テキトーに交換品を提示する
「みんな狡いぞ~。ねえ、雲林院さん、僕にじゃあ、手ほどきしてよ。な、春、それくらいいいだろ? 手ほどき。丸パクじゃない。教えてもらうの、わかんねーとこ」
「譲歩したみたく言わない。自力でしなよ」
「ええー、春は家同じで訊き放題じゃん? 質問し放題でしょ? そっちのが狡い」
「……。そりゃあ表現力は杏さんの方が上だろうけど、原作を教えるのは僕だし」
「つまり、訊くんじゃん?」
春日のトドメよろしい言葉に雪春が「ぐっ」と言って黙る。いや、おい。お前までなにを計画中だ、コラ。秋兄に言いつけるぞ? でも、雪春に原作を教えてもらうのはたしかだし、だったらちょっと表現力を伸ばすくらい手助けしてもいい、のかな?
どうなんだろ。けど、そう。学校って本来助けあって切磋琢磨する場所だしな。
僕は義母さんの献立表を取りだして、その他食べてもいいもの、というのを確認。
見ると飴舐めるくらいならいい、と記載。それも人工甘味料不使用のやつなら腹くださないからオッケーって書いてある。じゃあ、そういう方向性でいく、でいいのかな?
「ん。僕で力になれるならいいよ。ちょっと教えてあげる程度。でも、学食とかみんな大袈裟だからさ、人工甘味料使っていない飴一個につき例文ひとつ交換でどう?」
「え!? そんなものでいいの?」
「うん。それ以上なんてマジ賄賂だもの。僕ね、胃腸が悪いからそのくらいで充分」
「うはー、さっすがわかっているなー。乗った。人工甘味料不使用飴だね。おっけ」
春日は早速人工甘味料不使用の飴をネットで検索しはじめている。クラスメイトもあとに続く。雪春は、渋い顔しているけど、ダメだったかな? でも、咎めの色はない。
彼の綺麗な顔には困ったな、という色こそあれど僕の取引を咎める色はない。んで、僕が雪春の顔色を窺っていると彼は自分の鞄から喉飴を袋ごとごっそり寄越してきた。
いや、え、ちょ? これどういうこと?
「僕、英訳とか英文作成は苦手なんだ」
「でも、ペンパル……」
「うん。いつも秋兄さんや雪夏兄さんに手伝ってもらっているの。だからここらでちょっと自分改革しよう、と思って。教えて、杏さん? 僕に英文作成というかいろいろ」
雪春、お前に上目遣いでお願い事されて断れる女の子見てみたいぞ、僕。ちょっと威力強すぎるだろうがよ、これは。でもな、アレ。教えるだけだから。助けるだけ。
自己暗示しながら僕はつい苦笑する。いつも兄たちに助けてもらうことに引け目を感じていたんだろうな。まじめだから余計に。あはは、雪夏とかすっげおちょくりそう。秋兄には呆れられているのかも。となると、そういうの全然ない僕を選んだのかな?
「か」
「ん? か? 蚊?」
「可愛い~。雲林院さん笑った顔、超可愛いのに、どうして朝、笑わなかったの?」
「あー、えっと、お義理かな?」
「ええー。そんなのなくていいのにー。もっと笑って。じゃんじゃん笑って。俺ら男子にスペシャリティなご褒美をください。いや、マジで癒される。七不思議レベル」
おい。それは褒めていないぞ、春日。てか、他の女子もいるのに僕の笑顔だけがスペシャルみたく言うな。すっげ失礼だろ。と、思って女子に視線を向けると彼女たちもぽけ、としていた。あり? おいおーい、どうしたの、みなさん? なぜに顔赤いの?
僕がおかしな現象に首を傾げていると、制服のポケットが震えた。見ると、秋兄からメールが入っていた。その前には雪夏からもラインが入っていた。開けてみるとふたり共似たような内容だった。「部活があるので遅くなるから雪春と先に帰れ」とある。
僕が雪春に秋兄からのメールを見せると雪春は自分のスマホを確認して似た内容と思しき文にひとつ頷き、帰り支度をはじめる。なので、僕も明日までにどれを題材にするか決めておいて、と断って帰り支度して教室をでた。終了のホームルームはないらしい。
学校を雪春と一緒にでて下校する。帰り道に会話はない。まわりを見るも帰るひとは少数みたいだ。みんな部活動とかかな? でも、雪春はしていないのか、部活動。
「雪春は部活していないの?」
「ううん。しばらく担当の教員が休みだから自主練に励んでおきなさいってお達し」
なるほど。まじめな雪春が部活サボるわけないもんな。でも、なんで休みなんだろう、その先生。どっか具合悪くなったとか? はたまたなにかの面倒が舞い込んで?
そうこう僕がどうでもいいこと考えている間に、僕らは無事雲林院家に帰宅した。
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