現国ミニテストである意味やっちゃった
「こーら、授業はじめるぞー、席つけー」
僕が雪春とお喋りしつつ課題集の中に躍る綺麗な几帳面そうな秋兄の文字を追っていると気だるげな大人の声が聞こえてきたので僕は課題集をさっさと片しておく。
すると、早速その現国の教師はミニテストを配りはじめる。ので、僕は前からまわってきた紙束を受け取って一枚取り、後ろにまわす。全員にいき渡ったと同時に開始。
読み問題。書き問題。応用で四字熟語問題もあり、やはり無宮高校とは比較にならない勉強レベルだ。けど、そこまで難しくはない。試験開始五分で僕は表裏両方の問題を埋めて手持ち無沙汰になる。と、ちょうど現国教師が僕のそばを通りかかって驚く。
僕がもうペンを止めているっていうのとざっと見で僕が高得点そうなのに驚いた様子でいる。心外な。この程度の問題に苦戦しているようじゃ大学模試と戦えません。
「雲林院、もう、終わったのか?」
「あ、はい。回答に変更ないし、回収してもらって構いません。見直しも済みです」
「そ、そうか。じゃあ、君のは今この場で採点させてくれ。私も忙しいのでな」
「はい。大丈夫です」
僕と教師の会話に教室中がざわ、としたような気がする。中には教室の壁掛け時計をちらっと見る生徒もいる。いやまあ。わかる反応なような、そうでもないような。
隣の雪春も僕がもう終えたことにひそかに驚いているっぽい。彼の筆記速度がかすかに上昇したのを耳に聴く限りは。そうこう教室中が慌てる間に教師は僕のテストを採点。の途中で眉がピクリと上に跳ねる。多分、僕が書き込んだことについてだろう。
問題の答がふたつあるものがいくつかあったので、一応両方書いておいたのだ。
あと、記述問題の例題に使われている漢字に誤りがあったので斜線して、上に書き直しておいた。……あ、嫌みになっちゃったかな。もしかして。ああ、僕ってそう、無意識に教師たちへ対する嫌みな行動しちゃうよなぁ。ごめんなさい、反省します。
「うん。満点。文句なしだ」
「あ、っと、あのアレは別に」
「いやいや。忙しい時つくったからな。すまん。全員聞け。問い十番「代謝のよい体躯」というのの代謝を先生、体謝って書いちゃったから悩むなよー。こっちだから」
こっち、と言って現国教師は黒板に体謝と書いて矢印して代謝と正しい方を書いた。のだが、クラス、生徒の視線は僕に集まる。う、な、なに? 僕なんか変だった?
だが、生徒たちがこそこそ話しだす前に先生が手を打って試験中だ、と合図したのでそれ以上になにか言われることもなにもなかった。ただ、明らかにひそめられていても視線を感じる。先生はいたく満足そう僕のミニテストの結果というのを眺めている。
そして、全員のミニテストが終わり、最後にあの春日が終わったよ合図を先生に送ったので先生は全員の答案を集めて授業を開始。ミニテストだったのに二十分経過。
なので、あまり広い分類のところをやることはできず、細かな熟語の習得に終わって次の授業で今回のミニテスト、結果悪かったやつ発表するからなー。と何気に公開処刑宣告を行ってから先生は授業終了の鐘の音と同時に教室をでていってしまった。
教室は息を吹き返したようににぎやぐ。僕の方は、ちょっと物足りない気分だ。
学校紹介のパンフにあったのが誇張じゃ、というとアレだけどもうちょい高難度を想定していただけに下方修正をするべきか? と思ってしまう。でも、無宮高校に比べればかなりの高難度っぷりかもしれない。あそこのミニテストマジちょろかったし。
でも、やっぱり正直に贅沢言えばもう少し難度上昇してもいいかも、僕。やりがいに欠ける気がするっていうか、こう、食べ物に例えると噛み応えに欠けるってのか?
「はあ、杏さん、早すぎ」
「あ、ダメだった?」
「そうじゃないけど。でも、悔しいな」
ふは、ちょ、雪春なにマジで不貞腐れてんだよ。この程度のことじゃ僕の力量なんてたいして発揮できていないんだけど。それで悔しいってお前……。そんなじゃ、僕とミニじゃないテストした時に衝撃受けるからやめとけって。でも、僕はその忠告を言えず。
授業と授業の間の休憩時間に入ったことでクラスメイトたちが僕に詰めかけてきたからだ。いや、あの、ちょっと……? 僕、そんなに人付き合い得意じゃないんだけど。
「どんな裏技~?」
「ないけど」
「えー? うっそだぁ」
いや、嘘じゃないし。てか、この程度で裏技使っていたら中間考査とかの時に困らないかな? 本格的に。マジな意味で。でも僕、高校の中間考査はまだ受けたことないからどれくらいの難度なのか今から少し楽しみなんだけどね。でも、わかる。自爆るって。
ミニテスト余裕ぶっこいているばかりか今から中間考査の問題楽しみなんて、頭ヤバいひとだと思われる。もうすでに思われていそうだけど。大多数に。すっごく。
「雲林院さん、勉強得意なの?」
「得意っていうかこのくらい普通じゃ……」
「えぇーっ、いったいどんな難関校通っていたの、それ!? ここ以上なんて……」
「いや、あの……」
「ストップ。みんながっつきすぎかな?」
僕があまりの質問攻めで困っていると雪春が身を乗りだして僕を庇うように手を伸ばしてくれた。ストップ、言った彼の顔には笑みがある。……でもこれ、一般に笑顔へ分類しちゃいけない系統の笑顔だ。なんていうのか、黒い? 怖い、暗黒仕様の笑みだよ。
雪春の笑っているのに一切笑っていない笑顔で教室中が凍りつくのがわかった。
手に取るように、つか肌に突き刺さってきてわかった。つ、冷たっ、怖っ!?
雪春、春の気候みたいなあったか微笑みだと思ったら一転して極寒仕様って怖っ。
えぇと、お前ってなに? 意外と腹黒いのかな、雪春? じゃなきゃこれはない。
「おーい、杏ちゃんやーい」
教室が凍土になった。なのに、気にせずというか外からやってきた呑気な声はお気楽に僕を呼んだ。僕が視線をあげるとそこにいたのはどういうアレなのか、雪夏だった。
アンタ、上級生だろうになにをそんな気楽に声かけてきているんだよ。しかも、僕の返事を待たず教室にずかずか入ってきているし。いや、上級生だからだろうけど。
せめてちゃんと許可を取れよ。フリだけでもいいから。いきなり、朝の蜜花曰く王子様三兄弟のひとり、雪夏が入ってきたせいで女子たちがそわそわしているっての。
許可取れ。もっと弟を見習って遠慮しろ。その実害をこうむるのは僕なんだぞ?
「やはー、杏ちゃん現国で早速魅せたんだってね? さっき富岡に会ったけど杏ちゃんのことべた褒めしていて俺妬けちゃった~。俺なんて死んでも褒めないもん、あいつ」
「それはお前がおサボり常習犯だからだろ」
「あ、わかった? まあ、わかるか。でさ、次あいつの授業で俺もミニテストあるんだけど、ヤマ教えて、杏ちゃん。初登校のミニテストで満点取れるなら楽勝でしょ~♪」
「……」
おい、ここにもいるよ。ヤマくれー
それとも、ヤマを自張りした上で保険に僕のヤマも取り入れておこう、という腹?
ダメだ、こいつ。心臓が強すぎる。雪夏の高硬度心臓に中てられて僕の胃に穴が開きそうだぞ、ちょっと、これ。いや、開きそうっていうよりすでに開きかかっているな。
なんなの、こいつ。朝一に僕の部屋に無断侵入及びセクハラしておいてこの上さらに僕の胃に穴開けようってのは。わかった。実は僕を心労とかその他で殺害計画中だろ?
「雪夏兄さん、ズルしちゃダメですよ」
「いーじゃんか。ミニテストのヤマくらい」
「それで睨まれるのが杏さんになっても?」
「……。ああ、そかそか。それはダメだわ」
雪春の言葉にしばし沈黙した雪夏だが、いともあっさり諦めてくれた。諦めて僕の頭をなでなでし、おでこにキス、しようとしたが雪春があの真っ黒笑顔で鉄拳する。
避けてちぇー、とぶつくさ言う雪夏。が、以上僕に迫ろうとはせず、まるで何事もなかったかのように教室を去っていった。……あっぶね。デコにキス喰らうとこだった。
雪春にお礼を、と思ったが、彼はいつものように優しく柔らかに笑ってくれただけでお礼拒否した。その態度に妙な距離感を覚えて淋しさを感じたのはきっと気のせいだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます