畑を作ろう
畑組のムム達6人は膨大な苗と種に戸惑っていた。
自分達が知っている野菜や果物は当然としてあったが、それ以外に知らない種類が大量にあったのだ。
「これはいったい?」
苗及び種の包装紙に付いているQRコードを読み取ると植え方のハウツー映像が画面に流れている。
「こんな野菜は見たことないのだが?」
「でも凄く美味しそうだよ。」
「確かに美味しそうなんだけど。でも作るのは難しいんじゃ?」
「でもでも凄く美味しそうだよ。」
映像には、植え方、収穫の仕方と一緒に調理方法も流れており、これらを見ながらあーでもない、こーでもないと会話をしているのである。
こちらも田んぼと同じくらいの土地を既に用意されており、後は植えるだけになっているのだが現状植え終わっているのは彼らが知っている野菜や果物だけであり、今の時期に植えることが可能な苗・種の内2割にも満たない。
「まだたくさん植える場所があるのだから、とりあえず植えてしまおうよ。」
なかなか進まない状況にムムがみんなをまとめるように声を掛ける。
「いやあ、何を植えるかなかなか決まらないようですねえ。
まあこれでも食べて一息つけて下さい。」
ヒロシとミーアが生野菜サラダと果物を畑組のところへ持ってきた。
そこに並んでいる野菜や果物は今ムム達が悩んでいる野菜や果物だった。
「い、頂きマス。」
畑組のリーダー的な存在でもあるムムが恐る恐る生野菜に手を伸ばす。
「う、うん? 美味しい、美味しいデス!!!」
ムムが今食べているのはレタス。ムムの食べる手が止まらない。
「ムムさん、焦らなくてもまだまだありますからね。みなさんもいかがですか。」
ムムが夢中で食べている姿を見て他のエルフ達も手を伸ばしてきた。
「「「「「「美味しい!!!!」」」」」
「このレタスという野菜なんですが、そのままでも美味しいデスガ、この白いモノを付けるともっと美味しくなりマスネ。」
「あーそれはマヨネーズっていう調味料です。美味しいでしょ。」
「「「「「「むちゃくちゃ美味しいス!!!」」」」」」
「この野菜も美味しいデスシ、こっちの野菜も美味しいデス。全部美味しい。」
「ありがとうございます。最近の野菜は品種改良が進んでいますからねえ。
昔はえぐみがあって生では食べられなかった野菜も今はほとんど生でいけますからね。」
ヒロシ達が持ってきた野菜や果物を囲んで美味しそうに食べているエルフ達の輪からムムともう一人別のエルフ男性がヒロシ達の元へやってくる。
「ヒロシ様、わたしはラシンと申しマス。少しお伺いしてもよろしいでショウカ?」
少し知的な言葉使いのラシン。
ムムが慌てて補足する。
「ヒロシ様、ラシンはわたし達の村に住む学者様ナノデス。話し方に問題があるかもしれませんが、ご容赦頂けますデショウカ。」
「ええ、全然問題ありませんよ。ところでラシンさん、質問とは?」
「先程レタスの植え方についてあの不思議なガラスで教えて頂きマシタガ、レタスとは今植え頃の野菜なのではないのデスカ?
先程食させて頂いたレタスは大変瑞々しく、とても昨年に採れたものだとは思えないノデス。」
「あー、あれは野菜工場で採れたものですね。畑ではなく工場で年中栽培しているモノです。」
「????コウジョウとは何でショウカ?」
「野菜工場とは大きな建物の中でその野菜の育成条件に合う特定の光や温度の環境を用意することで、季節に関係なく野菜を育てるようになっている施設のことです。
近年売りに出されている野菜や果物のほとんどは野菜工場で作られているので、旬に関係なく食べられるのですよ。」
「なんということデショウ!!!! そんなことが可能なのデスカ?」
「ええ可能です。害虫も来ないですし、他の野菜との交配も無いため、最高の環境で作ることができます。もちろん雨や日照りに影響されることも無いので、いつでも最高級の野菜を食べることが出来るのです。」
「す、凄いデス。品質だけでなく収穫量も保証されるわけデスネ。」
「はい、その通りですね。さすがは学者さんですね。ラシンさんは野菜工場の利点を既に把握されたようですね。
建物の中で作りますから、畑の面積で収穫量が決まるわけではありません。
建物の階数を増やせばそれだけ耕作面積が広がるわけですから、たくさん収穫できますね。
1階層辺りの収穫量も当然畑で植えるよりは確実に多いですが、階層が増えることでその何倍にもなりますよ。」
ラシンは興奮しながらヒロシの説明を聞いているが、ムム達他のエルフはヒロシとラシンの会話に付いていけず不思議そうな顔をしている。
「ここでは野菜工場を作らないのデスカ?」
「ええ、いつかはそんな風にしたいと思っていますが、結構ノウハウと資金が必要なんですよ。
ですからとりあえずは畑で作って頂きます。
ただ、結界を全面に張りますから、害虫や悪天候による被害は極力抑えられると思いますよ。」
「わかりマシタ。わたしの方からムム達には説明してオキマス。ヒロシ様有難うゴザイマス。」
そう言うとラシンはムム達を引き連れて何やら話し合いを行い、すぐに野菜の種を畑に蒔き出したのだった。
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