第23話:新しい仲間。大好きな友だち。お金じゃ買えないね。

その日、私たちは四人で高知市のカラオケボックスで大いに騒いだ。

石川翔はとにかく今流行はやりのアイドルの曲を歌いまくった。

沢田唯人はロック調のJポップを歌った。

私は本当に曲を知らなくて、ゲストという立場でもあったので免除してもらった。

するとまたまた冗談好きの沢田唯人が

「直子、君が代、あるぜ」

「世界タイトルマッチかッ」

「あ、般若心経ある。これ、歌えよ。俺、木魚もくぎょ叩いてやる。ギャーテイギャーテイハラソウギャーテイ~ッ。キャハハッ」

沢田……、お前、芸人になれるよ……。

さて問題はマーちゃん。

『大阪で生まれた女』とか

『悲しい色やね』とか

『横浜ホンキートンク・ブルース』とかいう何やら大人の曲を歌った。

私とおんなじでテレビを観ないのでスナックで常連さんが歌う曲しか知らないらしい。

でも、演歌だかロックだか何だか分からないとにかく渋い曲で、

私と石川翔と沢田唯人はポカンと口を開けて聴いていた。

『大阪で~』と『悲しい~』は女性が語り手の歌だからまだ解かりそうだったけど、

『横浜~』はまったく理解できなかった。

マーちゃん、

「ひとり飲む酒、悲しくて/映るグラスはブルースの色」って、

未成年の私らには解かんないよ……。

まあとにかく、みんな散々歌って、

そんなちゃんぽんなカラオケが終盤に差し掛かったとき、

男の子三人が私にプレゼントをくれた。

モノはズバリ文房具。5千円分。

ノートやら消しゴムやら蛍光ペンやら消耗品がトートバッグの中にわんさか山積み。

ありがたいけど、でも、三人らしくない。

どういうこと?。

沢田唯人が珍しく真面目に言う。

「色気ないよなあ……。でも、マーからお前んちの家計のこと聞いてさ。やっぱりこういうのがいいのかなって……」

「あ、ありがとう……」

「ホントはエロ動画のテンコ盛りにしようって思ったんだけど、お前んちのおんぼろ公営住宅じゃ閲覧場所がね」

「余計なお世話だなッ」

「ガハハハ!」

「ごめんね、直ちゃん。模試の順位落としちゃって……。いっぱい勉強してよ」

マーちゃんが優しく言う。救われる。

「よしッ。2学期挽回するよ!」

「よく言った。じゃあ、最後にもう一つプレゼント!」

と石川翔が勢いよく身を寄せて言うので

「な、なに……」と私は身構え。

「目つぶって……」と沢田唯人が言い。

「え……」私は恐る恐る目を閉じ……。

「目つぶった?」

「うん」

 !!!ッ。

瞬間、ぷにゅ~んと柔らかくて温ったかいものが私の両頬りょうほほに!。

「ギャハハハハハハハハー!」

石川翔と沢田唯人が私の両頬にぶちゅうっとキスしたのだ。

私はみるみるカーッと顔面が真っ赤に充血して

「恥ずかしいよーうッ!」

「延塚さん、ありがとーッ!!」

石川翔と沢田唯人は声を上げて万歳して礼を言った。

私はもう下を向くしかない……。

恥ずかしいけどむちゃくちゃ嬉しい!。

「ねえ、マーもしてやれよ!」

石川翔が悪ノリする。でも、マーちゃんは冷静に

「俺はいいよ……」

と淡々と断る。

え?、ホント……。

「幼馴染みじゃ照れくさいか。ガハハッ」

沢田唯人が収拾してくれた。

正直、マーちゃんにもしてほしかったなあ……。

私はちっとも照れくさくないのに……。

マーちゃんはきまぐれ……。

それより、ああ……私はこういうバカ騒ぎを忘れていたなあ……。

こういうことができないならおかたい役人にでもなるしかないな……。

今日の日のことは忘れないよ。石川翔、沢田唯人、ありがとう。

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