無自覚に自虐ネタしたら……


「では、次だ、杏。携帯端末専門百貨中央店へいくぞ。服は今日中に直して家に送ってくれるそうだ。……ちなみに、だが、下着の方は後日母上とでかけてくれ。私たち男ではわかりかねるのでな。ひとまず肌着と下の下着は頼んで見繕ってもらったが」


「あの、秋雪さん。僕に女性特有の下着が必要そうに見えますか? 断崖絶壁これに?」


「ぶっ!? い、いやそ、う、あ……」


 わあ、噴いちゃったよ、このひと。どうしよう。結構初見のイメージと違って硬派すぎて可愛いかも。って、男のひとに可愛いはないか、僕。失礼だよね、とっても。


 でも、僕の薄いってか、ホント断崖絶壁ばりの胸にブラジャーとか必要なくない?


 収納するべきお肉がいっそ清々しく一切ないですよ? 世の中には背中や脇のお肉寄せて集めてザ・夢の巨乳! なんて謳い文句の商品もあるそうだが、それですら谷間の「た」の字も不可能なくらい全身肉づきが悪いしね、僕。背も低いし、お子ちゃま体型だ。


 むしろ、今時の小学生のが肉づきよかったりするしさ。そういう意味でも僕にはキッズ携帯がお似合い、か? などと悲しいようなこれ以上の出費なくてよさそう、とか思っていると噎せ終わった秋雪さんが赤い顔で咳払いし、先頭に立って店をでていく。


「やるね、杏ちゃん」


「え?」


「秋兄さんが噴きだすなんてレアですよ。まああの、僕ら三人女性とお付き合いしたことないので秋兄さんの反応は妥当ですけど。杏さん、なので自虐でもそういうネタは」


「えー、いいじゃんか、春。杏ちゃん、もっと秋兄貴を困らせちゃいなよ~♪」


「あの、別に僕、わざとやったんじゃ」


「うん。だからこれからもその天然でよろしくね~、って言っているんだ、俺」


 おい。雪夏、アンタ根性悪いぞ。お兄さんに恥ずかしい思いさせろって、しかも天然でよろしくってどういうこと? いえ、雪春が言うようにさっきのは自虐だったけど。たしかに女性経験のないひとに女物の下着ネタはちょっと地雷だったかな? ……んん?


 雪春、さっき結構衝撃的なこと言わなかったかな。おま、その顔と仕草と雰囲気で女性とお付き合いしたことないって言った? しかも、雪夏まで? この軽そうなのも?


 秋雪さんはアレだ、多分女性に厳しい基準とか持っていそうだけど、雪夏なんかすっげえ遊んでいそうなのに。雪春は……うん。とろけるような爽やか笑顔でまわりを虜にしちゃいそうなのに、ね。えええ、なのに、三人共女の子と付き合ったことないの?


「お喋りくらいはするけどそれ以上はないな、俺。ってか秋波送りがすんげえし」


「僕は、普通に喋れるつもりだけどでも雲林院家っていえば財閥の中でも屈指の家だからね。みんな変に遠慮してくるんだ。だから、杏さんが女の子ではじめての話し相手」


 そう、なんだ。財閥御曹司もいろいろと大変なんだな。っていうかやっぱこいつら相当の金持ちってことだよね。うわー、そんな三兄弟と僕ってある意味カオスだな。


 僕、礼節とかへの自信、心得の「こ」の字の一画目すらないんだけど、大丈夫?


 けど、わかんないところは素直に訊いて教えてもらえば、大丈夫、かな? 多分大丈夫だと思っておこう。これ以上考えていても脳味噌とか神経系が沸騰しそうだしね。


 それに今はその携帯の中央店とかに向かわないと場合で雲林院先生の雷が落ちる。


 僕が考えたことはふたりも考えたことのようで両側から手を取られて導かれる。これが噂に聞くエスコート? や、そんな上等なモノじゃなくて連行される宇宙人の図か?


 小学校時代に図書室の本、全制覇した時見たものにちょっとだけ似ている、かも。


 僕がふと、頭おかしなこと考えていると外にでて車のそばで立っていた秋雪さんから弟ふたりに拳骨が落ちた。あれぇ? 雲林院先生の雷以前に秋雪さんの落雷発生?


「ったー、なんだよ、秋兄貴」


「なにをぐずぐずしている? 杏はまだ万全の体じゃない。早く用事を済めて家に帰ってきちんと休ませねばならない。というのがまさか、わからないのか、愚弟共?」


「す、すみません。秋兄さん」


「ちょっと杏ちゃんとお喋りしていただけだろ~? やきもちして殴るなよ~」


「足らんか、雪夏?」


「じゅーぶんでーす」


 ふざけ調子で充分答えた雪夏に秋雪さんは渋面。ついで僕を心配そうに一瞥し、開けられた車に僕を先に乗せて自分も乗り込む。あとに弟ふたりが続く。で、車は即出発。


 しばらく走った車は閑静な住宅街を抜け、一際静かな一画に入って徐行。停車。秋雪さんが車をおりて僕に手を貸してくれるので甘えて借り、おりる。と、目の前に立派な、これまたすごい大きなビルがそびえていた。「キャラメリア・モカ」に負けていない。


 建物の大きさ的に。中の施設がどうかは謎であるが、秋雪さんが僕に手を貸したまま先導してくれる。ついていく僕はビルに入って途端に呆けた。なにここ? 展覧会場?


 つい、そう感想を抱くほどの品揃えのすさまじさに僕はぽかん、だ。新旧それぞれの携帯端末機器を全色全パターン展開している。もちろん、兄貴が持っている某林檎な名前の会社発な端末の最新機器もすべて揃えられている。……展示されてんの見本だけど。


 でも、見本の下に全部、在庫ありって書いてあるから当然現物ちゃんとあるんだ。


「いらっしゃいませ。奥様からご連絡いただいき、お嬢様のご要望に叶うよう、数点ご用意させていただいておりますが、お嬢様ご自身でお好みのものを選ばれますか?」


「い、いえ。あの、すみません。ここまで揃っているのちょっと驚いちゃって」


「ありがとうございます。雲林院様にはいつもご贔屓いただいておりますのでご期待に沿えるよう、常に新旧様々とお品を揃えてございますので、そう言っていただけると」


 喜ばしい、とばかりに微笑んだ七三わけのおじ様は案内の為に恭しく頭をさげる。僕はどうしたらいいのかわからなくて秋雪さんを見る。彼はひとつ頷き、歩きだす。


 なので、僕も彼のあとについていく。気分としては家鴨アヒルの親子だ。彼は、秋雪さんは僕より三十センチは背が高いので余計に僕はこどもチックになってしまう。


 それを言うと三兄弟みんな背が高い。雪春ですら僕とは二十センチ以上差がある。


 いや、僕がちっこいだけなんだけどさ。


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