いまさらな疑問ぽつりして出発
雪春もなんだかんだで堅いからな。最初からフレンドリーっていうかセクハラしまくっていた雪夏に見習わせたい。ホント。マジで。あいつは歩く非常識、でもいい。
そこそこに常識を持っているクセにそれ全部無視って非常識するから困る。常識はいずこ、と問うても「今はどこかへ出張?」とか平然と答えてきそうだし。ヤバい。
「えっと、もしかしてこういうのは不快?」
「ううん。礼儀正しくていいけど。相手が僕なんだから、砕けてくれると嬉しいな」
「……。そう、なんだ。ごめんね。僕、女の子と話したことないからわからなくて」
はあ。ホントに女の子とお付き合いとかしたことないんだなあ、このひと。こんな王子様みたいな見てくれで。……大丈夫かな、僕。その雪春のこと呼び捨てにしてしかも兄弟みんなと仲良くしていたら学校中の女子さんにすっごく睨まれそうなんだけど。
それこそ高校の方から、大学の方からも。うわー、どうしよ、いきなり暗黒仕様だ。僕の学校生活。果たして三兄弟を後ろ盾と捉えるべきか厄介と捉えるべきか。
悩みどころだけど、どこぞの次男が即行で絡んできそうだし、せっかくお世話になる家のひとたち。僕だって仲良くしたくないは嘘になる。仲良くなって恩を返したい。
だから……。
「じゃあ、そろそろいこっか?」
「うん。よろしく、雪春」
「うん。僕らこそよろしくね、杏さん」
「呼び捨てでいいのに」
「ここはちょっと譲れないかな」
あ、さようで。まあ、雪春がもう少し砕けてもいいと判断したら呼び捨てにしてくれるだろう。そう思って部屋をでて玄関へ雪春と並んで歩く。微妙に空気が重たい気もするけど気のせいということにしておこう。てか、雪春が僕相手に緊張する筈ないし。
玄関までの道すがらひとつ確認しておこうと思うので雪春に声をかける。
「なあ、雪は」
「え!?」
「……なんでそんなに驚くの?」
そう。ちょっと声かけようとしただけなのに驚きすぎじゃないか、雪春さん? なんか悪いことした気分になるよ。僕が呆れたように自分を見ているのを感じたのか雪春はもごもご言って黙り、俯く。そしてちら、ちらと僕の方を見てくる。負け気分再び。
どうしてそうお前は女子顔負けなんだ? 女子っていうかそんじょそこらの美少女程度じゃ敵わないくらい可愛いんですけど、ってだから僕男のひとに可愛いはないって。
でも、ホント、綺麗な顔だしな、雪春。女装させたら人気でないかな? って、お世話になっている家の子に僕なにを不埒なこと考えているんだよっ!? バカか。
「えーっと、僕の部屋があるこの階に兄弟三人共部屋があるのか、なっての訊きたいんだけど、訊かない方がいい? あの、雪夏のバカが侵入してきたから、近いのかなと」
「その節はごめん。雪夏兄さんはあのあとで秋兄さんが締めておいてくれたから。今後は部屋に施錠しておいて。僕らが用事の時はノックして名乗るし、用件言うから」
「ありがとう。そうして。あ、とじゃあ、義母さんにはチクらない方向でいっても」
「それはそれ。これはこれ。お母様には秋兄さんがきっちり報告しておくってさ」
……き、気のせいかな? 雪春の王子様的甘め美麗フェイスに真っ黒いものがよぎったような気がす、る? 気のせいにしておいていいかな? 考えるのなんか怖いし。
アレは、アレだ。僕が前通っていた高校で男子生徒に退学通告した時の笑顔と一緒だった。……てゆうか、いまさらなんだけど、結局あの日、三人はなんの用事であの平凡高校に来たんだろう? それぞれに学業があるだろうに、わざわざ出向いてきたのなぜ?
「あの日、さ」
「ん?」
「僕のいた高校へはなんの為に来たの? まさか、不良分子一掃、とか言わな」
「え? そのつもりだったんだけど? あのあとも、杏さんを救急車に乗せたあともあの教室内の男子を数人処分したし。学校中でいえば十数人は退学処分にしたよ?」
……。な、なに。なにを怖いこと真顔で言っているのこいつ。ちょ、本当に怖いんだけど。真顔なだけ余計に。え、ちょ、マジで? どういう理由で? どうして?
き、訊いてもいいものかな? それともこれもまた知らない幸せがあるものかな?
「ちなみに風紀の顧問教員もひとりクビにした。アレで、教師生命は潰えたかな?」
僕がもだもだと無駄で無意味な抵抗していると雪春が無情にも風紀の顧問もクビにした上に教師生命潰えたかな言った。やめろ怖いやめてくれ。ちょっと待て、風紀顧問って石橋のこと? なんで、風紀の顧問教師がクビになるんだ。過剰な体罰もないのに。
そりゃあ僕には普通に当たりがきつかったから僕も庇おうとか思わないけど。でもどうしてクビになるんだ? え、あれ? 平凡高校の教師よりもこいつらの方が権限高い? だから影先生が怯えていたのかな、あの時。雪春になにかあれば一大事って。
「ええと、風紀の顧問クビにした理由は?」
「うん。杏さんみたいな虐待被害者に気を配るどころか罰則三昧だったっていうの幼馴染さんたちから聞いたし、救急車が学校に停まったのに気に留めなかったしね。だから。なるほど、このひと生徒がどうなろうとどうでもいいんだな、って思ったんだ」
あ、朝倉とそれに神薙も、なんてことしちゃってんだよ、お前ら。いくらなんでも退職に追いやるのは酷と違うか? あ、もしかしてクビになるとまで思わなかったのかも知れんな。てか、そうであってくれ。怖いのなんて雪春もとい三兄弟だけで充分だ。
なーんて考えながら到着した玄関で待っていたふたりも一緒に外へでていく。
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