っているようなので、急いで家に戻り、肉と野菜、果物なんかを大量に収納魔法に放り込んでおっさん達の元へ戻る。


収納魔法から取り出される食料におっさん達狂喜乱舞。


どんだけ腹が減ってたんだって。


20分くらいして、最初に話しをしたおっさんがこちらにやって来た。


「いやー助かったわいヒロシ殿。わしはテンプス村の村長をしておるドワマシーという。

長雨の影響で皆食料が尽きておったのじゃ。そのうえ、訳の分からんところに居るんじゃからのお。


みんな緊張の糸が切れたんじゃのう。本当に助かった。礼をいう。」


「いえいえ、あの穴を見ればだいたいの事情は察しました。


恐らくというより間違いなく、皆さんから見た異世界であるここに強制転移させられたのでしょうね。」


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