鉄道博物館へ行こう

ミーアの猫舌を忘れていたヒロシにミーアは少しおかんむりの様子。


でもエルフ達の幸せそうなとろけ顔につられてすぐに笑みが戻ったようだ。




「はあー、これでお終いデスウー」


一番最後までモーニングを楽しんでいたアスタが名残惜しそうに最後の一口を飲み込んだところで、そろそろ鉄道博物館のオープン時間になった。


「「「ごちそうさまでした(デシタ)」」」


手を合わせて皆で合掌、喫茶店を後にした。


ここから鉄道博物館までは5分くらい。


レンさんとムムさんは、とろけ顔からまた引率者の表情に戻り、しきりに辺りを見渡しながら歩いている。


「大丈夫ですよ。この世界は獣や魔物も出ないですし。まあ車や自転車には気を付けないとですけどね。」


「あの金属の塊は危険デス。バックファみたいに突っ込んできますシ、それにすごい速さデスカラ。あんなのに当たらレルト。」


「まあたしかにそうですけどね。こちらが交通規則を守っていれば当たってくることはまず無いですよ。」


「その交通規則っていうのが難しいのデスガ。」


こちらに来る前に「歩道を歩く」とか、「信号の見方」とか簡単な交通規則はエルフ達に教えたんだけど、元々森の中にそんなものは無かったんだから、理解させるのに苦労した。


「とにかく、俺の後についてきてくれればいいですからね。みんなも分かったかなー。」


「「「はーい」」」


4車線道路の歩道を1列に並んで歩く。


個人向けの無人車両が普及し出してはや10年、この間に地下道の整備が進んだ。


日本の道は狭かったり交差点も複雑に入り乱れているから無人車両は通行が難しい。


なので無人車両専用道路が地下に急ピッチで作られている。


都心部は地下鉄などの地下構造物が多いため結構遅れているが、この辺りだと特に問題もなく工事も進み、今では地上よりも地下の方が通行が多いような気がする。


道路の500メートルおき、または市役所や図書館、博物館などの主要な建物の地下には立体駐車場が整備されており、自由に止めることが出来る。


地下には手つかずの空間が大量にあるため、駐車場も作り放題だ。


地上にある一般店舗に入る場合は最寄りの駐車場に無人車両を駐車してそこから地上に上がる。


地上の商店街を移動したら次の駐車場まで無人車両をリモートで呼び出して、そこから乗車できるようにもなった。


このシステムが出来るまでは目的地から遠くにある地上の駐車場に車を止めて目的地まで歩き、そこから商店街の端まで歩いて、また駐車場まで戻ってくる必要があったが、いまでは無人車両が商店街の端近くまで来てくれるので、かなり時間が短縮できる。


もちろん1ヶ所の駐車時間も短縮できるので観光地の駐車場不足もかなり緩和されたようだ。




「さあ、交通博物館に到着だ。中に入ろう。」


「「「はーーーーーーい」」」


入場料を支払い館内へと入る。


平日だし、ほぼオープンと同時なので館内はガラガラ。


市販の迷子バッチ(高精度GPS機能付き無線端末)を全員に取り付けておく。


この迷子バッチは優秀で、公的な博物館などでは館内のどこにいるかまで詳細に通知してくれる代物だ。


元々は20年ほど前に開催された大阪万博用に作られたみたいで、会場内での迷子問題はかなり解消されたとのことから、一般に市販されるようになったそうだ。


ひとり暮らしだった榎木広志には無用の物だったのであまり知らなかったが、子供達を館内で自由に移動させている現状でそのありがたさを身に染みていた。


エルフ達も入ってすぐは洞窟のような空間に緊張していたが、次第に慣れてくると目に入る様々な展示物に目を奪われてあちこちに走り回りながら散らばっている。


展示するものが大きいから博物館自体もとっても広い。


特に背の小さな子供達はすぐに見えなくなってしまうのだ。


しかしヒロシの目の前にあるスカウター型モニターで所在が一目で分かるため、迷子バッチ様様である。


日本に初めて入ってきた蒸気機関車150型のレプリカや北海道開拓時代に活躍した義経号・弁慶号等のレプリカも展示されている。


次のブースでは当時の駅舎や駅長室の様子が窺えたり、自由に触れる蒸気機関車の運転席もあった。


だんだん進むにつれて時代が進み、ジーゼル車、在来電気車、懐かしい特急車両を過ぎると新幹線ひかり号が姿を現す。


どれも榎木広志が小さい頃、親に連れられて見に行ったことのあるものだった。


特にひかり号は親の大阪出張に連れて行ってもらった時の記憶が鮮明に残っている。


あまりの懐かしさに展示物に夢中になっていたヒロシは、スカウター画面の一番隅に映っている点滅を見つけた。


迷子バッチを示す点滅は既に館内のあらゆる場所に散らばっており、ゆっくりと移動しているのだが、その1つだけは最初の位置からほとんど動いていなかった。


何かあったのかと不安になったヒロシが急いでその場所に移動すると、そこには弁慶号に凝視して動かないアスタの姿があったのだ。


「アスタ、どうかしたの?」


呼び掛けるヒロシに気付いたアスタは真剣な面持ちでヒロシに告げた。


「オレ、いつかこれに乗るンダ!これを村に走らせルンダ!」


アスタの純真無垢で決意の籠った言葉に少し感動を覚えるヒロシであったが、まさかあんなことになるとはその当時のヒロシには思いもつかないことだったのだ。

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