第23話 恋の相手

 私達はそごうへ向かった。


 道行く途中、女子達の視線が小平君へ向くのが判る。結構目立つもんね。その横を並んでチマチマ歩く貧弱なわたし(岐阜県出身、Bカップ)。百貨店行くならもうちょっとお洒落してくるべきだったわ。胸はどうしようもないけど。


 それより百貨店なんかに入るの久しぶりだな。そもそも高くて手に負えないんだけどさ。


 目的のロクシタンのショップに辿り着く。黄色い看板や内装が店内を明るい雰囲気に装飾している。店舗に入った途端様々なフレグランスの香りが私達を包む。良い匂い。


 私はトワレの置いてある棚へ近付き先程言ったローズを手に取って小平君に見せた。


「わたしはコレが好きですけど、香りは好みがありますので妹さんにはどうでしょうかね?」


 小平君はサンプルの匂いを嗅ぐと、

「うわ、すっごいバラの香りだね」と感想を述べる。まあローズですからあ。なんとなくオスカル・フランソワの顔が頭に浮かんだ。


「まあ、他にも香りはありますので妹さんのイメージで選んだらどうですか?」

 わたしの好みだけで決めるのは良くない。気に入らなかったときの責任も回避したい。


「妹のイメージかあ……」

 そう言って考え込んでしまった。


 小平君は他の香りのサンプルも嗅ぎながら吟味しているようだ。わたしは手持無沙汰になり店内をウロウロと彷徨う。遠目から小平君を見ると、スラリとした体型で爽やかな彼がサンプルの匂いを嗅いでいる姿は嫌味が無くなかなかサマになっている。本当に彼女いないのだろうか。


 フラフラしていたけど、特に買う物もないので結局小平君の元へ戻った。


「意外に良い値段するんだね」

「それでもシャネルとかのブランド物に比べたら値ごろですよ」

「そっかあ」

 プレゼントでしょ? ケチるんじゃない。


「匂いは判んないから恵梨香ちゃんの好きなこのローズでいいかな」

 そう言って、50mlの瓶を手に取った。本当にそれでいいの? 妹さんが気に入らなくてもわたしの所為にしないでね。


「値段も予算以内だしいいんじゃないですか」

 まあわたしも適当だわ。とっととハム太郎。


「そうだね。コレにしよう」

 あっさり決まって良かった。アッチコッチ連れまわされたら正直しんどい。助かった。はよ飯食わせろ。


 小平君はレジへ向かい、プレゼント用にラッピングをお願いした。会計を済ませ外へ出る。


「恵梨香ちゃん、助かったよ。俺1人だったらこんなの思いつかなかったよ」

 それはどうも。多少女子力発揮出来て良かったよ。


「いえいえ、妹さん、気に入ってくれるといいですね」

 くれぐれも私が選んだって言わないようにね。気に入らなくてもわたしは知らんよ。


 そう言えば、葛谷さんにも妹さんいたっけ。葛谷さんも誕生日に何かプレゼントしたりするのだろうか。明日訊いてみよう。


 その後、小平君オススメのイタリアンレストランで夕食をご馳走になった。

 本来ならこんな爽やかイケメンとのディナーなんて胸がときめいて生唾モノなんだろうけど何故かあまり楽しくない。レストランの他の女性客も彼をチラ見していて傍から見てもイケメンなんだろう。

 高校生の時の私ならきっとウキウキしてこのディナーを楽しんだ事だろうけど、純也の事があったからかどうにも恋愛に臆病になっているようだ。なんだか気持ちが入らないのだ。


 葛谷さんが言っていたっけ。恋に落ちるのは恋に落ちようと思うからだって。確かにそういう物なのかも知れない。それなら心のどこかで小平君に恋に落ちる事を抑制しているのかな。

 

 じゃあもう二度と恋はしないのかと問われるとそうでもない。やっぱり恋はしたいし男の人に触れられたい。純也に触れられ、キスをした時に感じた快感を覚えているのだ。傷付きたくはないけど人を愛して愛されたい。では今のこの矛盾している気持ちはなんだろう。小平君レベルのイケメンで恋に落ちる事に二の足を踏んでいる様ではこの先二度と私が恋に落ちるような男性が現れるのだろうか。


 葛谷さんが言っていたっけ。50%の確率で傷付くって。まあかなり雑な分析だとは思うけど、確かに恋をすれば傷付くリスクも付いて回る。18歳の恋愛で一生添い遂げられる相手を見つけるなんて二階から目薬くらいの難易度なのかもしれない。ゆっくりじっくり相手を吟味していたら知らぬ間に結婚適齢期を過ぎてしまうかも知れない。やっぱり傷付くリスクを背負いながら恋愛をするべきなんだろうな。


 てか、さっきから葛谷さんの事ばかり考えている。


「恵梨香ちゃん、なんか悩み事?」


 ぼーっとしてたらしい。


「あ、ごめん……」


 なんか気を使う。素の自分を出せない。遠慮してしまう。気取ってしまう。

 小平君はイケメンで爽やかで良い人。だけど、自意識過剰かもしれないけどきっと私はこの人に恋をする事は無い。それに彼もそんな風に思っていないかも知れないし。


 なんだか乗り切らない気分のままディナーを終えて2人で電車に乗った。先に小平君が電車を降りて1人になる。何故だかほっとした。心の中は明日葛谷さんの家で唐揚げを作る事に支配されていた。こんな気持ちでは小平君とのデートを楽しめる訳が無かった。今さらながらに気付く。私が恋をしようとしているのが誰なのかを。








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一夜限りの恋人と唐揚げを 折葉こずえ @orihakze

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