第4話 同級生コンビ!三ヶ月間隣の席だった僕たちをなめるな!!


「黒い……剣……。カナタくん……君は一体?」


 床に座り込んでいるミュナが、何が起こっているのか把握しきれていない。僕を戸惑いながら見上げている。


 うーん。

 僕は頬をぽりぽりとかく。


 うん、正直僕もよくわからない。

 ただ君を守りたい。

 そういう強い気持ちが、なにか引き起こしたんだと思う。


 え!!あれ?ちょっと待って。

 僕は冷静になってみると、割と恥ずかしくなってきてしまって、ミュナの方を見れなかった。


 あ、愛の力ってやつかな……。

 歯が浮いてしまいそうだ。どこのキザなやつだ。


 うわーっ!と僕は頭を抱えた。


 これって、うわ、告白みたいなもんじゃないか!

 どんだけ僕は君のことが好きなんだよ!

 好きだよ!バカ!!ばかあ!

 あーーもう!!


 僕の頭がどんどん混乱し始めていく。


「くくっ、面白い奴じゃ。だが、所詮はただの人間よぉ。真っ二つにしてくれるわ」


 シンヤの言葉に、僕はっと我にかえる。

 実際にはシンヤの泥沼の様な殺気に当てられて。


 そうだ、今は、色々考えている場合じゃない。

 好きだから守る。それでいいんだ。


 シンヤが床を爪先で踏み込む。


 ヤバい!!くる!

 とっさに黒い剣を構えて、防御姿勢をとった途端、自分の剣に重い衝撃が。シンヤの大剣が、僕の直剣にぶつかったのだ。


「く!」


「ほれ、ほれ!どうした?押されておるぞ」


 僕の後ろにはミュナがいる。吹き飛ばされるわけにはいかない。

 大剣の重みをしっかりと受け止めながら、どうにか力を逃す方法を考える。


「わか……って、るよ!!!」


「お?」


「ぅるらぁあ!!!」


 僕は剣同士を擦り、嫌な音を立てながら大剣をいなすように弾き、チリッと火花が散らせ、後ろへグラついて僅かな隙ができたシンヤへ、剣で右から左に斬りつけた。


「おっと。一撃もらってしまったか」


 シンヤの肩から腹横までに、一線が走り、赤黒い液体がぶしゃりと湧き出た。


「っ……!」


 僕は、体が凍りついた。怖い。

 隙から解放されたシンヤが、にぃと笑って僕目掛けて大剣をふるう。


 動かなきゃ、動け!!動け!!動けよ!!

 やられるぞ!!


「カナタくん!!!」


 がぁぁぁんっという金属同士の音が耳を貫くくらいの音量で鳴った。


 なんだ?

 痛く、ない?

 僕。どうなったんだ?


「カナタくん!!しっかりして!!!」


「……ミュナ……?」


 僕は、懇願するような声に目を開けた。

 あれ?なんともない。

 尻餅をついていた。

 前を見上げる。

 ミュナが、銀色の双剣を手に、大剣を受け止めている姿がそこにはあった。


 ミュナも重い剣を受け止めていて、僕を振り返る余裕はない。

 前を向いて、奥歯を噛み締め、僕に声を荒々しく投げた。


「しっかりして!!カナタくん!吸血鬼が、あのくらいでやられるわけないでしょう!?」


「……!」


 ミュナの声は、慰めだ。

 それでも。


「……なら、遠慮してたらこっちがやられるな」


「当たり前よ!!このおバカ!!」


「んな!!」


 ミュナの顔はこちらからでは見えないが、兄の剣を受け止めるのに必死で言葉遣いが荒くなっているとかではなく、本音だった。


「くっ……やあ!!」


 ミュナが、大剣を弾き返した。シンヤが、その反動を利用してヒラリと後ろへ逃げた。先程の僕からの一撃を思い出してか、同じことを避けようとしたのだろう。 


 僕はその生まれた時間を利用して、立ち上がってはミュナの横に立つ。


「カナタくん」


「ごめん、ミュナ。僕も一緒に戦うよ」


 僕は剣を構えた。

 ミュナの口元がにぃっと孤を描く。


「ふーーん。もう平気なの?」


「ぅ……格好悪いからさ、あんまりいじらないでよ……」


 横目で僕を一瞥したミュナは、双剣をちゃきっと鳴らす。


「二人三剣……か」


 シンヤが目を細める。


 僕たちは、何も言わなくとも三ヶ月間、殆ど同じ時間に来て。何も話さず。自分の好きな事を好きに。

 とにかく。


「三ヶ月間、隣同士の僕たちを、あまり舐めるなよ?おにーさま」


 僕は不敵な笑みを浮かべた。


「……、ちょっと恥ずかしいから無難に同級生コンビ、とかにしてもらってもいいかしら?」


「ふぁ!?」


 頬をうすら赤くしたミュナが、もじっと躊躇い気味に訂正してくる。

 うそ!?変なこと言った!?


「……こほん、で、まぁ、そーいうことだから。もう遠慮なんかしないで、その腕、足を切り落とすつもりで行くからな」


 僕は若干照れながらも、シンヤへ啖呵を切った。


「くっ………くく、くはははっ」


 突然。シンヤが、お腹を抱えながら笑った。床に四つん這いになって、教室の板をバンバンと拳で叩いた。


「ひっ、ひひ。ひひひ。くはははははははっ!!」


 ひーひー、笑いながら涙を浮かべているシンヤ。

 僕はあれ、なに?どういうこと?とミュナを見る。


「あー………、えっと……?」


「………」


「え!!?」


 全てを理解したらしいミュナは、顔を真っ赤にして頬を風船みたいに膨らませていると思ったら、プルプルと体は震えている。怒っていた。


 どういうこと?

 僕がもう一度ミュナに問いただす前に、ミュナがクワッと口を開いた。


「お兄様!!!!」


 その声は怒りが露わになっていた。


「ひー、ひーっ。お?嗚呼すまんの、すまんの……。くはは……」


 あんたは、もうほとほと、いい加減に笑いを止めてくれよ。


「いやーすまん、すまんの。あのミュナが眷属を作ったと聞いてどんな奴かと思えば。こんな面白い奴だったとは!眷属が自分で武器を持って戦うなど今まで見たことがないわ」


 つまり?

 僕はミュナを見上げる。ミュナは腕を組んでそっぽを向いた。


「……シンヤお兄様とは、ちょっと他の兄弟よりも仲は良かったの……。昔の話なんだけどね」


「私は今でもそなたのことを今でも愛らしい妹だと思ってるおるぞ?」


 にやりと口角を上げるシンヤに、苦々しい顔をするミュナ。

 つまり、僕たちは。いや、僕が眷属としてどんな奴なのかを兄として見定めにきたって……ことなのか?


「ミュナ、そなたの眼が曇っておるようなら、早々に王位継承権を剥奪させようと思っておったところだったが……。気が少々変わった」


 狼のように、獲物を値踏みする眼差しを僕に向けてくるシンヤ。僕の背筋が凍る。ごくりと唾を飲んだ。

 その緊張を解いたのは。


「シンヤ様!!もういいの!?ケーキ!?ケーキの時間!?」


 明るくて可愛らしいリルの声だった。

 武器化を解かれたリルが、興奮気味にシンヤを問い詰めた。シンヤは、黒い手袋のまま、幼女の頭を撫でてやる。


「今日はもう引くとしよう。愛しの妹に、どんな虫が付いてしまったか、わかったからの」


 ……変な虫で悪かったな。

 いや、でも、眷属としては認められたってことなのかな?


「嗚呼そうだ。ミュナよ」


 教室から去り際。シンヤは、ふと僕の横にいた少女を一瞥した。


「皆がお前に注目しておる。あのミュナがついに参戦したのだから当然といえば当然だが……。気をつけることだぞ?では、またの」


「おにーさん、おねーさん!またね!がうー!」


 その軽快さは、ひらりとやってきた葉が嵐を巻き起こした、と思えば、再び葉になって去っていくかの様であった。

 ミュナの表情は厳しく、唇は硬く閉ざされていた。

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