意味不明な展開とヤな予感
意味がわからない。どうしよう。全然ついていけないんですけど。脳味噌ブレイカーですか、アンタたち。いや、まあ、それは置いておいてそもそも何者、なんだ?
「秋雪様、雪夏様、雪春様!」
「ああ、ちょうどよかった。このひと、校門の外に摘まみだしてくれるかな? もうこの高校の関係者じゃないし、なにより女性に暴行働こうとした不届き者だからさ」
「ははっ」
……。いや、あの、どこから突っ込んだらいいのかな、これ? そのね、見た目、お坊ちゃまっぽいとは思っていたけどなにこれ。兄貴たちがつけていた映画とかドラマみたいな黒服にサングラスした男のひとたちが教室に入ってきて三人を様づけ呼び。
んと、そこはかろうじて流すけど摘まみだせ命令に「ははっ」って、ねえ? 時代劇ですか? もしくはなに、このひとたちもしかして本格的にそういうアレなひと?
僕が非常に頭悪いことを考えていると黒服がふたり近づき、加藤の両脇を抱えて教室からでていった。なんだ、これ。いったいなにが起こっているんだよ、これ。
「それで、大丈夫でしたか?」
「なんのこと?」
「……。怖くなかったんですか?」
「別に」
加藤の末路を見たのに僕は素っ気なく返答していた。僕の態度にうじいん三男は驚いた表情。その背後でハゲがこっそりにやっとしたのを僕は見逃していないよ、ハゲ。
加藤に続いて僕が咎められることを期待しているのだ。うーんと、さ、気づいてくれハゲんぼ先生。アンタの後ろでうじいん次男がすげえ悪い顔で笑っていますよ?
アレだね、ハゲ、じゃない影先生は入試の面接で僕が入学したら学校の品位がどうこう言っていた筆頭だし、僕が退学になるかもな機会は小踊りするほど嬉しいってのはわかっている。が、今は表にだすべきじゃない。髪の毛が一斉に撤退して不毛地帯化する。
「くんくん」
……。いや、あの突っ込み待ちですか? って訊いてもいいものかな。またあの獣っぽい次男が僕の後頭部をくんくんしてきてんだけど。なんなのこいつ。……変態?
「アンタ、毎日血、流してんの?」
「! 違っ」
「嘘だね、うん。毎日流血説、図星」
「違うし。変なこと言うな。なんの根拠があってそんな、口からでま、でまかせを」
嘘だ。図星だ。僕が血、流さない日を数える方が早い。一年に片手で数えるほどしかないノー流血デーは親父が学会で留守した上、兄貴たちが女や友達のところに泊まる奇跡が起きないとない、僕の貴重な調整日。心身の調整をする日。折れない為に。
別に折れたら負ける、とかそういうのじゃないけどさ。心が完全に屈服したらまた一段上の常軌を逸した心身への暴力が起こるかもしれないから。せめてもの、慰め。
こんな抵抗をしても起こるものは起こるから、無駄な試みかもしれないけど現状が維持されるならば仕方がない。現状に相応しい僕であればいい話。それだけなんだから。
そう在れ、と認識されたのならばそう在るのみ。すべてが円満に片づくのならばそれが一番いい方法だから。これはいわば、僕なりの処世術。それで毎日ボコにされようと仕方がない。血の供物が必要だと、誰かが言って僕の血で妥協してくれている。
「うーん。なんか沁みついている、におい」
「そんなのどうやってわかるって……」
「におうから」
「そうじゃないし。獣か、アンタ」
「わんわん」
「ねえ、これ、ホント殴っていい?」
犬の鳴き真似とかふざけたことしている次男を殴る許可をどうか誰かください。後ろの方でハゲが真っ青になっているけど知ったこっちゃない。次、ふざけたら……。
「先の話も併せてひとつ訊かせてもらいたい。君はご家族に虐待されているのか?」
僕が立ちあがってわんわんバカと睨めっこしていると市に、総じては国にまで加藤のことで連絡したと言って以降黙っていた長男がいきなり僕の生活の核心を衝いてきた。
でも、僕は次男が先んじて話題を振ってくれていたお陰で答を用意できている。
「ちげーし。ひとの家のこと、しかも変なこと勘繰るんじゃねえ。キモいんだよ」
「そう言え、と言われているのか?」
「な、ん、で、そうなる?」
「……。自覚が、ないのか?」
は? なんのこと言ってんのこいつ。マジで意味わかんね。虐待とか、しかも僕が、とかギャグかよ。ありえないっていうかそんな単語がでてくるなんてそういうアホな本かなにかの読みすぎじゃね? なにがどうして、僕が虐待されている話になるんだ?
てか、自覚ってなんのこと指してんの?
僕がなにを自覚していないって言う?
「手、体、足先まで全部震えているよ」
「……ぇ」
僕が長男の言葉に首を傾げようとした瞬間、見計らったように次男が口を開いた。言葉に僕はきょとんとする以上にギクッとした。さっと体の横に垂れる手を見下ろす。
そこにあったのはありえんくらい振動している僕の手で、誰かが僕に振動装置でも当てているのかと思ったが、んなものない。腕を押さえてみたが震えはおさまらない。
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