英語の課題に着手
「杏さん、シャワーしてくる? もしも、あとでお母様と入るなら早速だけど」
「ああ、うん。秋兄たちに見つかる前にちゃちゃっと宿題に着手しちゃおうか」
「助かるよ」
「こちらこそ」
僕たちは軽く言葉を交わして雪春の言う書庫院兼集中勉強部屋に向かう。そこにおさめられている蔵書のすさまじいことといったらない。市立図書館の数倍量は本がある。
なにここ、天国? パラダイス? なんて僕がほわわわ、思って感動している間に雪春は本の山に消えてしばらく。腕にいっぱいの絵本を抱えて戻ってきた。んで、勉強机にどさどさとおろす。僕は目移りする心地で本を物色。雪春も題材となる本を選ぶ。
しばらくして僕は「手ぶくろを買いに」をチョイス。雪春は「さるカニ合戦」を選んだのだが、アレかな。題名から内容の予想がつかない雪春のチョイスに突っ込むべき?
それとも、そっとしておくべきだろうか。まあ、いいか。僕は自分が直感で選んだ絵本をとりあえず流し読みで内容を頭に入れる。雪春のは多分復習よろしくの斜め読み。
ぱらぱらとページをめくる音は軽快。一方の僕は内容を頭に入れつつ英文に変換しながらの読書なのでちょっと速度は遅い。けど、僕の方が半分読み終わったと同時に雪春はノートパソコンを二台持ってきてそれぞれをコンセントに繫ぎ、バッテリー供給。
うわあ、なんか普通にパソコンが十台くらい置いてあるんだけど、突っ込んでもいいかな? なにさ、何台も使っての作業があるのか。……あ、義母さんが使う、のかな?
んで、息子たちも同時に使うとなると困るから予備を買ってある、と。僕の部屋にも勉強机にさも当然のようにデスクトップパソコン置いてあったけどアレも勉強用?
いや、僕、パソコンを使った娯楽とか全然知らないけどさ。だって、どうでもいいし。むしろ僕にとっての娯楽は知識の吸収だから。知らないことを知った瞬間のあのえも言えぬ高揚感は今まで誰とも共有してない。だって、みんなノーマルで僕アブノーマルだし。
勉強のことになると変態的素質を覗かせるんだよな、僕って。って、朝倉に言われた。何度も何度も繰り返し、言われまくった。僕は普通のつもりなんだけどなー。ぶー。
「どう、日本の童話は?」
「ん。結構楽しい」
「じゃあ、そろそろ書きはじめようか」
「そだね。えっと、これってどうやってつけるの、雪春? 僕、パソコンなんて中学時代にデスクトップ少し授業で弄った程度なんだよね。どこ電源? どう起動するの?」
「えっとね」
わからないところを素直に訊く僕に雪春はなぜか眩しそうな顔をしてパソコンの基本操作方法を教えてくれた。そのまま文書作成にワードを起動して、僕は早速題材にした本の名前を打ち込んで、さくさく絵本を読みながら組み立てておいた文書を打っていく。
雪春は僕がもうすでにあらすじどころか本文をつくりはじめていることにことさら驚いて慌てて自分も文書作成に取り組みはじめる。が、ほんの数行くらい打って手が止まる。僕はすでに中盤辺りに取りかかっているのだが、雪春は凍ったように動かない。
なので、僕は一旦名前をつけ、保存をかけてから雪春の後ろ側へとまわり込んで見てみる。で、どこがどうなっているのか不明なので雪春が広げている絵本を手に取って軽く読んでみる。へえ、こどもの読む本にしては過激な内容だな、この絵本。復讐ものか。
カニさんがまず初っ端で死んでいるし。へたしたらトラウマじゃないか、この本。
でも、雪春が固まっている箇所がわかったので横から覗いて彼にこういう表現にしたらどうだろう、と提案していく。すると、雪春の冷凍がようやくとけて動きだす。
とりあえず僕が提示した例文を元に作成し、僕に確認を取ったり自分で読んでみておかしくないか確認しながらだが、打鍵の音は徐々に軽快になっていくのでよし、として僕は自分のパソコンに戻って自分の題材終盤をつくり終えて、仕上げに取りかかる。
そして、僕が仕上げて保存していると雪春からヘルプがかかったので対応する。飴一袋分だっていうのもあるけどいつも助けてもらっているから。この宿題に際して以上に普段から雪夏にお仕置きしてくれているの返せるならこれくらいお安い御用ってね。
「んで、あまり重くすると童話っぽくないしここは軽く「正義の勝利だ!」くらいで締めておいてもいいんじゃないかな? 「どうだ参ったか!」とか言っちゃうよりもさ」
「なるほど。たしかにそうかも。リアン先生はこういう
「多分だけどね。じゃないと退治ものとか復讐ものは重くなりすぎるって僕は思う」
「杏さんってひとの思考にすごく鋭いよね。だから、ヤマの予想が得意なのかな?」
「さあ? でも限られた手札しかないんだから普通に読めないかな、思考回路って」
「……。あ、はは、ノーコメント、かな?」
こうして僕らは無事リアン先生からの宿題を終えてそれぞれにプリンターへ接続してプリントアウト。数ページに渡る作品をホッチキスで留めて交換してみる。誤字脱字、というよりスペルチェックなどの確認だ。雪春は微笑ましそうに僕の作品を読んでいく。
僕も同じくだ。雪春の「さるカニ合戦」結構コミカルに仕上げてもらったから読みやすいし、重すぎず軽くもなく。ちょうどいい感じに仕上がっている、と思う。面白い。
「あれ、義母さんからだ」
「なんて?」
ふと、雪春と英文絵本読書会しているとスマホが震えた。義母さんからメール。……もしかして学校での一件でお咎めが義母さんに通達されたのだろうか? と、恐々開いてみると意外な文面が躍っていた。学校でのことではあったのだけど、大丈夫かと。
そして、学校側も先んじて注意していたのに僕の地雷をわざととしか思えない勢いで踏んだ藍継の方が罪を重く受け止めるべきだと判断したそうだ。でもやっぱりだけど。
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