ヤバいとか狡いとか意味不明ですが?


「おい、息子共」


「わ。ひとまとめだよ」


「黙れ、夏。秋と春も注意しろ。兄弟だろ」


「うーん、個別に呼んでもあまり大差ないってある意味ですごいな、僕らの名前」


「当然だ。我らは母上の御名前を言い方を変え、その偉大な尊き一文字をいただいているのだから。違うところで呼びわけるしかないのは当たり前。だか、ら……」


 淡々と説明して弟たちに理解させようとしていた長男と思しきお兄さんが突然徐行よろしく停止しはじめた。なに、どうした。なにか事件です? それとも舌噛んだ?


「秋雪兄さん? どう、か、し……」


 ゆきはる曰くあきゆきなるお兄さんはそれまで流暢に喋っていただけにゆきはるも不思議に思ったようだ。どうしたのか、と訊きかけた。で……なぜアンタも固まる?


 長男と三男は僕の方を見ている。なに、いまさら僕の不細工に気づいた? くそう、自分たちがすげえいい顔だからって僕みたいな平凡な面を貶すのは罪だと思っ……。


「うん。やっと笑った」


「ぇ?」


「あん時もずっと、アンタ笑わなかったからさ。まあ、当然だったんだけど。でも、秋兄貴も春も心配していたし。もし、この世に命えて一度も笑ったことなかったらって」


「僕、笑っている……?」


「顔は全然。でも、目に笑顔の影がある。だから秋兄貴も春もびっくりしたんだよ」


 びっくりしたんだ、と言いながらせつかは僕に手を伸ばしてきた。不思議と怖くはなかった。そのまませつかの手は僕の頭をいいコいいコするようにポンポンした。


 ……んだよ、この幼児みたいな、扱い。


 でも、優しい温かい手にポンポンされるのは気持ちよくて僕はつい口が緩む。うじいん先生の「なぬ」を聞いた時みたいに僕の唇がかすかに弧を描いたのがわかった。


 けど、僕が僕笑っている、ってのを自覚した途端に手は離れていった。どうして、と思うと同時にすごく悲しくなってつい、伏せ気味にしていた目をあげ、せつかを見る。


 んで、僕は首を傾げることになった。僕の頭をなでなでしていたせつかが赤い顔で口を押さえていた。なんでしょうか? 発熱と同時に吐き気でももよおしましたか?


「うわー、なにそれ、ヤバ……っ」


「?」


「えーっと、もしかしてわざとだったり?」


 なんのこと言ってんの、このひと。いきなりヤバって言ったと思ったら今度はわざとって訊かれてもさ、それじゃあ、僕のサイドはかなり意味不明なんですよね。ホント。


 僕、アンタの発言に首傾げただけなんですけど。それでわざと? とか訊かれてもなにについてですか、としか訊けないよ? もちっと詳しく説明してくれないかな。


「うへぇ、欠片も自覚ないってなにこのコ。めっちゃくちゃ犯罪級じゃんかさ」


 質問。アンタなに言ってんの? 僕のなにが犯罪だって? ……顔か? 軽犯罪どころか重犯罪級に崩れていると言いたいのか? なに、なんなのこれ、殴っていい?


 ――どぐっ!


「狡いですよ、兄さん!」


 僕が失礼すぎるバカを殴ろうとした瞬間、先んじて天罰がくだった。いや、天罰?


 僕の顔見て赤面していたせつかをあろうことか全力エルボーでどついたのがいた。


 ゆきはるだ。僕が一応、せつかのいき先を見たら一度せつかの頭をごっくんした屑籠がまたせつかの頭を呑んでいた。いやあの、僕なにもゴミをだしていなかったから綺麗なんだけど、そんでも屑籠だからさ、アレ。ちょっと、いやかなり可哀想だな。


 てゆうかね、なにが狡いの? なんも狡いことしていないよ、あのひと。むしろ、病室ここ来てからバイオレンスにばかり遭っている気がするのは僕だけなんだろうか?


「あぁー、そんなぁ」


「? ……なに?」


「……え?」


「いや、え、じゃなくてなに?」


 なんなんだよ、こいつら。兄弟揃って意味わかんね。そんなぁ、ってなにがそんななんだ? なにかショッキングなことでもあったのか? なんにもない筈なんだけど。


「春、どけ。ねえ、もっかい」


 ショッキングなっしんぐ思っていると屑籠頭が迫ってきた。ちょ、ばっちい。


 ……。いや、つかさ、どうして屑籠それかぶっていて正確に接近できるかもわりと謎チックなんですが。それも訊いてはいけないことでしょうかね。ん、へるぷ。


「うらぁ! お母さんを無視すなぁ!」


 ――スパンパンパーン!


 ……あの、えっと、突っ込んでもいい? うじいん先生、ハリセンなんかどこに持っていたの? あと、三兄弟順番に叩いたのなぜ? たしかにせつかとゆきはるは無視ってたかもしれないけど、あきゆき、お兄さん? はちゃんといいコにしていなかった?


 でも、三兄弟、そのことに対して反論はないようだ。それぞれにはたかれた箇所を撫でて僕から目を逸らした。……ごめんください、なにその反応。僕、なにかしたのか?


 そんなあからさまに目、逸らされるようなことした覚え、一切全然ないんだけど。目を逸らされるなんて慣れっこだと思っていたけど、ここのひとはみんな僕の目を見てくれるからついそれに慣れはじめていて三人のに僕は勝手に悲しくなった。


「お前ら、いや、雪夏。お前ひとり杏の笑顔独占ガン見しやがって狡いんじゃ!」


「先生? ごめんなさい。ついていけない」


 独占ガン見ってなにさ。創作言語も甚だしいよ、先生。そして本当に僕はついていけませんのでここら辺で説明なりなんなりを一回くれると非常に嬉しいですね。


 先生、最初すごくクールビューティーな感じがしたのに。いや、僕の勝手なイメージだってのはわかっているんだけど見た目とマジの乖離が激しいから混乱する。


「……んーむ?」


 うん。もうね、説明がないのはわかった。諦めるよ、僕。でも、放置すんのはやめてほしいな。でも、これ以上騒がれるのも困る。僕、そんなににぎやかなの得意じゃない。ひとりでいる時間の方が長かったし。まじめな話、一切慣れていないんだよね。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る