豪華なお供三人だなー


「私は自宅に杏の部屋をつくらせもとい準備させにいくから、杏は退院手続きが済んだら秋たちについていけ。いき先は、目的地は秋たちが知っているから。な?」


「どこへいくんですか?」


「到着してのお楽しみだ」


 いやあの、不安だから事前にどこへなにしにいくのか、って知りたいんですけど。


 到着してから楽しめるか、かなり怪しいってか不安です、先生。だからちょっとだけでも情報開示がないか、と思って兄弟を見るも三人共どこか申し訳なさそうに視線を逸らしてしまわれた。……なに、言うだけで罰がくだるんですか? そうなのか?


 わかった。じゃあ訊かない。言ってきても聞こえないフリする。だって僕なんかのせいで罰とか不憫すぎる。とか思っている間に看護師さんが僕の着ていたあの高校の制服、綺麗に洗濯されたものを渡してくれたので兄弟を追いだしてもらい、着替える。


 んで、着替えた僕は貴重品入れからあの日の餌代二百円しか入っていないお財布をだして病室で待機。と、女医さんが戻ってきて僕に退院証明を渡してくれた。看護師さんが入院患者用のリストバンドを切る。なんだか、晴れて自由の身、って感じがする。


 僕が着の身着のまま、小銭だけ持った格好で病室の外にでると待っていた雪夏が僕を抱っこしようとして秋雪さんにまたまたまた竹刀でぶたれている。カワイソ……。


「じゃあ、いこうか」


「うん。あの、さ」


「? どうかしました?」


「三人のこと、なんて呼んだらいいかな?」


 僕が遠慮がちに訊いたことに雪春はきょとんと首を傾げる。雪春が呆けている隙に動くのは当然というとアレだけど、こいつ。雪夏が雪春を押し退けて前にでてくる。


 なんだろ、ろくなこと言いそうにない。


「雪夏おにーたん、って」


「却下」


「じゃあ、にーたん」


「自分で言っていて、気持ち悪くないの?」


「んー? 他のやつが言いだしたらキモいけど杏ちゃんなら俺は全然おっけーだよ」


「アンタがオッケーでも僕は気持ち悪い」


 僕ならオッケーって真顔で自分のこと「おにーたん」とか「にーたん」呼べってやっぱり雪夏は頭が相当可哀想なことになっていると思う僕である。いや、僕だけじゃない。雪夏の後ろで秋雪さんも頭抱えている。頭イタい、可哀想なひと見る目だ、アレ。


 だが、秋雪さんはひとまず目的地へいくことを優先したようで歩きだしたから僕もついていく。……ちょっと足下覚束なくて危なっかしいけど雪春がそれとなく隣へ来た。


 僕が転びそうになったなら即フォローできるけどあまり近すぎない絶妙の距離感。


 雪夏も見習えばいいのに。弟のこういうところ。控えめででも優しいところとか。これはアレだね、人見知りにも優しいし、僕みたいな心身傷病等あるひとにもいい。


 近すぎず遠くなくな気遣いがあったかい。……って、結局どう呼んだらいいんだろうっていう僕の疑問は放置? いや、別にいいけどさ。心中で呼ぶ通りに呼ぶから。


 文句がでたらその時、対処しよう。とにかく今は雲林院先生から兄弟三人にくだされた任務ミッション完遂コンプリートしないといけないんでしょ? なにするのか、どこへいくのかもなにもかもわからないままだけど。まあ、いけばわかるっぽいし、いっか。


 ……なんて、余裕ぶっこいていた僕が悪かったのだろう。病院をでて早速ながら僕の目がくたばっていくのがわかったよ。だって、病院の前に停まっている車。


 黒塗りの高級車。僕、車とか興味なかった上に全然無縁で知らなかったけどこの車が高級車だってのはなんとなしにわかった。車体、長っ!? 常に洗車してあるのか、ピッカピカだしさあ。車の窓どころか車体にすら僕の顔がうつっているよ、ちょっと。


 噂とかに聞いただけだけど、これがリムジンとかいうものですか? 兄貴たちがつけていたテレビ番組でセレブが乗る車ってのが僕のイメージだけど。……あり? そういえば雲林院先生がさらっ、とそれらしいこと言わなかったか? 財閥だ、とかさ……。


「乗れ、杏」


 僕がそう、いまさらすぎることで脳味噌遊ばせていると黒服姿の男が車の後部座席の扉を開け、秋雪さんが僕に乗るように、と言ってきた。正直に言おう。乗りたくない。


 だって、乗っちゃったら平民以下でしかない僕の今までがガラガラ崩れ去りそうなんだもん。これは、これは庶民とかそれ以下の人間が乗ってはならないものだよ。


「どうかしましたか?」


「ん。車乗ったこともないの?」


「そ、れもあるけど」


「んー。遠慮しなくてもこれからはこの移動手段が普通になるんだよ、杏ちゃん?」


 それはそうなんだろうけど、もっと他の車はないものか。これだと明らかに尋常じゃないひと乗っている雰囲気なのにいざおりてきたのが僕じゃ、車の威厳もなにもない。


 でも、ここで駄々こねていてもしょうがないので秋雪さんに促されるまま乗り込むんだけど、シートが対面に設置してあるのはどういうこと? とか思っていると秋雪さんが乗り込んで僕の対面座席に腰かけた。で、雪夏と雪春が乗り込み、扉を黒服が閉める。


 その黒服は助手席に乗り込み、運転席の男にいき先を告げている。僕の耳がたしかなら「キャラメリア・モカ」と言った。なんだ、どこへいく? モカって、珈琲屋さん?


 でも、この兄弟が胃腸の弱っている僕をカフェに連れていく、とは思えない。なら、どこへいくのだろうか? お店、なんだろうけど、いったいなに屋さんなのか?


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