第5話 追憶

しき惟呂羽いろはは元々、

可愛くも何ともない少女だった。

小学生の頃に好きだった男子生徒には

気色悪いと言われて振られ、同学年の女子

には、ブスだのブタだの散々悪口を言われたのを鮮明に記憶していた。

その頃はまだ能力が目覚めきっておらず

自分の能力を特別だとも、役に立つとも思っていなかった。

惟呂羽の能力は『魅了』というものだ。

人の目をきつけ意のままに操ることのできる能力。


けれど、そんな役に立ちそうだった能力が

役に立つことは無かった。

能力が目覚めきる前に整形を決意し、

何千・何万とお金を注ぎ込んだ。

綺麗になっていく自分を見るのが楽しみで

お金が少しでも貯まればすぐに整形をした。

そのかいあって、

惟呂羽のもとに想像もしなかった程の量の男達が寄ってくる。本当に何人も何十人も。


幸せだと感じていた絶頂期に『永遠の塔』へ

行くことが決まった。

みんな泣いて喜んでくれたり、

しばしの別れを悲しんでくれたり...。

反応は様々だったが嬉しさしかなかった。

塔の中では砦と、砦のペアの早苗との三人組

で過ごしていた。

もう少し他の人との交流を広げていたならば

初めにこんな結末を迎えることはなかったの

だろうか...。


そんなことを考えようともう遅いのだ。

ただ、最後にこれだけ思う。

人生を一瞬で振り返った後の今だから

改めて思えること。



ーーーーー「私...は、満..足だよ..ぉ」


その言葉を最後に惟呂羽は事切れた。



「フンフンフーン」


鼻歌を歌いながら惟呂羽の部屋に着いた

砦は扉の鍵が空いているのに気づく。

「惟呂羽さーん?無用心っすね〜...って

だんまりっすか?変なにおいするっすけど」


足を踏み入れた。


「え、、、」


足元からべチャっと音がしたと思った。

足元を見た。

赤黒い液体が足にべったりと着いていた。


「ひぃっ!惟呂羽さん!?」


慌てて中へ入る。


「い...ろはさん...?」


部屋の床には血液に塗れた色ノ井惟呂羽が

うつ伏せに横たわっていた。


「いやぁぁぁぁぁ」


その場に尻餅をついた。

腰が抜けて動けない。

当然ずっと見ていたいものではないのに

足が、足以外もびくとも動かない。

震えてしまって当たりの温度が寒くなってきたような気がする。

きっと今誰かが客観的に見たら

さぞ青ざめていることだろう。


「すごい叫び声が聞こえたけどー?」


合歓が姿を見せる。早苗と恋音もいた。


「何事ですか?」



「「「これは...」」」


「砦がやったんですの?」


「ち、違うっ!」


「状況証拠が物語っていますわ」



重苦しい沈黙の空気が場を包んだ。


「自分じゃ...ない」



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