第3話 僕は武器だ。そして、武器を持つ。

 

 彼女は、ミュナは、戦いを望んではいなかった。

 なのに。


「……僕がミュナの言う通り、逃げていたら……。ミュナをお前たちの戦いに巻き込んだのは、僕だ」


 拳を握りしめる。爪が皮膚に食い込んで、血が滲んだ。


「?なにを訳のわからんことを。そやつは生まれた時からこうなる定めだったのだが……。まぁ、いい。面白い。相手をしてやろうかの」


「や、やめて!カナタくん。よくわからないけど、武器になって!」


 僕の腕を、ミュナが強く掴んだ。

 流石は吸血鬼。肩の脱臼はもう完治した様だった。


「え……?なに、してるの!?早く武器になって!」


 だけど僕は武器にならない。

 いや、もうなっている。


 死ぬ気なの!?と、琥珀色の瞳が揺らいで戸惑いながら尋ねてくる。

 いや、死ぬつもりなんてないよ。


「僕は君と一緒に、学生生活をするんだ。平凡でありふれた生活を。精一杯」


 僕は君の眷属。君の武器。

 それだけが明確なら、武器の在り方は、なんだっていいだろ?

 僕は君を守る武器でありたいんだ!!

 

 あの日、あの雨の日、彼女に逃げろと言われた僕は、逃げ出すことと重みになることしかできなかった。でも、いやだ。

 僕は今、猛烈に、穏やかな朝の教室が、二人でなにをするわけでもないその時間が恋しい。


 腕の証が、熱い。

 僕の気持ちに呼応してくるように、熱浴びていく。


 手に滲んだ血が、形を作っていく。


 ——僕は、剣を、武器を持った。


 漆黒の鎌と同じく漆黒の剣を。


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